6月9日はきっと晴れるから

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第2章 108 苛立つ彩花

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 彩花の務める会社近くの自販機の隣で俺は彩花が会社から出てくるのを待った。

きっと彩花は子供時代の俺を案じているかも知れないから、安心させてやらなければ。
それに、今夜は伝えなければならないことがある。

やがて、彩花が職場から出てきた。
そして俺を見ると目を見開いて足を止める。

 「え…?」

「あ、お帰り。仕事終わったんだね」

彩花を安心させる為に笑みを浮かべて声を掛けた。

「え…?こんなところで何をしているのですか?」

警戒心顕に彩花が尋ねてくる。

「うん、待っていたんだよ。仕事が終わるのを」

「待っていたって…ひょっとして…」

まずい!またストーカーに間違われたらたまったものじゃない。

「あー、違う違う!ストーカーだとか…そんな怪しい人間じゃないから安心して」

「一体、何の用ですか…?」

「うん、実は俺…こういう者なんだ」

この日の為に用意しておいた偽の名刺を差し出した。

「上条…拓也…?興信所…?」

「何?どうかした?」

「いえ、貴方は興信所の人だったのですね。それで?興信所の人が一体私に何の用でしょうか?用件なら手短にしてもらえませんか?私、急いで帰らなければならないんです」

どうやら信じてくれたようだが……妙に冷たい言い方に心が傷つく。

彩花……。
お前は知らないだろうけど、俺たちは様々な過去で恋人同士で……深く愛し合っていたんだぞ…?

そんな気持ちを押し込めて、要件だけを伝えた。

「あの少年の事を気にしているんだろう?だったら安心していいよ。今夜は何も起こらないから」

「え…?」

「あの…どうして、今夜は何もおこらないと言う事が貴方に分るのですか?」

警戒心顕に彩花が尋ねてくる。
それはそうだろうな……。だが、俺には分かる。ここは俺にとって21回目の過去だから。

「それはね、俺が興信所の人間だからだよ。実はある人物から…卓也君の事が心配だから逐一報告をして欲しいって頼まれているんだ」

「え…?それは誰に頼まれたんですか?」

「おっと、俺が話せるのはここまでだよ。依頼主の事は話せないからね」

彩花が突っ込んで尋ねてくるが…これ以上話せばボロが出てきそうだ。

「たっくんの事を調べているから、今夜は何もおこらないって言えるのですか?」

「そうだよ。対象者は卓也君だけど、当然そうなってくると彼に関わる周囲の人達も調査対象になるからね。それで…卓也君の父親は、今夜は帰って来ない。アルバイトでガードマンの仕事に行っているからね」

これで信じて貰えるだろうか?

「え…?アルバイト…?一応働くことはあるのですね」

「あ、ああ。確かにあんな男だけどね。働かないと生きていけないから、生活がぎりぎりになったら臨時のアルバイトに行く…そんな感じさ。だけど…普通の父親のように働いたり、子供の世話なんか見やしない…最低な男だ」

つい、自分の感情がこもってしまう。

「たっくんの事、心配しているんですね」

「え?あ、ああ。まあね…」

何だか彩花が苛立ってきた気がする。

「だったら…何故ですか?」

「え?」

「たっくんを監視していたなら、あの子がどれだけ父親から酷い目に遭わされているのか見てきたはずですよね?どうして助けてあげようとしないのですかっ?」

彩花…そこまで俺を心配してくれているのか?

「それは…俺はあくまで彼の監視をして報告をするだけの依頼を受けて…いるから?かな…」

「…ええ。分りますよ。つまりは…虐待を受けている子供を助けずに見て見ぬふりをしているって事ですよね?関わるのが面倒臭いって事ですよね?」

駄目だ、話せば話すほど彩花が俺に怒りを募らせていく。

「いや、俺は別にそこまでは…」

「たっくんは今夜は1人で過ごすって事ですよね?誰もいない部屋で…ひとりきりで…しかもまだ、たった10歳の子供なのに!」

「そ、それは…」

思わず彩花の気迫に圧される。すると彩花は何も言わず、俺の脇を通り抜けて駅へと歩き始めた。

駄目だ!今駅は……っ!

「あ、ちょっと待って!俺が今夜、君の所へ来たのは…!」

しかし、彩花は俺の静止など聞こえないかのように歩き去っていく。

「彩花っ!」

仕方ない…俺は彼女の後を追うことにした――。
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