上 下
152 / 200

第2章 92 言葉遊び

しおりを挟む
「俺のスマホから彩花の会社にこのメール送りつけといてやる。これを目にしたら奴はこんなのは誰かの悪戯に決まってると言うかもしれないが、少なくとも社員たちは疑いの目を向けて来るに決まっている。何、仮に俺だとばれたって構うものか。彩花のメールアドレスを転送してもらったと言って、元々彩花に送り付けて来たメールを証拠として見せてやればいいんだから」

「でも…そんなことをしたら拓也さんに迷惑がかかるんじゃ‥‥」

彩花は心配そうな顔で俺を見る。

「いいんだよ、俺のことは。彩花の役に立てればどうってことないさ」

「拓哉さん‥‥」

「よし、それじゃやるか」

早速彩花が転送してきたメールを会社のアドレスを打ち込んで送信した。

「…よし、これで大丈夫だ。後はこのままにしておこう。それで彩花、明日は会社を休め。朝になったら上司に連絡を入れればいいだろう?」

「う、うん‥‥」

それでもまだ彩花は不安そうだ。

「大丈夫だって、俺がついてるんだからもっと気を大きく持てよ。いざとなったら俺が彩花の前に立って盾になってやるから」

そう、かつて彩花が自分の命を犠牲にしてまで俺を助けてくれたように…。

「でも、それでも‥‥」

彩花は肩を震わせて俺を見つめる。

「全く、本当に彩花は心配性だな。よし、もっと酒を持ってくるか」

「え?い、いいよ。もう充分だから」

けれど彩花の制止を聞かず、キッチンに行くと早速冷蔵庫から追加のビールを取り出すと部屋へ持ってきた。

「ほら、もっと飲めよ。飲んで…あれこれ考えるのは忘れろ」

プルタブを開けると、彩花の前にビールを置いた。

「う、うん。分かった、飲むよ……」

彩花は殻になったビールをテーブルの上に置くと、新しい缶ビールに手を伸ばした。




****


「ねぇ…拓也さん…」

2本目の缶ビールですっかり酔ってしまった彩花が赤らんだ頬で声を掛けて来た。

「何だ?」

すっかり出来上がってしまった彩花が心配になった俺は場所を移動して、彩花の隣に座っていた。

「どうして…会って間もない私に‥‥そんなに親切にしてくれるの……?」

首まで赤くなり、アルコールで潤んだ瞳で彩花は俺を見つめて来た。
その姿があまりに色気があり、思わずドキリとした。

彩花は酔っている‥‥。
なら、今なら‥‥俺の気持ちを伝えても大丈夫だろうか?きっとこの様子では明日になれば俺の言葉など忘れてしまうだろうから。

「それは‥‥彩花のことが好きだからさ。初めて会った時からずっと‥‥」

そう、俺は多分15年前から彩花のことがずっと好きだったんだ。
だけど、こんな台詞‥‥お互いシラフの状態では決して言葉に出来ないだろう。

「それ……本当?」

彩花が潤んだ瞳で俺に寄り掛かって来た。

「ああ、本当だ。一目惚れしたのさ」

「良かった…私もそうだったんだ」

「え?」

その言葉に驚いた。

「彩花……今、何て言ったんだ?」

「うん。私もね……実は拓哉さんを始めて見た時から…いいなって思っていたんだ」

彩花は…酔ってるだけだ。
そして俺も酔っている。これは、酒の上での単なる言葉遊びなんだ。
そう言い聞かせながらも、自分の心臓の鼓動は先ほどから煩い程に高鳴っている。

「彩花‥‥」

すると彩花が俺をじっと見つめ…。

「拓哉さん…好き…」

そして彩花は俺の胸に顔をうずめて来た―—。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件

桜 偉村
恋愛
 別にいいんじゃないんですか? 上手くならなくても——。  後輩マネージャーのその一言が、彼の人生を変えた。  全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。  練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。  武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。  だから、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。  そうすれば、香奈は自分のモノになると思っていたから。  武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。  しかし、そこに香奈が現れる。  成り行きで香奈を家に上げた巧だが、なぜか彼女はその後も彼の家を訪れるようになって——。 「これは警告だよ」 「勘違いしないんでしょ?」 「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」 「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」  甘酸っぱくて、爽やかで、焦れったくて、クスッと笑えて……  オレンジジュース(のような青春)が好きな人必見の現代ラブコメ、ここに開幕! ※これより下では今後のストーリーの大まかな流れについて記載しています。 「話のなんとなくの流れや雰囲気を抑えておきたい」「ざまぁ展開がいつになるのか知りたい!」という方のみご一読ください。 【今後の大まかな流れ】 第1話、第2話でざまぁの伏線が作られます。 第1話はざまぁへの伏線というよりはラブコメ要素が強いので、「早くざまぁ展開見たい!」という方はサラッと読んでいただいて構いません! 本格的なざまぁが行われるのは第15話前後を予定しています。どうかお楽しみに! また、特に第4話からは基本的にラブコメ展開が続きます。シリアス展開はないので、ほっこりしつつ甘さも補充できます! ※最初のざまぁが行われた後も基本はラブコメしつつ、ちょくちょくざまぁ要素も入れていこうかなと思っています。 少しでも「面白いな」「続きが気になる」と思った方は、ざっと内容を把握しつつ第20話、いえ第2話くらいまでお読みいただけると嬉しいです! ※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。 ※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

お酒の席でナンパした相手がまさかの婚約者でした 〜政略結婚のはずだけど、めちゃくちゃ溺愛されてます〜

Adria
恋愛
イタリアに留学し、そのまま就職して楽しい生活を送っていた私は、父からの婚約者を紹介するから帰国しろという言葉を無視し、友人と楽しくお酒を飲んでいた。けれど、そのお酒の場で出会った人はその婚約者で――しかも私を初恋だと言う。 結婚する気のない私と、私を好きすぎて追いかけてきたストーカー気味な彼。 ひょんなことから一緒にイタリアの各地を巡りながら、彼は私が幼少期から抱えていたものを解決してくれた。 気がついた時にはかけがえのない人になっていて―― 2023.6.12 全話改稿しました 表紙絵/灰田様 《エブリスタとムーンにも投稿しています》

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

元カノと復縁する方法

なとみ
恋愛
「別れよっか」 同棲して1年ちょっとの榛名旭(はるな あさひ)に、ある日別れを告げられた無自覚男の瀬戸口颯(せとぐち そう)。 会社の同僚でもある二人の付き合いは、突然終わりを迎える。 自分の気持ちを振り返りながら、復縁に向けて頑張るお話。 表紙はまるぶち銀河様からの頂き物です。素敵です!

処理中です...