6月9日はきっと晴れるから

第1章 51 2人の賭け

「拓也さん？どうかしたの？」

あまりにも拓也さんの顔色が悪かったので心配になって声を掛けた。

「え？な、何が？」

明らかに狼狽えた様子で返事をする拓也さん。

「何がって…。すごく顔色が悪いから…大丈夫？どうかしたの？」

「別に、どうもしないよ」

そう言って拓也さんは煽るようにビールを飲む。

「けど…」

どうしよう…。私は何かマズイ事を口にしてしまったのだろうか？
すると拓也さんが笑みを浮かべて私の頭を撫でてきた。

「ごめん、彩花。まさか卓也をここに誘うなんて、考えてなかったから驚いただけなんだよ。俺は卓也の誕生日には遊園地に連れて行こうかと思っていたからさ。まさか彩花はスパを考えていたとは思わなくて」

「な、なんだ…そうだったの？突然顔色を変えるからどうしたのかと思っちゃったよ」

けれど…。
嘘だ。

返事をしながら思った。
拓也さんは…私に何か重大な嘘をついている。

「ああ、そうなんだ。ごめんな？驚かせてしまって」

「いいよ、考えてみれば誕生日に温泉に皆で行くよりは、遊園地の方がいいかもね。だって温泉だったら、たっくんは男湯にいってしまうから、あんまり一緒に過ごせる時間が取れないしね？」

「ああ、そうなんだよ。スパは別に誕生日の日じゃなくてもいいんじゃないかな？ほら…行こうと思えば…いつでも一緒に行けるわけだし…」

拓也さんは私から視線をそらせるように鶏の唐揚げにレモンを絞りながら言った。

「うん、そうだね…」

曖昧に返事をしながら心の中で拓也さんに語りかける。

拓也さん、その言葉も…恐らく嘘なんだよね？

拓也さんは何処か不思議な人だ。まるで何もかもお見通しのような台詞を言ってくるし…私を見る時の目が、時々今にも泣きそうな時があるし、現に私の前で涙を浮かべるときだってある。そんな姿を見てしまえば、どうしようもなく不安な気持ちになってしまう。

拓也さん…貴方は本当に今も、これから先も…。私とたっくんの側にいてくれるの？本当に…行こうと思えばいつでも一緒に行けるの…？

「どうかしたのか？彩花。なんだか元気が無いように見えるけど？」

唐揚げを食べていた拓也さんが不思議そうな顔で尋ねてきた。

「う、ううん。そんな事無いよ。ただ…6月9日、遊園地に行くなら雨にならなければいいなと思って」

「ああ、それなら大丈夫だって。ほら、前にも言っただろう？6月9日はきっと…いや、必ず晴れるから」

「随分、はっきり言い切れるよね？もし違ってたらどうするの？」

からかいまじりに言ってみる。

「大丈夫。絶対の自身があるさ」

腕を組んで頷く拓也さん。

「本当？なら…賭けない？」

「賭け？」

首を傾げる拓也さん。

「そう、賭けだよ」

「よし、いいぞ。なら彩花は雨が降るに賭けるんだな？」

「うん、雨に賭けるよ」

「よし、分かった。それじゃ俺は晴れに賭ける。そうだな…もし俺が勝ったら…一緒にホラー映画観に行ってもらおうかな？」

「うっ！」

拓也さんは私がホラー映画が苦手なのを知っていて、とんでも無いことを言ってきた。

「来月公開予定のホラー映画があるんだけどさ、1人で映画観に行くのは味気なくて…彩花が一緒に行ってくれると嬉しいんだけな？」

拓也さんはニヤニヤしながら言う。

「い、いいよ…。な、なら私がもし勝ったら…」

「勝ったら？」


私は意を決して、この言葉を口にした。

「たっくんを引き取って育てたいの…お願い、協力して…」

「…！」

拓也さんが息を呑む気配を感じた―。