6月9日はきっと晴れるから

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第2章 14 失敗に終わったタイムトラベル

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 何処をどうやって神社に辿り着いたのか、全く記憶が無かった。気づけば俺はこの場所に立っていたのだ。

「今すぐ…戻らないと…」

今回のタイムトラベルは滞在期間が短かったということもあり、磁場発生装置にはまだバッテリーが残っていた。この容量なら元いた時代に戻れる。

「彩花…」

溢れそうになる涙を必死で堪え、俺は磁場発生装置をセットした。すると足元が揺れる感覚が起こり、周囲に霧が発生した。

「時空が…歪む…」

ポツリと呟き、俺は鳥居を潜り抜けた―。



****

「ど、どうしたんだっ?!上野っ?!」

霧が晴れると、神社の前に佇む教授が俺を驚いた様子で見つめていた。

「あ…教授…、あれからどれくらい時間が経過しましたか…?」

ボンヤリと教授を見つめ、尋ねた。

「いや…経過も何も…恐らく1分も経っていないんじゃないか…?」

「そう…ですか…」

深いため息をつき、俯くと教授が声を掛けてきた。

「上野…お前、過去に行けたんだろう?」

「はい」

「だが、その割には元気が無いようだが…まさか…」

俺に語りかける教授の声が何処か苦しげに聞こえる。

「ええ…その『まさか』ですよ…。俺は、失敗しました」

「!」

教授の息を呑む気配を感じた。

「教授…俺は本当に愚かでした。俺はあの世界で何が起こる分かっているから、絶対に彩花を助けられると思っていたのに…」

目に涙が滲んでくる。

「…」

そんな俺を教授は黙って見つめていたが…。

「上野…取りあえず研究室に戻ろう。車の中で詳しく話を聞かせて貰うことにしよう」

「はい…」

俺は力なく、頷いた―。



****

「それで、一体向こうの世界で何があったんだ?」

教授がハンドルを握りながら尋ねてきた。

「はい…」

返事をすると、ゆっくり…今迄の経緯を説明した。

過去に戻ってみれば、本来6月8日に出所するはずだった俺の父が既に出所していたこと。
行き先を教えて貰えず、足取りが掴めなくなってしまったので仕方なく彩花を見張っていたこと。
けれど彼女を一目見た途端…15年間の思いが募り、感極まって抱きしめてしまったこと…。

すると、ここまで黙って話を聞いていた教授が突如驚いた様子で声をあげた。

「え?何だって?お前、初対面の女性をいきなり抱きしめてしまったのかっ?!」

「は、はい…そう…です。それで…痴漢呼ばわりされて警察に通報されそうになって近づけなくなってしまいました…」

酷い自己嫌悪で自分が嫌になってくる。

「上野…お前に追い打ちを掛けるわけではないが…誰だって若い女性が成人男性にいきなり抱きしめられたら恐怖しか無いだろう?何しろ彼女はお前があの上野卓也だとは思いもしないのだから。大体…何故抱きしめたりしたんだ?」

「…」

教授の質問に言葉が詰まる。

「上野?」

「彩花が…愛しすぎて…」

「…お前…それって…」

「教授、研究室に戻ったら…すぐに次のタイムトラベルの準備を進めて下さい!俺は彩花殺害の現場に辿り着くどころか…全く知らない場所で…彼女は無惨に殺されてしまったんです!たった2日だけのタイムトラベルだけじゃ何も出来ない。せめて…せめて1ヶ月は過去の世界に滞在して、奴の足取りを調べないと…彩花を助けることが出来ないんですっ!お願いしますっ!」

「…」

教授は少しの間、口を閉ざしていたが…やがてため息をついた。

「本当に…それだけか?」

「え?」

「父親の凶行を止める為だけに…1ヶ月のタイムトラベルをしたいのか?」

「…違います…。俺は…彩花を愛してしまいました…。例え、短い期間だとしても…
彼女と恋人同士になりたいからです」

俺は自分の正直な気持ちを白状した―。
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