上 下
194 / 200

第2章 132 残り僅かな時間

しおりを挟む
 彩花の6月9日の死は決して免れることが出来ない。

磁場発生装置の運命のラインを辿れば、6月9日に直結している。
だからこそ、俺は…‥。


散らかり放題の研究室に俺と教授はいた。

「上野、又過去に戻るのか?昨日こっちに戻って来たばかりなのに」

教授がPCから顔を上げると、尋ねて来た。

「ええ、当然です。俺には‥‥‥いや、俺と彩花にはもう時間が残されていないのですから」

俺の言葉に、教授の顔が沈痛な表情に変わった。

「……すまないな……上野。俺も色々方法を考えたのだが……南さんの死を回避するにはどうしても大きな代償が必要になる以外方法が見つからなくて……」

「いいんですよ。教授には……本当に感謝しています。彩花に再び会えたのは全て教授のお陰ですから」

「上野……」

「それじゃ、俺そろそろ行きます。教授から与えられた仕事も終わったので」

椅子から立ち上がった。

「上野、俺もついて行こうか?」

教授が声を掛けて来た。

「いえ、いいですよ。教授、何だか忙しそうじゃないですか?また新たな研究でもしているのでしょう?」

「ん?あ、ああ。まぁ……そうだな。そんなところだ」

曖昧に返事をする教授。

「大丈夫です。今回過去に戻るのは6月1日の金曜日と決めてますから」

「成程……週末か。金曜なら南さんと恋人同士の時間を過ごすことが出来るしな?」

教授がニヤニヤしながら俺を見た。

「何とでも言って下さい。それじゃ、行ってきますね」

「おお、行ってこい。恋人同士の時間を楽しんで来い」

何処まで教授はからかいの言葉を俺に向けて来た—―。




****

 
 彩花のアパートに辿り着いたのは20時を過ぎた頃だった。

はやる気持ちを押さえながら、アパートの階段を上る。かつて住んでいた隣の部屋は今はもう誰も住まない空き部屋。
2階に住んでいるのは彩花ただ一人だ。

彩花は既に帰宅しており、窓から部屋の灯りが映りこんでいる。

早速俺はインターホンを押した。


ピンポーン……

インターホンの音が鳴り響き、バタバタと駆け寄る足音が近づいてくる。

そして次の瞬間――

ガチャッ!

目の前の扉が大きく開かれ、息を切らせた彩花が現れた。

「こんばんは。彩花。…ごめん、待っただろう?」

笑みを浮かべながら愛しい彼女に声を掛ける。

「も、勿論…待っていたに決まってる…!」

最後まで彩花の言葉を聞かず、俺は彼女を引き寄せると柔らかな唇にキスをした。

彩花……好きだ。
愛している。

言葉の代わりに、彼女の舌をからめとり……深く、いつまでも俺たちは甘いキスを交わし続けた――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

そこは優しい悪魔の腕の中

真木
恋愛
極道の義兄に引き取られ、守られて育った遥花。檻のような愛情に囲まれていても、彼女は恋をしてしまった。悪いひとたちだけの、恋物語。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

イケメン御曹司、地味子へのストーカー始めました 〜マイナス余命1日〜

和泉杏咲
恋愛
表紙イラストは「帳カオル」様に描いていただきました……!眼福です(´ω`) https://twitter.com/tobari_kaoru ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 私は間も無く死ぬ。だから、彼に別れを告げたいのだ。それなのに…… なぜ、私だけがこんな目に遭うのか。 なぜ、私だけにこんなに執着するのか。 私は間も無く死んでしまう。 どうか、私のことは忘れて……。 だから私は、あえて言うの。 バイバイって。 死を覚悟した少女と、彼女を一途(?)に追いかけた少年の追いかけっこの終わりの始まりのお話。 <登場人物> 矢部雪穂:ガリ勉してエリート中学校に入学した努力少女。小説家志望 悠木 清:雪穂のクラスメイト。金持ち&ギフテッドと呼ばれるほどの天才奇人イケメン御曹司 山田:清に仕えるスーパー執事

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

大好きな背中

詩織
恋愛
4年付き合ってた彼氏に振られて、同僚に合コンに誘われた。 あまり合コンなんか参加したことないから何話したらいいのか… 同じように困ってる男性が1人いた

ヴァンパイア♡ラブどっきゅ〜ん!

田口夏乃子
恋愛
ヴァンパイア♡ラブセカンドシーズンスタート♪ 真莉亜とジュンブライトは、ついにカップルになり、何事もなく、平和に過ごせる……かと思ったが、今度は2人の前に、なんと!未来からやってきた真莉亜とジュンブライトの子供、道華が現れた! 道華が未来からやってきた理由は、衝撃な理由で!? さらにさらに!クリスの双子の妹や、リリアを知る、謎の女剣士、リリアの幼なじみの天然イケメン医者や、あのキャラも人間界にやってきて、満月荘は大騒ぎに! ジュンブライトと静かな交際をしたいです……。 ※小学校6年生の頃から書いていた小説の第2弾!amebaでも公開していて、ブログの方が結構進んでます(笑)

恋とキスは背伸びして

葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員 成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長 年齢差 9歳 身長差 22㎝ 役職 雲泥の差 この違い、恋愛には大きな壁? そして同期の卓の存在 異性の親友は成立する? 数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの 二人の恋の物語

処理中です...