上 下
56 / 200

第1章 56 恋人宣言

しおりを挟む
 6月1日金曜日―

「あと8日でたっくんの誕生日か…」

仕事から帰り、夜ご飯の準備をしながら何気なく壁に掛けてあるカレンダーを見た。
拓也さんとの連絡は相変わらず途絶えたまま。今では自分から彼のスマホに連絡をいれるのはやめてしまった。

何故なら…連絡が取れないという、辛い現実から目をそむけたかったから…。



「よし、完成」

フライパンの火を止めると、皿に出来上がった料理を盛り付けた。

今夜のメニューはガパオライス。

この料理はお財布が厳しい時や時間が無い時にはうってつけの料理だった。
みじん切りにした玉ねぎやピーマン、人参…といった余った野菜をブレンダーでみじん切りにして、鶏挽肉と一緒にフライパンで炒めて、市販のルウを投入してさらに炒めて完成。


「う~ん…ちょっと作りすぎちゃったかな…?」

フライパンにこんもりと出来上がったガパオを見てため息が出てしまった。
たっくんや拓也さんがいれば…これくらいの量、なんてことは無いのに…。

「いいや、残りは冷凍にしてしまおう」

そこで台所に置いた小さな食器棚からコンテナボックスを取り出した時…。


ピンポーン

突然、アパートにインターホンが鳴り響いた。

「ま、まさか…た、拓也さん…?」

誰かも確認せずに私は急いで扉を開けた。

ガチャッ!

「あ…」

「こんばんは。彩花。…ごめん、待っただろう?」

Tシャツにジーンズ姿の背の高い拓也さんが申し訳無さげに立っていた。

「も、勿論…待っていたに決まってる…!」

最後まで話す事は出来なかった。何故なら拓也さんが私を抱きしめ、キスをしてきたからだ。

私達は暫くの間…玄関先で無言のままキスを交わし続けた―。



****

「美味そうな匂いだな~…今夜の料理は何だい?」

私の向かい側に座った拓也さんがテーブルの上に置かれた料理を見て尋ねてきた。

「これはね、ガパオライスって言うんだよ?タイ料理でね…最近はまってるんだ~」

グラスに注いだ麦茶を置きながら拓也さんに説明した。

「そうなのか?何だか食欲をそそられる匂いだ…」

「うん、すごく美味しいんだよ?それじゃ食べようか?」

「そうだな」

「「頂きます」」

私達は声を揃えて、食事を開始した。



「うん!旨い!最高だ」

拓也さんは余程お腹が空いていたのか、物凄い速さで食べている。

「まだまだご飯もガパオも沢山残っているからいっぱい食べて?」

「本当か?ありがとう!それじゃ…お代わり!」

拓也さんは子供のような無邪気な笑みを浮かべて、お皿を差し出してきた―。



****

食事が終わった後、私達は拓也さんが買ってきてくれたビールを一緒に飲みながら話をしていた。

「彩花、明日一緒に卓也の誕生プレゼントを買いに行かないか?」

「うん。でもそれって…今夜は一緒にいられるって…こと…?」

上目遣いに拓也さんを見る。

「ああ、勿論さ」

拓也さんは私の肩を抱き寄せ、額にキスしてきた。

今の私は…とても幸せだ…。

「お金なら俺が払うから、そこの所は気にするなよ?」

私の肩を抱き寄せたまま拓也さんが言葉を続ける。

「え…?でも私も払うよ」

「いいって、しょっちゅう彩花には料理をご馳走になっているんだし…そこは気にするなよ」

「う、うん…でも…」

すると拓也さんが私の頭を撫でながら言った。

「…だったら、来年は彩花が卓也に誕生プレゼントを買ってあげてくれよ。俺の分までさ」

その言葉は…何処か意味深で、寂しげに聞こえるのは、きっと…私の気の所為だよね…?

「うん…分かったよ…。それで?たっくんにはどんなプレゼントを買うつもりなの?」

「…本当はゲーム機を買ってやりたいけど…他の子供達に取られて遊べなくなる可能性もあるからな…だから卓也の好きな昆虫図鑑を買ってやろうかと思ってる」

「あ、それはいいかもしれない。それじゃ明日は本屋さんに行くんだね?」

「ああ、そうさ。映画を観た帰りにな?」

「え…?映画…?ま、まさか…ホラーじゃないよね…?」

「まさか!今話題の恋愛映画だよ。…一応デートのつもりなんだけどな」

「デート…?え…ええっ?!デ、デート?!」

その言葉に顔が真っ赤になる。

「何だよ?違うのか?俺達恋人同士だろう?」

「へ?こ、こ、恋人…?」

ますます顔が赤くなる。

「え…?ひょっとして…そう思っていたのは俺だけか…?」

拓也さんの顔に戸惑いの表情が浮かぶ。

「う、ううんっ!そ、そんな事無い!わ、私達は…恋人同士…だよ?」

すると拓也さんはフッと笑った。

「良かった…俺だけがそう思っていなくて…」

そして私を抱きしめると耳元で囁く。

「好きだ…彩花…」

「私も…拓也さんが好き…」

そして、どちらからともなくキスを交わし…今夜も2人で甘い夜を過ごした―。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

そこは優しい悪魔の腕の中

真木
恋愛
極道の義兄に引き取られ、守られて育った遥花。檻のような愛情に囲まれていても、彼女は恋をしてしまった。悪いひとたちだけの、恋物語。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

イケメン御曹司、地味子へのストーカー始めました 〜マイナス余命1日〜

和泉杏咲
恋愛
表紙イラストは「帳カオル」様に描いていただきました……!眼福です(´ω`) https://twitter.com/tobari_kaoru ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 私は間も無く死ぬ。だから、彼に別れを告げたいのだ。それなのに…… なぜ、私だけがこんな目に遭うのか。 なぜ、私だけにこんなに執着するのか。 私は間も無く死んでしまう。 どうか、私のことは忘れて……。 だから私は、あえて言うの。 バイバイって。 死を覚悟した少女と、彼女を一途(?)に追いかけた少年の追いかけっこの終わりの始まりのお話。 <登場人物> 矢部雪穂:ガリ勉してエリート中学校に入学した努力少女。小説家志望 悠木 清:雪穂のクラスメイト。金持ち&ギフテッドと呼ばれるほどの天才奇人イケメン御曹司 山田:清に仕えるスーパー執事

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

大好きな背中

詩織
恋愛
4年付き合ってた彼氏に振られて、同僚に合コンに誘われた。 あまり合コンなんか参加したことないから何話したらいいのか… 同じように困ってる男性が1人いた

ヴァンパイア♡ラブどっきゅ〜ん!

田口夏乃子
恋愛
ヴァンパイア♡ラブセカンドシーズンスタート♪ 真莉亜とジュンブライトは、ついにカップルになり、何事もなく、平和に過ごせる……かと思ったが、今度は2人の前に、なんと!未来からやってきた真莉亜とジュンブライトの子供、道華が現れた! 道華が未来からやってきた理由は、衝撃な理由で!? さらにさらに!クリスの双子の妹や、リリアを知る、謎の女剣士、リリアの幼なじみの天然イケメン医者や、あのキャラも人間界にやってきて、満月荘は大騒ぎに! ジュンブライトと静かな交際をしたいです……。 ※小学校6年生の頃から書いていた小説の第2弾!amebaでも公開していて、ブログの方が結構進んでます(笑)

恋とキスは背伸びして

葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員 成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長 年齢差 9歳 身長差 22㎝ 役職 雲泥の差 この違い、恋愛には大きな壁? そして同期の卓の存在 異性の親友は成立する? 数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの 二人の恋の物語

処理中です...