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第2章 13 1度目の彩花の死

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 翌朝8時―


 俺は早々に朝食をとるとネットカフェを後にした。

今日、これから起こる惨劇を何としても食い止めなければならない…。
そう思うと緊張のあまり、ほとんど一睡も眠ることが出来なかった。

「それにしてもあいつ、何処に行ったんだ…?」

思わず感情が先走り、言葉が口から漏れていた。
今、俺は養護施設に向かうバスに乗っている。これから彩花が俺を迎えにやっってくるからだ。だから一足早く養護施設に行き、隠れて2人が出てくる所を待ち伏せる為だ

くそっ!

それにしても厄介な…。

奴の場所を掴むことが出来れば先回りしてあいつを捕まえ、二度と彩花を狙えないように痛めつけてやるのに。
あいつに人生を狂わされた俺の恨みも込めて…。

奴の居場所が分からない以上、彩花と子供時代の俺にバレないように張り付いて奴
を待ち伏せするしか無い。
そして奴が襲ってきた所を俺が返り討ちにしてやるしか無いだろう。

「どうか、うまくいってくれよ…」

俺はバスの中で祈った―。



****

 養護施設に到着したのは午前9時を過ぎていた。

「よし…建物の物陰から隠れて見ているか…」

そして俺はその時が来るのをじっと待っていた―。


「…おかしいな…?なんで出てこないんだ…?」

あれから30分以上待っているのに、一向に卓也を迎えに彩花が現れない。それどこらか卓也だって養護施設から出てくる気配が無い。

「何故だ…?何故彩花は迎えに来ないんだ…?」

徐々に言いようのない不安がこみ上げてくる。もうこれ以上じっとしているなんて出来なかった。
こうなったら養護施設を訪ねてみるしかない。

俺は養護施設に足を向けた―。



****

「え?もうとっくに出掛けた?!」

養護施設の一度も見たことのない若手男性職員の話はあまりにも予想していないことだった。

「ええ、駅に用事があった職員が丁度いたので卓也くんの出掛ける時間に合わせて車で連れて行ったんですよ。…所で貴方…本当に卓也くんの親戚の方なのですよね?」

対応してくれた職員は訝しげに俺を見ている。

「ええ、当然です。ほら、よく見て下さい。卓也と良く似ていると思いませんか?」

自分の顔を指差し、職員に尋ねた。

「う~ん…。確かに言われてみれば良く似ていますね…」

それは似ていて当然だろう?何しろ俺は15年先の未来からやってきた卓也なのだから。

「そんな事よりも…何時です?何時頃卓也はここを出たのですか?!」

「え?確か…8時20分頃でしたけど?」

「8時20分っ?!」

な、何てことだ…っ!!腕時計を見ると時刻は既に9時45分になろうとしている。

まずいっ!!

「す、すみません!俺…もう行きますっ!」

慌てて外へ出ようとした時―。

トゥルルルル…

突如、養護施設に電話の音が鳴り響く。

「おや?電話だ」

養護施設の職員は電話をとりに廊下の壁に掛けられた電話をとりに行った。

駄目だ…その電話に出ないでくれ…!

もはや俺の中には最悪のシナリオしか考えられなかった。
職員は俺の心の叫びに気付くことも無く電話を取りに行った。

「はい、こちらは児童養護施設です。…え?警察?一体どのようなご要件でしょうか…?え…ええっ?!み、南さんが…っ?!」

「あ…」

俺はその場に崩れ落ちてしまった。
電話のやり取りなんか耳にはいらなかったけれども、もう何が起きたのか分かってしまった。

彩花が…殺されたのだ。

俺の憎い父のせいで…!


「はい…分かりました。すぐに迎えに伺います…。はい、宜しくお願い致します」

職員の意気消沈した声で理解した。

「え…と、確か貴方は…」

「上条…拓也です…」

「上条さん…本日…拓也君を連れて出掛けた女性が…何者かによって刺殺されたそうです…これからすぐに警察病院へ行ってきます」

「…そう…ですか…」

それだけ返事をするのがやっとだった。男性職員は慌ただしく、職員室を出ていき…俺はふらつく足元で外へ向かった。

「助けられなかった…」

ポツリと言葉が出てくる。いや、それどころか俺は何の役にも立てなかった。

何しろ守ろうにも彩花の側にいることすら出来なかったのだ。

「ハハハ…何が…恋人同士…だよ…」

自分の愚かさを笑った。今更無惨に殺されてしまった彩花の元へ行こうという気にはなれなかった。死んでしまった彼女に会っても悲しみが増すだけだ。


だが…まだ大丈夫だ。

俺には過去も未来も自由に行き来する事が出来るのだから。

もう…この世界に用は無い…。

俺はふらつく足で、バス停へ向かった。


彩花…。

ごめん―。


こうして1度目のタイムリープは彩花の死に際にすら間に合わずに幕を閉じた―。
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