6月9日はきっと晴れるから

結城芙由奈@コミカライズ発売中

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第2章 31 偶然会った人

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 辺りの空気が何となく変化した気がした。

しかもひんやりと冷たい空気が辺りを満たしている。

すぐに何処か理解した。
ここが…15年前の3月30日の世界であるということが。

「よし…まずはスマホの契約と…マンスリーマンションの契約だな…」

そこで神社を後にし、町へと足を向けた―。


****

「ありがとうございました」

不動産業者の声に見送られ、店を出た俺は賃貸契約したばかりのマンスリーマンションへと向った。

「やっぱりスマホの手続きもマンションの契約も2回めだと要領が分かっているからスムーズにいくな」

これからのことをあれこれ考えながら歩いていたが…住宅街にやってくると足を止めた。

「あ…あのトラックは…!」


偶然にも俺があのアパートに引っ越して来た直後に出くわしたのだ。

まさか…あの部屋には既に10歳だった俺がいるのか?そしてあの一番左端の部屋には彩花が…?!
それに今日は土曜日だ。
彩花の仕事が休みの日…。

暫くの間、引っ越しトラックの様子を眺めていた。
次々と業者に寄って降ろされていく荷物…。

あ、あれは俺が子供の頃に使っていた机だ。
そんなことを考えながら眺めてい時…。

「あの、すみません。通して頂けますか?」

不意に女性から声を掛けられた。
どうやら大きなトラックで道が塞がれている上、道路を塞ぐように立っていた為に通行の邪魔をしていたようだ。

「あ、失礼…」

言いかけて、声の主を見た途端息が止まりそうになった。
何と声を掛けてきたのは彩花だったのだ。

彩花…っ!

思わず感情が昂り、抱きしめてしまいそうになった。

「す、すみませんっ!」

動揺する気持ちを押さえて慌てて、後ろに下がった。

「いえ」

彩花は短く返事をすると、足早にその場を去っていった。

「彩花…」

小さくなっていく彼女の後ろ姿を見つめ、ポツリと呟く。

彩花、一体何処へ行くんだ…?
彼女の後をついていきたい気持ちをグッとコラえた。
そうだ、又同じことを繰り返して彼女を怯えさせるわけにはいかない。
俺は彩花のことをよく知っているけれども…彼女に取っては俺は見知らぬ男なのだから。

「大丈夫…今度は失敗しない。…彩花、必ず助けてやるからな…」

そして向かい側に建っているマンスリーマンションへと入っていった―。


****

 リュックを置くと、すぐに盗聴器を取り出した。

「本当は…あまりこんな真似はしたくないんだけどな…」

盗聴器を見つめながらため息をついた。

だが、今の俺には他に手段が思いつかなかったのだ。

まずは子供時代の俺に近づき、信頼させて親しくなる。そしてアパートに出入りできる関係を築くのだ。
そして何処かに盗聴器を仕掛け…奴が俺に暴力を振るいそうになったら、駆けつける。

それに盗聴器があれば…彩花と子供時代の俺が接触した場合、2人の会話を聞くことが出来るかも知れない。

そうしたら、偶然を装ってあのアパートを訪ねればいいんだ。

そうだ。
きっと今度こそうまくいくはずだ。

俺は盗聴器を強く握りしめた―。
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