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第2章 40 自己嫌悪

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 あの後…奴の身に何が起こったかは別に知りたいとは思わなかった。

アイツのことだ。

別に子供の頃の俺があのアパートから消えていたって、特に心配することは無いだろう。何しろあの頃の俺は奴が怖くてよく家を飛び出していたからだ。
きっと今回もそう思っているに違いない。

それで養護施設の職員が何度もあいつを訪ね、不在なことを知り…奴から子供の俺を引き離してくれる。

そして彩花は俺を奴から守る必要も無くなるので、恨みを買って殺されることもないだろう…。
これが今回俺が考えた筋書きだった―。


 
****

19時―

「彩花はもうアパートに帰っているかな…?」

昨日会った限りでは彩花に男の影は見えなかった。
もし恋人がいれば、日曜日を1人で過すはずがない。
いや、俺だったら…もし仮に俺が彩花の恋人だったなら、日曜は朝から夜まで彩花と一緒に過ごしたいと思ったからだ。

「どれ、様子を見に外に出てみるか」

俺は早速、玄関へ向った―。


 マンションを出ると、道路を挟んだ向かい側に彩花が住むアパートへ続く敷地が見える。

「彩花は…お?帰っているな?」

玄関の並びにある窓からはオレンジ色の光が見える。そして、隣の部屋は…真っ暗だった。

「…お帰り、彩花」

ポツリと口に出して呟く。
本当は今すぐにでもアパートを訪ねて彩花に会いたい。子供の頃のように…2人で一緒に向かい合わせで食事がしたい。

そして…彩花に好きだと伝えたい…。

「でも駄目だ…そんなこと出来るはずは無いな…」

今は…まだ彩花が無事でいられている姿を見られればそれでいい。

大丈夫、焦ることは無いんだ。
何しろ、卓也は養護施設に行ったんだ。もうこのアパートに戻ってくるはずはないのだから。

「お休み、彩花。また明日…会おう」


そして俺はマンションへ戻った。

明日も彩花の出勤時間に合わせて外へ出て話をする。
それを根気よく続けて、俺という存在を意識してもらえるようにするのだから―。



****


 翌朝7時半―

 昨日同様、俺は彩花の出勤時間に合わせてマンションを出た。
彼女に待ち伏せしていると思われるのはマズイので、自転車を出して通りに出てきたところで声を掛けた。

「おはよう、南さん」

「あ、おはようございます。上条さん」

自転車を押して道路に出てきた彩花が笑顔で挨拶を返してくれる。

「うん、おはよう。ところで昨夜…何か変わったことあった?」

彩花にさり気なく探りを入れてみよう。

「え?変わったこと…?う~ん…特に何も無かったけど…」

アパートの異変に気付かなかったのだろうか?

「え?そうなのか?実は昨日仕事から帰ってきた時…卓也の様子が気になって何気なくアパートを見たら、明かりがついていなかったからさ」

「あ、そう言えばそうだったかも…何かあったのかしら?」

「そうだよね?気になるよね?」

「え?ええ…そうね。あ、それじゃ私もう仕事に行くから…」

彩花は何故か逃げるように自転車に飛び乗ると漕ぎさって行ってしまった。

「彩花…」

ひょっとして俺は…がっつきすぎてしまったのだろうか?

また…やってしまったか…?

「そ、そんな…」

こうして、この日1日俺は自己嫌悪に陥ることになった―。

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