6月9日はきっと晴れるから

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第2章 120 彩花からのプロポーズ

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 俺たちは今向かい合わせでコーヒーを飲んでいた。

「ねぇ、たっくんは…これからどうなるのかな?」

神妙な顔で彩花が尋ねてくる。

「卓也は、今日は1日警察の方で預かって貰えるだろう。そして…明日からは取り敢えず児童養護施設に入れられる事になるだろうな」

そう……今迄何度も何度も同じ経験をしてきた俺には卓也がどうなるか分かりきっていた。

「たっくん…。私が引き取りたかったのに…」

え?
その言葉に耳を疑った。今迄繰り返してきた過去の世界で、彩花は一度もそんな台詞を言ったことが無かった。
これは初めてのことだった。

だけど……。

「いくら何でもそれは無理だ。だいたい独身女性では養子縁組する資格がないし、実の親の許可がいる」

そんなのは所詮夢物語に過ぎない。

「そんな…っ!あんな…あんな父親、たっくんを育てる権利は無いよっ!自分の子供に酷い暴力を振るうなんて…!父親が子供を殺しかねないような状況なら、そんなの適用されないんじゃないのっ?!」

「あ、彩花…」

彩花の取り乱した様子に戸惑ってしまった。

「あ…ご、ごめんなさい…。つ、つい…」

「いや…別にいいよ。それだけ、彩花が卓也のことを思ってくれているって証拠だろう?きっと…卓也は感謝しているよ」

俺は今も彩花に感謝しか無い。
無意識に愛しい彩花の頭を撫でていた。

「だけど児相になんて…私じゃ…どうあってもたっくんを引き取れないのね…?」

「…そうだな」

独身で一人暮らしの女性が子供を引き取れるはずがない。
すると、何故か彩花がじっと俺を見つめてきた。

「彩花?どうした?」

「…ねぇ、拓也さん」

不意に切羽詰まった様子で声を掛けてきた。

「ん?」

「拓也さんは…。今、恋人はいないんだよね?」

「あ、ああ…。今はもう…いないよ」

そうだ。
俺は……お前を何度も何度も失ってきたんだ。
しかし、彩花は次の瞬間とんでもないことを言ってきた。

「ねぇ、それなら…私と結婚してくれる?」

「は…はぁっ?!あ、彩花…!い、一体何を言い出すんだよ!」

まさか彩花からプロポーズッ?!
俺たちは恋人同士でもないのにっ?!思わず耳を疑う。

「お願い…私、たっくんを助けてあげたいの…。たっくんが18歳になるまでの間…書類上だけの結婚でいいから…私と結婚してもらえない?そうすればたっくんを引き取る事が出来るもの」

「あ、彩花…」

まるで夢みたいだ。
どうしよう、あまりに幸せすぎて自分でも顔が赤らんでくるのが分かる。

「あ、あの…だ、駄目…かな…」

伏し目がちに彩花が再度尋ねてきた。

「彩花…」

だけど、俺と彩花の結末はもう分かりきっていた。

6月9日……彩花は死ぬ。
けれど、今回はそうはさせない。自分の身を犠牲にして……彩花の命を救うんだ。
だから幸せな生活を夢見てはいけないんだ。
強く自分の心に言い聞かせた。

「ご、ごめんなさい…変な事…言って…。やっぱり…たっくんの養子縁組の話は…」

「2ヶ月後…」

気づけば無意識に返事をしていた。

「え?」

「2ヶ月後の…6月9日に…返事してもいいかな?」

この日、俺と彩花の運命が決まる。
もし……本当に仮に、2人とも無事にこの日を生き残ることが出来れば俺はもう二度と彩花の側から離れない。

「え?6月9日…?それって…?」

「ああ、卓也の…誕生日だ。それを過ぎたら…養子縁組の話…しないか?」

これは一種の賭けだ。

「う、うん…いいよ」

彩花は俺の言葉に頷いた――。


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