192 / 200
第2章 130 悲しみの抱擁
しおりを挟む
卓也を引き取って育てたいだなんて……。
そこまで真剣に考えてくれていたのか?今までも……この先もずっと……?
だが、俺はその願いを叶えてやることは出来ない。
何故なら、6月9日で俺はこの世界からいなくなってしまうからだ。
辛い気持ちを押し隠しつつ、何とか返事をしてごまかすことが出来た。
彩花……嘘をついてごめんと、心の中で謝罪しながら。
そしてこの夜、俺たちは2人一緒に休憩室のリクライニングソファで2人並んで眠りについた。
隣りで眠る彩花の寝息が俺の心を安らげてくれる。
この夜も幸せな気分で眠ることが出来た――。
****
翌日は朝食はスパのバイキング料理を食べ、もう一度温泉に入ると岐路に着いた。
その後、卓也の部屋に戻ると再びアパートの整理を始め…‥午後4時には部屋の中は全ての荷物は無くなっていた。
「…何にも無くなってしまったね…」
「うん、そうだな…」
アパートの整理の仕事は終わった。俺も帰らなくては。
「俺も…そろそろ帰るよ」
「…そう、分かった。拓也さんにも…都合っていうものがあるものね…」
彩花の声が寂しそうだった。
「うん…ごめん。アパートの解約手続きもあるし…」
「あ、あの…それって、私も行ったら駄目かな?」
「彩花……」
それは無理な願いだった。解約手続きの後はそのまま俺は元の時代に帰る予定だからだ。
「あ…ご、ごめんね。今の台詞は忘れて。うん、私…もう自分の部屋に戻るよ。それじゃ…」
そして彩花は俺の前を通り過ぎようとした。
「彩花っ!」
気付けば背後から強く抱き締めていた。
「そんな顔…しないでくれ…彩花にそんな顔されると…俺はどうしたらいいのか…分からなくなってしまう…訳は言えないけど…あまり自由にここに来ることが出来ないんだ…。本当に…ごめん…っ!」
俺は涙声で訴えた。
「た、拓也さん…わ、私…」
「ごめん…訳分からないこと…言ってしまっているよな…?でも…これだけは信じてくれ。俺が好きなのは他の誰でも無い。彩花だけなんだ。…絶対人違いなんかじゃないから…」
彩花は俺の気持ちを疑っている。他の誰かと自分を重ねて見ているのではないかと。
俺が見て来たのは色々な世界で生きていた彩花だけだと、本当のことを打ち明けられればどんなにかいいのに。
「た、拓也さ…んっ」
彩花が俺の方を振り向いたので、キスして言葉を塞いだ。彩花の舌を絡め、吸い上げ言葉ごと奪った。
何も聞かれたくなかった為に……。
やがて彩花から顔を離すと、頬を両手で包み込んだ。彩花の目は潤み……頬は少し赤らんでいる。
「彩花、また…絶対会いに来るから…それまで待っていてくれるか?」
「うん…待ってるよ…」
「ありがとう、彩花」
愛しい彩花を再び強く抱き締めた。
俺も本当は別れたくない、ずっとずっと一緒にいたい。
だけど……6月9日を誰かの犠牲で終わらせなければ、彩花を救うことが出来ない。
教授にずっとそう言われ続けていた。
「じゃあな、彩花」
俺は彩花の身体を離した。
「うん…又ね。拓也さん」
彩花は俺の顔を見ることなく、玄関の方を振り向くと去って行った。
彼女の声は……涙声だった――。
そこまで真剣に考えてくれていたのか?今までも……この先もずっと……?
だが、俺はその願いを叶えてやることは出来ない。
何故なら、6月9日で俺はこの世界からいなくなってしまうからだ。
辛い気持ちを押し隠しつつ、何とか返事をしてごまかすことが出来た。
彩花……嘘をついてごめんと、心の中で謝罪しながら。
そしてこの夜、俺たちは2人一緒に休憩室のリクライニングソファで2人並んで眠りについた。
隣りで眠る彩花の寝息が俺の心を安らげてくれる。
この夜も幸せな気分で眠ることが出来た――。
****
翌日は朝食はスパのバイキング料理を食べ、もう一度温泉に入ると岐路に着いた。
その後、卓也の部屋に戻ると再びアパートの整理を始め…‥午後4時には部屋の中は全ての荷物は無くなっていた。
「…何にも無くなってしまったね…」
「うん、そうだな…」
アパートの整理の仕事は終わった。俺も帰らなくては。
「俺も…そろそろ帰るよ」
「…そう、分かった。拓也さんにも…都合っていうものがあるものね…」
彩花の声が寂しそうだった。
「うん…ごめん。アパートの解約手続きもあるし…」
「あ、あの…それって、私も行ったら駄目かな?」
「彩花……」
それは無理な願いだった。解約手続きの後はそのまま俺は元の時代に帰る予定だからだ。
「あ…ご、ごめんね。今の台詞は忘れて。うん、私…もう自分の部屋に戻るよ。それじゃ…」
そして彩花は俺の前を通り過ぎようとした。
「彩花っ!」
気付けば背後から強く抱き締めていた。
「そんな顔…しないでくれ…彩花にそんな顔されると…俺はどうしたらいいのか…分からなくなってしまう…訳は言えないけど…あまり自由にここに来ることが出来ないんだ…。本当に…ごめん…っ!」
俺は涙声で訴えた。
「た、拓也さん…わ、私…」
「ごめん…訳分からないこと…言ってしまっているよな…?でも…これだけは信じてくれ。俺が好きなのは他の誰でも無い。彩花だけなんだ。…絶対人違いなんかじゃないから…」
彩花は俺の気持ちを疑っている。他の誰かと自分を重ねて見ているのではないかと。
俺が見て来たのは色々な世界で生きていた彩花だけだと、本当のことを打ち明けられればどんなにかいいのに。
「た、拓也さ…んっ」
彩花が俺の方を振り向いたので、キスして言葉を塞いだ。彩花の舌を絡め、吸い上げ言葉ごと奪った。
何も聞かれたくなかった為に……。
やがて彩花から顔を離すと、頬を両手で包み込んだ。彩花の目は潤み……頬は少し赤らんでいる。
「彩花、また…絶対会いに来るから…それまで待っていてくれるか?」
「うん…待ってるよ…」
「ありがとう、彩花」
愛しい彩花を再び強く抱き締めた。
俺も本当は別れたくない、ずっとずっと一緒にいたい。
だけど……6月9日を誰かの犠牲で終わらせなければ、彩花を救うことが出来ない。
教授にずっとそう言われ続けていた。
「じゃあな、彩花」
俺は彩花の身体を離した。
「うん…又ね。拓也さん」
彩花は俺の顔を見ることなく、玄関の方を振り向くと去って行った。
彼女の声は……涙声だった――。
0
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる