上 下
80 / 200

第2章 20 耳を疑う言葉

しおりを挟む
 あのアパートから歩いて約5分…。

そこは住宅街の中に作られた然程大きくない公園だった。
滑り台に砂場、鉄棒にブランコ…遊具はたったそれだけだった。夕暮れに近い時間
ということもあり公園はガランとしており、数人の子供達が公園内でサッカーをして遊んでいるだけであった。

「いるかな…?」

すると、公園の片隅に置かれたブランコに乗っている子供の姿が目に止まった。
あれは…間違いない!子供時代の俺だっ!

そうだ。
親父の機嫌が悪い時…大抵アパートを出ていったのは奴の方だったけれども、時には俺が公園に逃げていたときもあった。…尤もそんなことをすれば、ますますアパートに帰りずらくなるだけだったのは分かりきっていたのだが、それでも奴が怖くて逃げていたのだ。その後部屋に戻れば、もっと酷い目に遭わされていたけれども…。


 
 少し離れた場所から公園の植え込みに隠れるように、少しの間子供時代の俺の様子をじっと見ていた。

キィ~
キィ~

つま先を地面に付いたまま、小さくブランコを漕いでいる俺。その姿は…我ながら見ていて哀れだった。着古したサイズの合わない服。履いているスニーカーも小さいのか、かかとを踏み潰している。

「俺は…あんな哀れな姿をしていたんだな…」

思わずポツリと呟き…どうやって話しかけようかと考えていた。
気づけばサッカーをしている子供達もいなくなり、公園にいるのは子供時代の俺だけだった。

さて…どうやって話しかけようか…?

あの頃の自分の心境を思い出して見る。

そうだ…。
1人で公園にいた俺は不安でたまらなかった。こっちへまだ越してきたばかりで学校では友達がいたものの、放課後一緒に遊ぶほどの中ではなかった。

誰かに気にかけてもらいたい…。ずっとそう思っていた。
そして、そんな俺に手を差し伸べてくれたのが彩花だったんだ…。

ひょっとするとあそこにいる俺は…彩花が公園の前を通りかかるのを待っているのかも知れない。
という事は、ここで子供時代の俺と話をしていれば彩花に帰るかも…?

「よし、一か八か…話しかけてみるか」

意を決して俺は子供時代の自分に近付いていった。

 
「そこの君、まだ家に帰らないのか?」

警戒されないように少し離れたところから呼びかけてみた。

「え?」

驚いたように顔をあげてこちらを見る俺。

「…っ!」

15年前の自分に再会し…一瞬息を飲んだ。
痩せた身体に目の大きさが際立つ容姿。着古して色あせたサイズの合わない小さな服…。
何て哀れな姿なんだ…。だが、これが15年前の俺の姿…。

「あの…?」

子供時代の俺が怪訝そうにこちらを見ている。まずい、怪しんでいるのだろう。

「いや、配達の帰りに偶然この公園の前を通りかかったんだけど、こんな時間に子供が1人で何をしてるのかと思ってね。

「…心配してくれる人なんて…誰もいないから…」

子供時代の俺がポツリと言う。

「…そうなのか?だけど、そんなこと言ったって家族が心配しているんじゃないのか?」

俺は何も事情を知らないふりをして尋ねる。

「でも誰か1人くらいは心配しているんじゃないのか?」

「いないよ、1人も」

子供時代の俺はまるで感情が欠落しているかのように見える。
だが…何故だ?
もう彩花と出会っているのに…。

何気なく公園の外に視線を移し…俺は大きく目を見開いた。

仕事帰りなのか、彩花が公園の前を横切っていく姿が目に入った。

彩花…!

思わず、目尻に涙が浮かびそうになる。

「どうかしたの?」

子供時代の卓也が俺に声を掛け、同じ方向を見た。当然卓也の目にも彩花の姿が目に映ったのだろう。

そして、次に耳を疑うような言葉を卓也が口にした。

「誰?あのお姉さん…。知り合いなの?」

「え…?」

俺はその言葉に血の気が引いた―。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

そこは優しい悪魔の腕の中

真木
恋愛
極道の義兄に引き取られ、守られて育った遥花。檻のような愛情に囲まれていても、彼女は恋をしてしまった。悪いひとたちだけの、恋物語。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

イケメン御曹司、地味子へのストーカー始めました 〜マイナス余命1日〜

和泉杏咲
恋愛
表紙イラストは「帳カオル」様に描いていただきました……!眼福です(´ω`) https://twitter.com/tobari_kaoru ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 私は間も無く死ぬ。だから、彼に別れを告げたいのだ。それなのに…… なぜ、私だけがこんな目に遭うのか。 なぜ、私だけにこんなに執着するのか。 私は間も無く死んでしまう。 どうか、私のことは忘れて……。 だから私は、あえて言うの。 バイバイって。 死を覚悟した少女と、彼女を一途(?)に追いかけた少年の追いかけっこの終わりの始まりのお話。 <登場人物> 矢部雪穂:ガリ勉してエリート中学校に入学した努力少女。小説家志望 悠木 清:雪穂のクラスメイト。金持ち&ギフテッドと呼ばれるほどの天才奇人イケメン御曹司 山田:清に仕えるスーパー執事

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

大好きな背中

詩織
恋愛
4年付き合ってた彼氏に振られて、同僚に合コンに誘われた。 あまり合コンなんか参加したことないから何話したらいいのか… 同じように困ってる男性が1人いた

ヴァンパイア♡ラブどっきゅ〜ん!

田口夏乃子
恋愛
ヴァンパイア♡ラブセカンドシーズンスタート♪ 真莉亜とジュンブライトは、ついにカップルになり、何事もなく、平和に過ごせる……かと思ったが、今度は2人の前に、なんと!未来からやってきた真莉亜とジュンブライトの子供、道華が現れた! 道華が未来からやってきた理由は、衝撃な理由で!? さらにさらに!クリスの双子の妹や、リリアを知る、謎の女剣士、リリアの幼なじみの天然イケメン医者や、あのキャラも人間界にやってきて、満月荘は大騒ぎに! ジュンブライトと静かな交際をしたいです……。 ※小学校6年生の頃から書いていた小説の第2弾!amebaでも公開していて、ブログの方が結構進んでます(笑)

恋とキスは背伸びして

葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員 成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長 年齢差 9歳 身長差 22㎝ 役職 雲泥の差 この違い、恋愛には大きな壁? そして同期の卓の存在 異性の親友は成立する? 数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの 二人の恋の物語

処理中です...