6月9日はきっと晴れるから

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第2章 85 怯える彩花

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「彩花‥‥」

俺に縋り付き、震えている彩花が愛しくてたまらなかった。
気付いてみれば、彩花を強く抱きしめて髪を優しく撫でていた。

「大丈夫だ‥‥俺があんな奴から守ってやる。だから安心しろ」

「拓也さん…」

彩花が顔を上げた。
その目には…涙が浮かんでいる。

「とにかく……一度部屋に入らないか?」
「でも……」

躊躇いがちに頷く彩花。
確かに1人暮らしの男の部屋に入るのは躊躇われても仕方ないかもしれない。

「俺は彩花が心配なんだよ。まだあの男がこの辺りをうろついているかもしれないし」

「え?!そ、それは‥‥!」

彩花の小さな身体がビクリと震える。

「ごめん。別に怖がらせるつもりで言ったわけじゃないんだ。ただ、ああいうタイプの男は何をしでかすか分かったものじゃないからさ」

それに……絶対に口に出すことは出来ないけれども、彩花は別の世界であいつに殺されている。別れ話の口論の末に。

「う、うん……そ、それじゃ…お邪魔します…」

「うん。入って」

彩花は遠慮がちに玄関から上がって来た。
その様子を見ながら、こんな時だと言うのに不謹慎にも俺の胸は躍っていた。
何しろ、愛しい女性が初めて部屋にあがってきたのだから。


部屋に入るなり、彩花は室内を見渡した。

「この部屋が拓也さんの住んでいる部屋なんだ」

「ああ、引っ越してきたばかりで殆ど荷物は無いけどね。今コーヒーをいれるから適当に座って待っててくれよ」

狭いキッチンで電気湯沸かしポットに水を入れながら彩花に声を掛けた。

「え……?いいの?勝手に押しかけて部屋にまで上がってしまったのに」

「いいんだって。第一、俺は2度も彩花に食事を作って貰ってるんだから。コーヒー位淹れさせてくれよ」

カチンとスイッチを押してセットすると彩花を見た。

「うん…ありがとう。それじゃ、お言葉に甘えて…」

彩花は遠慮がちにリビングとして使われている部屋のセンターテーブルの前に座ると、落ち着かない様子でチラチラと窓の方を見つめている。

その時、カチンと音が鳴ってお湯が湧いた。

マグカップにインスタントコーヒーを入れて、お湯を注ぐと彩花の座るテーブルの前に置いた。

「どうぞ」
「あ、ありがとう」

湯気立つカップを手にした彩花はホウとため息を着くと一口飲んだ。

「…温まる…」

ポツリとつぶやく彩花に尋ねた。

「どうだ?まだあの男…うろついている様子はあるか?」

「……分からない…」

彩花は首を振り…次に俺をじっと見つめてきた。

「拓也さん……」
「何だ?」

コーヒーを飲みながら返事をする。

「今の男の人の話……聞いてくれる?」
「聞かせてくれるのか?」

そうだ、まずはあの男のことを知らなければ……。
もし万一この世界で彩花を救うのに失敗したら…。

勿論そんな事にならないことを祈るが、そうなった場合……あの椎名という男のことを知っておかなければ、何も対処出来ないからな――。



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