99 / 200
第2章 39 通報
しおりを挟む
その姿があまりに哀れで…自分のことながら涙が出そうになってしまった。
「…くっ…」
歯を食いしばり、気を失った卓也を抱きかかえて部屋に運んだ。
邪魔な荷物を無造作に足でどかし、卓也を寝かせられるスペースを空けるとスマホを上着から取り出した。
「…もう限界だ…。このままでは子供時代の俺が奴に殺されてしまうかもしれない…」
そうなったらどうなる?
きっと俺はこの世界から消えてしまうだろう。そんな事…絶対にさせるか!
スマホを再度力強く握りしめ、番号をタップすると耳に押し当てた。
「待ってろよ…卓也。今、助けてやるからな…」
部屋の中で意識を失っている卓也を見ながら呟いた。
トゥルルルルル…
トゥルルルルル…
何回目かのコール音の後、電話が繋がった。
『はい、児童養護施設こども園です』
女性の声で応答があった。
「すみません。近所で酷く子供の鳴き声と…その子供を怒鳴りつける男性の声が聞こえたので電話しました。場所は…」
俺は…自分がかつて子供時代から高校卒業まで世話になった児童養護施設に電話を掛けた―。
****
約40分後―。
物陰から隠れてアパートの様子を見てみると、児童養護施設の車がアパートの前に到着した。
そして中から4人の職員が慌てた様子で車から降りると、アパートへ向って行く様子が見えた。
「恐らく、もう大丈夫だろう…」
物陰からその様子を隠れてみていたけれども、まだ卓也があのアパートから連れ出される様子を見るまでは安心できない。
そこで俺はもう暫くその場にとどまって様子を見ることにした―。
そこから30分以上の時間が経過した。
「まだか…?」
俺はヤキモキしながら様子を伺った。
一体何をしているんだ?
卓也は酷く殴られ、意識を失っている。そして不在の親に見知らぬ相手からの通報。
これだけ条件が揃えばすぐにでも卓也を運んでやってもいいだろう?
「何やってるんだよ…ん?!」
ついにその時間が訪れた。
マンションのドアが開き女性職員が出てきたのだ。女性はドアが閉まらないように抑えると、次に男性職員が出てきた。その人物はぐったりしている卓也をおんぶしていた。
「やった…卓也を救出してくれたんだな…」
これでもう大丈夫だろう。俺は全員がアパートを出て、卓也と共に車に乗り込んで走り去っていく姿を確認すると現在賃貸中のマンスリーマンションへと戻った。
「…これでもう大丈夫だろうな…」
部屋に戻り、コーヒーを口にしながら呟いた。
そうだ、最初からこうしておけば良かったんだ。
隣の部屋で卓也が暴力を振るわれている姿を見れば、彩花は関わることがないだろう。そうすればあいつから恨まれることもなく…彩花は殺されずに住むのだから。
けれど…こんなことでは彩花を救うことが出来ないと知るのは…俺が彩花と親しくなってからのことだった。
そして、そこから本当の意味での絶望を…俺は味わうことになる―。
「…くっ…」
歯を食いしばり、気を失った卓也を抱きかかえて部屋に運んだ。
邪魔な荷物を無造作に足でどかし、卓也を寝かせられるスペースを空けるとスマホを上着から取り出した。
「…もう限界だ…。このままでは子供時代の俺が奴に殺されてしまうかもしれない…」
そうなったらどうなる?
きっと俺はこの世界から消えてしまうだろう。そんな事…絶対にさせるか!
スマホを再度力強く握りしめ、番号をタップすると耳に押し当てた。
「待ってろよ…卓也。今、助けてやるからな…」
部屋の中で意識を失っている卓也を見ながら呟いた。
トゥルルルルル…
トゥルルルルル…
何回目かのコール音の後、電話が繋がった。
『はい、児童養護施設こども園です』
女性の声で応答があった。
「すみません。近所で酷く子供の鳴き声と…その子供を怒鳴りつける男性の声が聞こえたので電話しました。場所は…」
俺は…自分がかつて子供時代から高校卒業まで世話になった児童養護施設に電話を掛けた―。
****
約40分後―。
物陰から隠れてアパートの様子を見てみると、児童養護施設の車がアパートの前に到着した。
そして中から4人の職員が慌てた様子で車から降りると、アパートへ向って行く様子が見えた。
「恐らく、もう大丈夫だろう…」
物陰からその様子を隠れてみていたけれども、まだ卓也があのアパートから連れ出される様子を見るまでは安心できない。
そこで俺はもう暫くその場にとどまって様子を見ることにした―。
そこから30分以上の時間が経過した。
「まだか…?」
俺はヤキモキしながら様子を伺った。
一体何をしているんだ?
卓也は酷く殴られ、意識を失っている。そして不在の親に見知らぬ相手からの通報。
これだけ条件が揃えばすぐにでも卓也を運んでやってもいいだろう?
「何やってるんだよ…ん?!」
ついにその時間が訪れた。
マンションのドアが開き女性職員が出てきたのだ。女性はドアが閉まらないように抑えると、次に男性職員が出てきた。その人物はぐったりしている卓也をおんぶしていた。
「やった…卓也を救出してくれたんだな…」
これでもう大丈夫だろう。俺は全員がアパートを出て、卓也と共に車に乗り込んで走り去っていく姿を確認すると現在賃貸中のマンスリーマンションへと戻った。
「…これでもう大丈夫だろうな…」
部屋に戻り、コーヒーを口にしながら呟いた。
そうだ、最初からこうしておけば良かったんだ。
隣の部屋で卓也が暴力を振るわれている姿を見れば、彩花は関わることがないだろう。そうすればあいつから恨まれることもなく…彩花は殺されずに住むのだから。
けれど…こんなことでは彩花を救うことが出来ないと知るのは…俺が彩花と親しくなってからのことだった。
そして、そこから本当の意味での絶望を…俺は味わうことになる―。
0
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件
桜 偉村
恋愛
別にいいんじゃないんですか? 上手くならなくても——。
後輩マネージャーのその一言が、彼の人生を変えた。
全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。
練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。
武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。
だから、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。
そうすれば、香奈は自分のモノになると思っていたから。
武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。
しかし、そこに香奈が現れる。
成り行きで香奈を家に上げた巧だが、なぜか彼女はその後も彼の家を訪れるようになって——。
「これは警告だよ」
「勘違いしないんでしょ?」
「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」
「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」
甘酸っぱくて、爽やかで、焦れったくて、クスッと笑えて……
オレンジジュース(のような青春)が好きな人必見の現代ラブコメ、ここに開幕!
※これより下では今後のストーリーの大まかな流れについて記載しています。
「話のなんとなくの流れや雰囲気を抑えておきたい」「ざまぁ展開がいつになるのか知りたい!」という方のみご一読ください。
【今後の大まかな流れ】
第1話、第2話でざまぁの伏線が作られます。
第1話はざまぁへの伏線というよりはラブコメ要素が強いので、「早くざまぁ展開見たい!」という方はサラッと読んでいただいて構いません!
本格的なざまぁが行われるのは第15話前後を予定しています。どうかお楽しみに!
また、特に第4話からは基本的にラブコメ展開が続きます。シリアス展開はないので、ほっこりしつつ甘さも補充できます!
※最初のざまぁが行われた後も基本はラブコメしつつ、ちょくちょくざまぁ要素も入れていこうかなと思っています。
少しでも「面白いな」「続きが気になる」と思った方は、ざっと内容を把握しつつ第20話、いえ第2話くらいまでお読みいただけると嬉しいです!
※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。
※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
元カノと復縁する方法
なとみ
恋愛
「別れよっか」
同棲して1年ちょっとの榛名旭(はるな あさひ)に、ある日別れを告げられた無自覚男の瀬戸口颯(せとぐち そう)。
会社の同僚でもある二人の付き合いは、突然終わりを迎える。
自分の気持ちを振り返りながら、復縁に向けて頑張るお話。
表紙はまるぶち銀河様からの頂き物です。素敵です!
恋煩いの幸せレシピ ~社長と秘密の恋始めます~
神原オホカミ【書籍発売中】
恋愛
会社に内緒でダブルワークをしている芽生は、アルバイト先の居酒屋で自身が勤める会社の社長に遭遇。
一般社員の顔なんて覚えていないはずと思っていたのが間違いで、気が付けば、クビの代わりに週末に家政婦の仕事をすることに!?
美味しいご飯と家族と仕事と夢。
能天気色気無し女子が、横暴な俺様社長と繰り広げる、お料理恋愛ラブコメ。
※注意※ 2020年執筆作品
◆表紙画像は簡単表紙メーカー様で作成しています。
◆無断転写や内容の模倣はご遠慮ください。
◆大変申し訳ありませんが不定期更新です。また、予告なく非公開にすることがあります。
◆文章をAI学習に使うことは絶対にしないでください。
◆カクヨムさん/エブリスタさん/なろうさんでも掲載してます。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる