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第2章 73 懐かしい部屋
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タクシーで30分ばかりの道のりはあっという間だった。
俺と彩花は始終楽し気に話をしていたので、タクシー運転手はさぞかし迷惑に思ったかもしれない。
何しろタクシー代を支払うときに運転手に「随分お話が盛り上がっていましたね」等と言われてしまうくらいだったのだから。
…やはり今度彩花と『 児童養護施設こども園』に来るときはレンタカーでも借りようか…?
本気でそう思うくらいに――。
「あの‥‥私、本当にお金払わなくて良かったの?」
タクシーが走り去ると、彩花は遠慮がちに尋ねて来た。
「いいんだよ。だって元々ここへはタクシーで来る予定だったんだから、何も気にしないでくれよ」
「でも……」
尚も何か言いたげな彩花。
そこで俺はつい調子に乗ってしまった。
「だったら、今度何か俺の為に料理を作ってくれたら嬉しいな。この間のカレーすごく美味しかったから」
「え…?」
すると俺の言葉に彩花が怪訝そうな表情を浮かべた。
そこで一気に気持ちが現実に引き戻されていく。
そうだった、うっかりしていた。こんな風にため口で話しているものだから、すっかり勘違いしてしまっていたのだ。
俺たちは恋人同士でも何でも無い、ただのご近所さんなのに……。
「あ~無し無し。今のはほんの冗談だから気にしないでくれ。とにかく、タクシー代のことなんか気にするなって。よし、それじゃ行こうぜ」
そして並んで歩き始めると彩花が声を掛けてきた。
「……いいよ」
「え?何が?」
「だから……さっきの話」
「さっきの話って‥…あ!もしかして料理の話か?」
「うん、そうだよ。それじゃ……早速だけど今夜、作ろうか?」
「え……?ほ、本当に‥‥?」
嘘だろう?
夢じゃないよな?
「うん、本当だよ。それじゃ……たっくんとの面会が終わったら、帰りスーパーで買い物して帰るよ」
「う、うん…。わ、分かった。よし、それじゃ早く卓也に会いに行こうぜ」
「うん」
そして俺たちは児童相談所の扉を開けた――。
****
こちらでお待ち下さいと言われ、俺と彩花が通された部屋は面談室だった。
懐かしいな‥‥。この部屋…。
俺がこの施設に入所したばかりの頃、毎週末彩花は俺に会いに来てくれた。
時にはこの面談室で会って話をしたこともある。
けれど、彩花が死んでしまった後はこの部屋を使うことは全く無くなってしまった。
つまり…俺には彩花以外は面会に来てくれるような人は誰もいなかったと言うことだ。
その時―
「失礼します」
部屋の扉がガラリと開かれ、養護施設の職員女性が卓也を連れて部屋に現れた――。
俺と彩花は始終楽し気に話をしていたので、タクシー運転手はさぞかし迷惑に思ったかもしれない。
何しろタクシー代を支払うときに運転手に「随分お話が盛り上がっていましたね」等と言われてしまうくらいだったのだから。
…やはり今度彩花と『 児童養護施設こども園』に来るときはレンタカーでも借りようか…?
本気でそう思うくらいに――。
「あの‥‥私、本当にお金払わなくて良かったの?」
タクシーが走り去ると、彩花は遠慮がちに尋ねて来た。
「いいんだよ。だって元々ここへはタクシーで来る予定だったんだから、何も気にしないでくれよ」
「でも……」
尚も何か言いたげな彩花。
そこで俺はつい調子に乗ってしまった。
「だったら、今度何か俺の為に料理を作ってくれたら嬉しいな。この間のカレーすごく美味しかったから」
「え…?」
すると俺の言葉に彩花が怪訝そうな表情を浮かべた。
そこで一気に気持ちが現実に引き戻されていく。
そうだった、うっかりしていた。こんな風にため口で話しているものだから、すっかり勘違いしてしまっていたのだ。
俺たちは恋人同士でも何でも無い、ただのご近所さんなのに……。
「あ~無し無し。今のはほんの冗談だから気にしないでくれ。とにかく、タクシー代のことなんか気にするなって。よし、それじゃ行こうぜ」
そして並んで歩き始めると彩花が声を掛けてきた。
「……いいよ」
「え?何が?」
「だから……さっきの話」
「さっきの話って‥…あ!もしかして料理の話か?」
「うん、そうだよ。それじゃ……早速だけど今夜、作ろうか?」
「え……?ほ、本当に‥‥?」
嘘だろう?
夢じゃないよな?
「うん、本当だよ。それじゃ……たっくんとの面会が終わったら、帰りスーパーで買い物して帰るよ」
「う、うん…。わ、分かった。よし、それじゃ早く卓也に会いに行こうぜ」
「うん」
そして俺たちは児童相談所の扉を開けた――。
****
こちらでお待ち下さいと言われ、俺と彩花が通された部屋は面談室だった。
懐かしいな‥‥。この部屋…。
俺がこの施設に入所したばかりの頃、毎週末彩花は俺に会いに来てくれた。
時にはこの面談室で会って話をしたこともある。
けれど、彩花が死んでしまった後はこの部屋を使うことは全く無くなってしまった。
つまり…俺には彩花以外は面会に来てくれるような人は誰もいなかったと言うことだ。
その時―
「失礼します」
部屋の扉がガラリと開かれ、養護施設の職員女性が卓也を連れて部屋に現れた――。
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