6月9日はきっと晴れるから

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第2章 48 教授の言葉

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「教授…」

「中途半端に関わるな。上野。彼女は…お前がずっと好きだった相手なんだろう?助けたいんだろう?」

「はい…」

「なら、もっと真剣に向き合うことだ」

「分かりました…」

「上野」

「はい?」

「何してる?もう信号青だぞ?」

「え?あっ!」

気づけば信号は青に変わっている。俺は慌ててアクセルを踏んだ。

「教授…」

車を走らせ、再び声を掛けると教授は目を閉じた。

「悪いが、眠い。大学へ着いたら起こしてくれ」

「は、はい…」

仕方なく俺は運転に集中することにした。本当はもっと色々聞きたいことがあったのだが、諦めるしか無い。

教授は暇さえあれば研究か寝ることしか興味がない人だ。
ここで無理に話しかけて起こそうものなら不機嫌になるだけなのだから―。



****

「教授、着きましたよ。起きて下さい」

大学の駐車場に到着すると、教授に声を掛けた。

「ん?ああ。着いたのか…ふわぁ~…」

教授は車内で伸びをした。

「それにしても随分よく眠っていましたね」

「ん?そうか?」

メガネを外して目をこする教授。

「とりあえず降りましょう」

「そうだな」

俺と教授は車を降りると研究室へ向った。

「実はな…」

大学のキャンパス内を歩いていると不意に神妙な顔をした教授が話しかけてきた。

「何ですか?」

「今…車の中で昔の夢を見たんだ…」

「夢ですか?教授でも夢を見ることがあるんですね?」

「何だ?それは一体どういう意味だ?」

ジロリと俺を見る教授。

「いえ、いつも夢のような研究ばかりしているので実際は眠っている間は夢なんか見ない方だと思っていました」

「全く、人が真面目に話しているのにお前という奴は…。もういい、お前には何も話さん」

「あ、すみません。そんなこと言わずに教えてくださいよ」

教授の見た夢と言う話に興味がわいてきた。

「そんなに聞きたいか?なら教えてやろう。それはな昔の夢だ。初恋の人に再会する夢だ」

「へ~…教授の初恋の相手ですか?どんな女性ですか?」

「優しくて、芯が強く…責任感の強い女性だった。何しろ美人だったしな」

教授は昔を懐かしむような遠い目で語っている。

「そうですか…」

何故かその話を聞いた時、一瞬彩花の姿が頭に浮かんだ。

「それで?その初恋の女性とはどうなったのですか?」

「ああ、無事に結婚したぞ?」

その話に仰天してしまった。

「え?!きょ、教授…っ!結婚してるんですかっ?!」

知らなかった!プライベートなことは滅多に話さないし、乱れ切った生活をしているので絶対に独身だと思っていたのに!

「いや、正確に言えば結婚していたってことだ」

「あ…ひょっとして…」

離婚の二文字が頭に浮かんだ。

「言っておくが離婚ではないぞ?死別だったんだ。妻は…42歳で病気で亡くなったんだ」

「そ、そうだったんですか…」

先ほど少し揶揄ってしまったことに罪悪感を感じてしまう。

「だから、上野。頑張れよ…」

「え?」


「頑張って南さんを救えってことだ」

「はい、分かりました」


この時は、教授の言葉の重みを俺はまだよく理解していなかった。

教授の言葉の真の意味を知るのは…ずっと先のことになる―。


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