6月9日はきっと晴れるから

結城芙由奈@コミカライズ発売中

文字の大きさ
上 下
84 / 200

第2章 24 宮田教授との会話

しおりを挟む
「教授、どういうことですかっ?!彩花は…彩花は死んでるんですかっ?!」

『落ち着け、上野。お前、ひょっとすると6月9日になるまで、そっちの世界で過ごさなかったのかっ?!』

何故か電話越しの教授の声には怒気が含まれているように感じられた。

「は、はい…いませんでした…」

『何故だ?』

勘違いじゃない…教授の声は静かだったが…怒りを感じられる。

「そ、それは…俺が今回戻った過去では…彩花と俺は接点が無くて…アパートにすら住んでいませんでした…それどころか彩花には恋人が…いて…」

その時の光景を思い出すと、今でも胸が苦しくなってくる。

『…何だって?本当にそんなことが…?』

教授の声は酷く狼狽しているように感じられた。

「教授…俺はどうしたら…」

いい年して、情けないことに俺は教授にすがっていた。

『とにかく、電話越しでは何だ。上野、早く研究室に戻って来い。話は戻ってからしよう。私は原因を調べてみる』

「はい、分かりました。…失礼します」


ピッ!


電話を切ると、すぐに大学へ戻る為に駅へと急いだ―。




****


 研究室に戻ったのは午後の2時を少し過ぎる頃だった。

「教授っ!戻りました!」

ノックをするのも忘れ、研究室の扉を勢いよく開いた。

「おう、戻ったか?上野」

顔も上げずに返事をする教授。

教授はデスクの前に座り、ノートパソコンを凝視していた。教授はいつも以上に山積みの本に埋もれいていた。

「教授、それで先程の話の続きですが…」

話しかけると、教授は左手を上げて静止させた。

「まぁ、待て。上野。その前にまずは熱いコーヒーを入れてくれるか?」

「は、はぁ…」

たった今過去の世界から戻り、更に電車に乗って大学へ戻ってきたばかりだというのに人使いが荒い。

しかし、当然その様なことは口に出すことも出来ず…渋々お湯を沸かす為に湯沸かしポットを持って給湯室へと向かった―。



****


 15分後―

「教授、コーヒーが入りましたよ。机の上のもの…少しどかしてもらえませんか?これじゃ置き場がありませんよ」

両手に淹れたてのコーヒーを淹れたマグカップを持ち、教授に声を掛けた。

「ん~…ああ、分かった」

教授はおもむろに机の上に置かれた大量の本を床にドサドサと置いていく。

「ちょ、ちょっと…!本を床に置くなんて…っ!」

俺の言葉なんか教示の耳には入っていないのだろう。山積みの本は無造作に床の上に置かれ、たちまち床は足の踏み場が無くなってしまった。

「どうだ?これで机の上が綺麗に片付いた」

教授は満足気に笑った。

「全く…床の上に大切な本を置くなんて信じられませんよ…」

ブツブツ言いながら、椅子を引いて座るとコーヒーを口にした。

「まぁそう言うな、上野。お前も今にこうなるさ」

教授は妙な事を言う。

「なりませんよ…なるはず無いじゃないですか。そんな事よりも、教授!一体15年前の6月9日に何があったんですかっ?!」

「…上野。この記事を読んでみろ」

教授は神妙な顔つきで俺の方にノートパソコンを向けてきた―。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

振られた私

詩織
恋愛
告白をして振られた。 そして再会。 毎日が気まづい。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

処理中です...