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第2章 11 恋に堕ちた瞬間
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彩花が何処で働いているのか場所を知らなかった俺は、彼女が帰宅してくる時間を見計らってアパートの前で待機しているしか無かった。
今の時刻は午後4時半―。
彩花は大体いつも19時近くにアパートに戻っていた。念には念を入れて18時半にはアパート付近で待ち伏せしていた方がいいだろう。本来であればアパートを直接訪ねてもいいのだが、何しろ彩花は今の俺の姿を知らないのだ。押しかければ怯えられるに決まっている。
「仕方ない…カフェで時間でも潰すか…」
俺は駅前のカフェで2時間粘ることに決めた―。
****
18時30分―
駅の出入り口が良く見えるカフェのカウンター席で何げなく駅から出てくる人々を見つめていた時のことだった。
何と彩花が駅から出てきたのだ。
「!」
俺は驚きのあまり目を見張り…持ってきた写真と見比べて確認した。
間違いないっ!きっと…あれは彩花だっ!俺は急いでカフェを飛びだすと、後先の事
を何も考えずに彼女の後を追った。
そして住宅街に入る直前に彩花に追いついた。
「ちょっと待ってくれっ!」
俺は背後から彩花に向かって大きな声で呼びかけた。
「え…?」
驚いた様子で振り向く彼女に思わず息を飲んだ。
彩花…っ!
そこには俺の15年前の初恋だった女性…彩花が当時と何も変わらぬ姿で立っていたのだ。
「あ…彩花…」
俺は一歩彼女に近づいた。
「え…?」
怪訝そうに歪む彼女の眉。
「彩花っ!」
目の前には15年間一度も忘れた事の無かった初恋の彼女。気付けば俺の理性は吹き飛び、彩花を力強く抱きしめていた。
あの頃は彩花は俺よりもずっと大きかったのに…今は抱きしめると俺の腕の中にすっぽりと納まってしまう程いに小さくてか細い。
こんな小さな体で…アイツから俺の事を身を挺して…自分の命など顧みずに助けてくれたなんて…!
彩花が愛しくてたまらなかった。
すると…。
「キ…」
俺の腕の中で彩花が震えた。
「彩花…?」
名前を呼んだ次の瞬間―。
「キャアアアアアアッ!!ち、痴漢っ!!」
彩花が絶叫した。
「え?ち、痴漢?!」
驚いて彩花から離れると、彼女は目に涙をためてブルブルと震えている。
しまった…!
突然抱きしめたものだから彩花を怯えさせてしまったのだ。
「あ、あの…あ、彩花…?」
しかし彩花は俺に名前を呼ばれるとさらに叫んだ。
「ち、近寄らないでっ!」
そしてスマホを取り出して通報しようとした。
ま、まずいっ!
俺は踵を返すと、夜の町を走って逃げた。もうこうなった以上、彩花に近づくことは出来ない。
俺は自分の愚かさを呪った。
思わず彩花に会えた嬉しさで、理性が一瞬で吹き飛んでしまった。
そして気付けば彼女を強く抱きしめていた…。
この時、俺は自覚した。
ああ、俺は…一瞬で本当の恋に堕ちてしまったのだ―と。
6月9日は何としても彩花の命を救い…恋人同士になりたい…。
愚かにも俺はそんなことを考えていたのだった。
この後、絶望を味わうことになるとは思いもせずに―。
今の時刻は午後4時半―。
彩花は大体いつも19時近くにアパートに戻っていた。念には念を入れて18時半にはアパート付近で待ち伏せしていた方がいいだろう。本来であればアパートを直接訪ねてもいいのだが、何しろ彩花は今の俺の姿を知らないのだ。押しかければ怯えられるに決まっている。
「仕方ない…カフェで時間でも潰すか…」
俺は駅前のカフェで2時間粘ることに決めた―。
****
18時30分―
駅の出入り口が良く見えるカフェのカウンター席で何げなく駅から出てくる人々を見つめていた時のことだった。
何と彩花が駅から出てきたのだ。
「!」
俺は驚きのあまり目を見張り…持ってきた写真と見比べて確認した。
間違いないっ!きっと…あれは彩花だっ!俺は急いでカフェを飛びだすと、後先の事
を何も考えずに彼女の後を追った。
そして住宅街に入る直前に彩花に追いついた。
「ちょっと待ってくれっ!」
俺は背後から彩花に向かって大きな声で呼びかけた。
「え…?」
驚いた様子で振り向く彼女に思わず息を飲んだ。
彩花…っ!
そこには俺の15年前の初恋だった女性…彩花が当時と何も変わらぬ姿で立っていたのだ。
「あ…彩花…」
俺は一歩彼女に近づいた。
「え…?」
怪訝そうに歪む彼女の眉。
「彩花っ!」
目の前には15年間一度も忘れた事の無かった初恋の彼女。気付けば俺の理性は吹き飛び、彩花を力強く抱きしめていた。
あの頃は彩花は俺よりもずっと大きかったのに…今は抱きしめると俺の腕の中にすっぽりと納まってしまう程いに小さくてか細い。
こんな小さな体で…アイツから俺の事を身を挺して…自分の命など顧みずに助けてくれたなんて…!
彩花が愛しくてたまらなかった。
すると…。
「キ…」
俺の腕の中で彩花が震えた。
「彩花…?」
名前を呼んだ次の瞬間―。
「キャアアアアアアッ!!ち、痴漢っ!!」
彩花が絶叫した。
「え?ち、痴漢?!」
驚いて彩花から離れると、彼女は目に涙をためてブルブルと震えている。
しまった…!
突然抱きしめたものだから彩花を怯えさせてしまったのだ。
「あ、あの…あ、彩花…?」
しかし彩花は俺に名前を呼ばれるとさらに叫んだ。
「ち、近寄らないでっ!」
そしてスマホを取り出して通報しようとした。
ま、まずいっ!
俺は踵を返すと、夜の町を走って逃げた。もうこうなった以上、彩花に近づくことは出来ない。
俺は自分の愚かさを呪った。
思わず彩花に会えた嬉しさで、理性が一瞬で吹き飛んでしまった。
そして気付けば彼女を強く抱きしめていた…。
この時、俺は自覚した。
ああ、俺は…一瞬で本当の恋に堕ちてしまったのだ―と。
6月9日は何としても彩花の命を救い…恋人同士になりたい…。
愚かにも俺はそんなことを考えていたのだった。
この後、絶望を味わうことになるとは思いもせずに―。
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