41 / 200
第1章 41 たっくんとお出かけ
しおりを挟む
翌朝―
私はバスに揺られて、たっくんのいる児童相談所を目指していた。そこは駅から外れた場所にあるので車かバスを使わないと行くことが出来ないのだ。
私に免許があれば車を借りたいところだけれども、生憎持っていない。大体教習所に通うお金を工面できないし、車を買うことも駐車場スペースを借りる事すら出来ないのだから。
「私って…一生こんな暮らししていくのかな…」
出来る事なら拓也さんと結婚したい。でも私は何となく分かってしまった。拓也さんに初めて抱かれたあの夜…。彼のあまりにも悲し気な、切羽詰まった様子はただ事ではなかった。
しかも彼は私を見つめながら目に薄っすらと涙を浮かべていたのだから。
きっと、私と拓也さんは一緒にいられない運命なのだろう…。
「拓也さん…」
ポツリと名前を呟くと、私の胸はズキリと痛んだ―。
****
9時50分―
児童相談所の前のバス停にバスは到着した。バスから降りた私の心はほんの少しだけウキウキしていた。
もうすぐ、たっくんに会えるんだ…そう考えるだけで、心が温かくなっていくのが自分でも分かった。
「さて、たっくんに会いに行こう」
私は玄関へと向かった―。
「こちらでお待ち下さい」
若い男性職員に通された部屋は前回たっくんに会いに来た時と同じ面会室だった。
「ありがとうございます」
頭を下げてお礼を述べると男性職員は会釈をして、部屋の扉は閉ざされた。
カチコチカチコチ…
壁に掛けられた時計の秒針を刻む音だけが静かな部屋に響き渡ってる。
…それにしても、なんでこんなに静かなのだろう?私が子供の時に暮らしていた児童相談所はとても騒がしかったのに…。
その時―。
ガラッ!
勢いよく扉が開かれ、たっくんが部屋に現れた。
「たっくん!」
椅子から立ち上がると、たっくんが駆け寄り抱き着いてきた。
「お姉ちゃん!」
「たっくん…会いたかったよ…」
たっくんを抱きしめ、彼の小さな背中を撫でた。
「うん、僕もお姉ちゃんに会いたかった…」
そして私とたっくんは少しの間、無言で抱き合った―。
****
「ありがとうございます。外出許可を出していただいて」
職員室の前で、先ほど部屋に案内してくれた男性職員にお礼を述べた。
「いえいえ、卓也君がこんなに懐いている方ですから信用しますよ。それでは16時までには戻ってきて下さいね」
「はい、ありがとうございます」
頭を下げると、私はたっくんに声を掛けた。
「それじゃ、行こうか?」
「うん!」
たっくんは嬉しそうに笑った―。
「たっくん、何処か行きたいところある?」
建物を出るとすぐに私は尋ねた。
「う~ん…僕、ほとんど出掛けたことが無いから…どこがおもしろいのかわからないんだ」
寂しげに言うたっくんの姿と自分の子供の頃の姿が重なり、胸が痛んだ。
でも、私にはもうすでにあるプランが出来ていた。
「大丈夫、たっくん。お姉ちゃんに任せて?今日はとっておきのプランを考えてきたんだから」
「え?そうなの?」
たっくんが目を見開く。
「うん、そうだよ。それじゃ、とりあえずバスに乗ろうか?」
「うん!」
こうして私とたっくんは手を繋いでバス停に向かって歩き出した―。
私はバスに揺られて、たっくんのいる児童相談所を目指していた。そこは駅から外れた場所にあるので車かバスを使わないと行くことが出来ないのだ。
私に免許があれば車を借りたいところだけれども、生憎持っていない。大体教習所に通うお金を工面できないし、車を買うことも駐車場スペースを借りる事すら出来ないのだから。
「私って…一生こんな暮らししていくのかな…」
出来る事なら拓也さんと結婚したい。でも私は何となく分かってしまった。拓也さんに初めて抱かれたあの夜…。彼のあまりにも悲し気な、切羽詰まった様子はただ事ではなかった。
しかも彼は私を見つめながら目に薄っすらと涙を浮かべていたのだから。
きっと、私と拓也さんは一緒にいられない運命なのだろう…。
「拓也さん…」
ポツリと名前を呟くと、私の胸はズキリと痛んだ―。
****
9時50分―
児童相談所の前のバス停にバスは到着した。バスから降りた私の心はほんの少しだけウキウキしていた。
もうすぐ、たっくんに会えるんだ…そう考えるだけで、心が温かくなっていくのが自分でも分かった。
「さて、たっくんに会いに行こう」
私は玄関へと向かった―。
「こちらでお待ち下さい」
若い男性職員に通された部屋は前回たっくんに会いに来た時と同じ面会室だった。
「ありがとうございます」
頭を下げてお礼を述べると男性職員は会釈をして、部屋の扉は閉ざされた。
カチコチカチコチ…
壁に掛けられた時計の秒針を刻む音だけが静かな部屋に響き渡ってる。
…それにしても、なんでこんなに静かなのだろう?私が子供の時に暮らしていた児童相談所はとても騒がしかったのに…。
その時―。
ガラッ!
勢いよく扉が開かれ、たっくんが部屋に現れた。
「たっくん!」
椅子から立ち上がると、たっくんが駆け寄り抱き着いてきた。
「お姉ちゃん!」
「たっくん…会いたかったよ…」
たっくんを抱きしめ、彼の小さな背中を撫でた。
「うん、僕もお姉ちゃんに会いたかった…」
そして私とたっくんは少しの間、無言で抱き合った―。
****
「ありがとうございます。外出許可を出していただいて」
職員室の前で、先ほど部屋に案内してくれた男性職員にお礼を述べた。
「いえいえ、卓也君がこんなに懐いている方ですから信用しますよ。それでは16時までには戻ってきて下さいね」
「はい、ありがとうございます」
頭を下げると、私はたっくんに声を掛けた。
「それじゃ、行こうか?」
「うん!」
たっくんは嬉しそうに笑った―。
「たっくん、何処か行きたいところある?」
建物を出るとすぐに私は尋ねた。
「う~ん…僕、ほとんど出掛けたことが無いから…どこがおもしろいのかわからないんだ」
寂しげに言うたっくんの姿と自分の子供の頃の姿が重なり、胸が痛んだ。
でも、私にはもうすでにあるプランが出来ていた。
「大丈夫、たっくん。お姉ちゃんに任せて?今日はとっておきのプランを考えてきたんだから」
「え?そうなの?」
たっくんが目を見開く。
「うん、そうだよ。それじゃ、とりあえずバスに乗ろうか?」
「うん!」
こうして私とたっくんは手を繋いでバス停に向かって歩き出した―。
0
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
イケメン御曹司、地味子へのストーカー始めました 〜マイナス余命1日〜
和泉杏咲
恋愛
表紙イラストは「帳カオル」様に描いていただきました……!眼福です(´ω`)
https://twitter.com/tobari_kaoru
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
私は間も無く死ぬ。だから、彼に別れを告げたいのだ。それなのに……
なぜ、私だけがこんな目に遭うのか。
なぜ、私だけにこんなに執着するのか。
私は間も無く死んでしまう。
どうか、私のことは忘れて……。
だから私は、あえて言うの。
バイバイって。
死を覚悟した少女と、彼女を一途(?)に追いかけた少年の追いかけっこの終わりの始まりのお話。
<登場人物>
矢部雪穂:ガリ勉してエリート中学校に入学した努力少女。小説家志望
悠木 清:雪穂のクラスメイト。金持ち&ギフテッドと呼ばれるほどの天才奇人イケメン御曹司
山田:清に仕えるスーパー執事
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ヴァンパイア♡ラブどっきゅ〜ん!
田口夏乃子
恋愛
ヴァンパイア♡ラブセカンドシーズンスタート♪
真莉亜とジュンブライトは、ついにカップルになり、何事もなく、平和に過ごせる……かと思ったが、今度は2人の前に、なんと!未来からやってきた真莉亜とジュンブライトの子供、道華が現れた!
道華が未来からやってきた理由は、衝撃な理由で!?
さらにさらに!クリスの双子の妹や、リリアを知る、謎の女剣士、リリアの幼なじみの天然イケメン医者や、あのキャラも人間界にやってきて、満月荘は大騒ぎに!
ジュンブライトと静かな交際をしたいです……。
※小学校6年生の頃から書いていた小説の第2弾!amebaでも公開していて、ブログの方が結構進んでます(笑)
恋とキスは背伸びして
葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員
成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長
年齢差 9歳
身長差 22㎝
役職 雲泥の差
この違い、恋愛には大きな壁?
そして同期の卓の存在
異性の親友は成立する?
数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの
二人の恋の物語
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる