6月9日はきっと晴れるから

結城芙由奈@コミカライズ発売中

文字の大きさ
上 下
114 / 200

第2章 54 尾行?

しおりを挟む
 辺りの空気が変わった


「…着いたか」

目を開けると、こちらの世界で使用しているスマホをリュックから取り出した。時刻は9時だった。

「…よし、いつものようにマンスリーマンションの契約をしてくるか」

そして、駅前の不動産に足を向けた―。


****

「どうもありがとうございました」

不動産店員に見送られ、店を後にする。今回も不動産を紹介してきたのは『田中』となのる男性社員だった。

「接客してくるのは、毎回同じ男なんだな…」

そのことが、少しだけ心を不安にさせる。
また同じ歴史を繰り返してしまうことになるのではないかと…。

「いや、駄目だ!最初からそんな弱気な態度でどうする?今度こそ俺は彩花と恋人同士になって、彼女の命を救うんだろう?!」

気合を入れて自分の両頬をピシャリと叩き…町中を歩く人々の注目の的になってしまった―。


****


 不動産の店を出て15分ほど歩き、いつものマンスリーマンションに到着した。

「まだこっちの世界の俺は引っ越してきていないのか…」

向かい側のアパートには引っ越しの運送トラックの姿はない。そしてこの世界の彩花はまだ生きている…。

「彩花…早くお前の元気な姿が見たいよ…」

ポツリと呟くと、自分が借りている部屋へ足を向けた―。


持参してきたリュックから荷物を取り出し、整理していると向かい側の道路に車が停車する音が聞こえた。

「ついに来たか?!」

窓から外を眺めると、引越し会社の大型トラックが2台停車していた。

「よし…来たな…」

そこから先はじっと外の様子を伺うことに専念した。
トラックは少しの間そのまま停車していたが、やがて1台のタクシーが現れて、トラックを追い抜いて止まった。

そして扉が開き、降りてきたのは…。

「ついにやってきたな…親父…!」

見ていろよ。今度こそ…お前に彩花を殺させたりするものか。

憎悪を込めた目で奴を見ていると、その背後に子供の頃の俺の姿を見た。

「相変わらずやせ細って…惨めな身体つきだな…」

待ってろよ。子供の頃の俺…。あいつから救ってやるからな…。


 その後もしばらくアパートとトラックの様子を伺っていると、彩花の部屋の扉が開かれた。

「彩花っ!」

きっと引っ越しの音がうるさくて部屋を出るかもしれない。

「彩花…どこへ行くつもりなんだ?」

とにかく後を付けてみよう。

急いで玄関へ向かい、スニーカーを履くとマンションを出た。



****



 一定の距離を保ちながら彩花の後をつけた。

「…これじゃまるでストーカーだな…警察から不審者扱いされなければいいが…」

いや、その前に彩花に見つかれば元も子もない。

「何か話しかけられるきっかけがあれば…」

俺はそのチャンスを伺いながら、彩花の後ろ姿を追った―。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

振られた私

詩織
恋愛
告白をして振られた。 そして再会。 毎日が気まづい。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

処理中です...