6月9日はきっと晴れるから

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第2章 15 バタフライ効果

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 俺と教授は研究室に戻っていた。

「なるほど…いざ過去に戻ってみると、自分が知っていた歴史とは異なっていた…ということか」

教授がコーヒーを飲みながら頷く。

「はい、異なっていたと言っても本当に微々たるものだったのですが…例えばあいつの出所日が1日前倒しになっていたり、本来彩花が俺を迎えに来るはずだったのに、施設の職員が駅まで車で連れて行ってくれたり…」

尤も…それらの要因が彩花の死に結びついてしまったのだが…。

「そうか…やはりそれらは『バタフライ効果』の影響が出ている証拠だ」

教授は神妙な顔つきで腕組みをした。

「やはり…そうなのでしょうか?」

「ああ、そうだ。本来であればそこの時代にいるはずのない人間が現れたのだ。それはまるで静かな水面に小さな石を投じたようなものだ。石を投げ入れた水の波紋が遠くにまで伝わって行くかの如く…歴史が少しずつ変わってしまったのだろう」

「そんな…」

それでは俺が過去に戻れば戻るほどに本来の歴史ではあり得なかった新たな歴史に塗り替わっていってしまうということか?

「落ち着け、上野。そんな絶望的な顔をするな。確かに歴史は少し変わってしまったが…結果、行き着く先は同じだったのだ。南彩花の死という事実に変更は無かった」

「そうです、俺が…失敗してしまったからです…」

悔しさのあまり、下唇を噛む。

「つまり、だ。小さな波紋ではあるけれども、内容自体に大きな変更は無いんだ。だから…事前に備えれば…あるいはなんとかなるかもしれない」

「事前に備える…?それはどういう意味ですか?」

教授の言葉に首を傾げる。

「上野、自分で言った言葉を忘れたか?お前車の中で1ヶ月のタイムトラベルをしたと言ったじゃないか」

「あ…」

そうだった。確かに俺はそう言った。

「いいか、上野。あまり長期のタイムトラベルは、正直に言うと危険だ。長く滞在すればするほど平行世界が枝分かれしていき、本来戻るべき座標を見失ってしまうかも知れない。だから最大に見積もっても1ヶ月だ。それ以上は認められない。それに今回初のタイムトラベルで、まだまだこの磁場発生装置は改良しなければならない点があることが分かった。なので次のタイムトラベルまでには少しの間待ってもらう事になる」

「で、ですが…俺は一刻も早く彩花を…!」

「だから、落ち着け。流行る気持ちは分かるが…結局お前が行く世界は過去なんだ。ここでいくら時間が過ぎてしまおうとも…戻る時間は過去なのだから、焦る必要はなにもない。…分かるな?」

「教授…」

確かに教授の言うことは尤もだ。
俺は過去に戻るのだから、ここで時間がいくら経過しようが、そんな事は関係ないのだ。

ただ、関係あるとすれば…俺が過去へ戻る度に、年を取っていく…。

それだけの話なのだから―。




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