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第1章 33 落ち込む私
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22時半―
「それじゃ、俺はそろそろ帰るよ」
コーヒーを飲み終えた拓也さんが立ち上がった。
「ありがとう。遅くまで付き合わせちゃってごめんね」
拓也さんを玄関まで見送る為に私も立ち上がった。
「拓也さんの家はここから近いの?」
靴を履いている拓也さんに何げなく尋ねた。
「俺の家…か…そうだな。…近いのに…遠い場所にあるよ」
少しの間を開けて、拓也さんは返事をした。一瞬間が開いたのが気になった。どこか寂し気な様子も…。けれど一番気になったのは今の言葉だった。
『近いのに…遠い場所にあるよ』
「ねぇ、拓也さん?今の…どういう意味なの?」
声を掛けると、拓也さんは笑顔を向けた。
「ごめん、今の話は忘れてくれ。4駅先の駅近くに住んでるんだ」
「あ?そうなのね?」
「ああ。それじゃ、おやすみ彩花。」
「うん、おやすみなさい。気を付けて帰ってね」
そして拓也さんは笑顔で手を振ると、帰って行った。
バタン…
扉が閉まり、アパートはまた静かになった。
「…本当に拓也さんて…どこか不思議な人…」
時々予言めいた発言をするし、たっくんの事について妙に詳しいし、たっくんの父親を酷く憎んでいることも分かった。
それに…。
拓也さんが私を見る目…。時々、拓也さんはとても切なげな目で私を見つめてくるし、さりげなく触れてくる。
まるで恋人に接するかのように…。そして、私はそれが嫌では無い。
それどころか、かつて私は拓也さんと恋人同士だったことがあるような気がしてならない。
そんなはずはないのに…。
おかしな考えを捨てる為に私は首を振った。
「さて、片づけをしたら…シャワー浴びて寝よっと」
そして私は後片付けを始めた―。
****
翌日―
仕事に行くために、玄関のカギを掛けながらお隣のたっくんの部屋をチラリと見た。
「たっくん…」
たっくんの父親は逮捕されてしまった。そしてたっくんは昨夜は警察でお世話になったけれども、拓也さんの話では今日にでも児童相談所に預けられてしまうかもしれない。
そうなると…このアパートの部屋はどうなってしまうのだろう?
「たっくんはもう…ここに戻って来ないのかな…?警察の人に尋ねれば教えてくれるかな…?」
少しの間、私はアパートの前で突っ立っていたけれども…会社に行かなければならな
いのを思い出し、すぐに階段へ向かった―。
****
昼休み―
電話番をしながら、会社に残って私はお昼を食べていた。
「あれ?南さん。今日はパンなんて珍しいねえ?」
お昼休憩する為に事務所に現れたのは、現在この会社で嘱託勤務している長嶋さん。この人は会社で何かと私を気遣ってくれる数少ない職場仲間だった。
「ええ。今朝はちょっと色々あってお弁当を作ってくる余裕が無かったんです」
「そうなのかい?だったらたまには他の社員さん達のように外で食事をしてくればいいじゃないか」
長嶋さんは愛妻弁当?をカバンの中からとりだし、机の上に置いた。
「ええ…でもそうすると、電話番をする人がいなくなってしまうので」
すると長嶋さんはため息をついた。
「全…ここの人たちは皆で南さんをいいように扱って…。お?今日の弁当はうまそうだな」
長嶋さんは嬉しそうだった。
「奥様の手作りですか?」
「いやぁ、違うよ。娘の手作りだよ。自分の弁当を作りながらついでだって言って作ってくれているんだよ」
「そうだったのですか」
そうだ…長嶋さんは確か娘さんと2人暮らしだったんだ…。
「だからかな、南さんは娘と年も近いから…気になるんだよ。いつも雑用を押し付けれれて、気の毒だなって」
「長嶋さん…」
「だから困ったことがあれば相談にのるよ」
「はい、ありがとうございます」
長嶋さんの言葉のおかげで、たっくんの事で落ち込んでいた気持ちが少しだけ浮上した―。
「それじゃ、俺はそろそろ帰るよ」
コーヒーを飲み終えた拓也さんが立ち上がった。
「ありがとう。遅くまで付き合わせちゃってごめんね」
拓也さんを玄関まで見送る為に私も立ち上がった。
「拓也さんの家はここから近いの?」
靴を履いている拓也さんに何げなく尋ねた。
「俺の家…か…そうだな。…近いのに…遠い場所にあるよ」
少しの間を開けて、拓也さんは返事をした。一瞬間が開いたのが気になった。どこか寂し気な様子も…。けれど一番気になったのは今の言葉だった。
『近いのに…遠い場所にあるよ』
「ねぇ、拓也さん?今の…どういう意味なの?」
声を掛けると、拓也さんは笑顔を向けた。
「ごめん、今の話は忘れてくれ。4駅先の駅近くに住んでるんだ」
「あ?そうなのね?」
「ああ。それじゃ、おやすみ彩花。」
「うん、おやすみなさい。気を付けて帰ってね」
そして拓也さんは笑顔で手を振ると、帰って行った。
バタン…
扉が閉まり、アパートはまた静かになった。
「…本当に拓也さんて…どこか不思議な人…」
時々予言めいた発言をするし、たっくんの事について妙に詳しいし、たっくんの父親を酷く憎んでいることも分かった。
それに…。
拓也さんが私を見る目…。時々、拓也さんはとても切なげな目で私を見つめてくるし、さりげなく触れてくる。
まるで恋人に接するかのように…。そして、私はそれが嫌では無い。
それどころか、かつて私は拓也さんと恋人同士だったことがあるような気がしてならない。
そんなはずはないのに…。
おかしな考えを捨てる為に私は首を振った。
「さて、片づけをしたら…シャワー浴びて寝よっと」
そして私は後片付けを始めた―。
****
翌日―
仕事に行くために、玄関のカギを掛けながらお隣のたっくんの部屋をチラリと見た。
「たっくん…」
たっくんの父親は逮捕されてしまった。そしてたっくんは昨夜は警察でお世話になったけれども、拓也さんの話では今日にでも児童相談所に預けられてしまうかもしれない。
そうなると…このアパートの部屋はどうなってしまうのだろう?
「たっくんはもう…ここに戻って来ないのかな…?警察の人に尋ねれば教えてくれるかな…?」
少しの間、私はアパートの前で突っ立っていたけれども…会社に行かなければならな
いのを思い出し、すぐに階段へ向かった―。
****
昼休み―
電話番をしながら、会社に残って私はお昼を食べていた。
「あれ?南さん。今日はパンなんて珍しいねえ?」
お昼休憩する為に事務所に現れたのは、現在この会社で嘱託勤務している長嶋さん。この人は会社で何かと私を気遣ってくれる数少ない職場仲間だった。
「ええ。今朝はちょっと色々あってお弁当を作ってくる余裕が無かったんです」
「そうなのかい?だったらたまには他の社員さん達のように外で食事をしてくればいいじゃないか」
長嶋さんは愛妻弁当?をカバンの中からとりだし、机の上に置いた。
「ええ…でもそうすると、電話番をする人がいなくなってしまうので」
すると長嶋さんはため息をついた。
「全…ここの人たちは皆で南さんをいいように扱って…。お?今日の弁当はうまそうだな」
長嶋さんは嬉しそうだった。
「奥様の手作りですか?」
「いやぁ、違うよ。娘の手作りだよ。自分の弁当を作りながらついでだって言って作ってくれているんだよ」
「そうだったのですか」
そうだ…長嶋さんは確か娘さんと2人暮らしだったんだ…。
「だからかな、南さんは娘と年も近いから…気になるんだよ。いつも雑用を押し付けれれて、気の毒だなって」
「長嶋さん…」
「だから困ったことがあれば相談にのるよ」
「はい、ありがとうございます」
長嶋さんの言葉のおかげで、たっくんの事で落ち込んでいた気持ちが少しだけ浮上した―。
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