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第1章 10 しつこい誘い
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午後6時―
本日分の業務も終了し、退勤時間になった。
「お疲れ様でした」
まだ残業で残っている社員の人達に挨拶をし、私は職場を出ると伸びをした。
「ふ~…やっぱり月曜日の仕事は疲れるわ…」
18歳の時から勤めているこの会社は私にとって、決して働きやすい職場とは言えなかった。女性社員はたった私を含めてもたった4人しかいないのに、7年勤めていても未だに挨拶と仕事上の話だけの関係にとどまっていた。
彼女達は全員アラフォー世代で、既婚、子持ちと言う事で話があうのだろうし、全員短大卒だった。だから高卒でまだ20代の私と親しくするのは嫌なのかもしれない。
総務課という部署に配属されているからありとあらゆる雑用業務まで押し付けられているので、昼休みも満足に休むことが出来ないでいた。食事をしながら電話当番なんて、はっきり言って休んでいる気にもなれない。
おまけに給料だって、ほかの人達に比べれば安いのだから。
「転職したいけど…高卒の私を雇ってくれる会社なんて早々無いだろうし…」
お金も中々たまらないから、もっと良いアパートに暮らしたくても暮らせない。そこで現在は副業として、ライティングのワーカー業務を在宅で行っているけれども、最近は仕事の奪い合いになっている状態で以前ほど稼ぎは良くなかった。
「ふぅ~…ままならないわ…」
そして前方にまたしても厄介な人物がいた。
椎名さんだ。
ガードレールに寄りかかる様な格好で椎名さんがじっと私を見つめているのだ。
しかも前方、駅に向かう方面に。
嫌だな…あの前を通らないと駅に行けないし、しかもどう見てもあの様子だと私を待っているようにしか見えない。
仕方無い…。
私は意を決して、駅へ向かって歩き出し…。
「南さん。食事でもして帰ろうよ」
案の定、椎名さんは私に声を掛けてきた。けれども私には断ると言う選択肢しかない。
「いえ、お金を節約しなければいけないので遠慮しておきます」
すると椎名さんが笑みを浮かべた。
「いやだな~女の子からお金取るわけないでしょう?しかも南さんみたいに可愛い人からさ。何でも好きな物食べさせてあげるから…一緒に行こう?」
そしてあろう事か、椎名さんは私の手を握りしめて来た。その力はとても強く、私の力では振り払えそうに無かった。
「あ、あの…こんな事、困るんです…!」
同じ職場の人だから邪険にする事も出来ない。
「あ、それともどこか雰囲気の良い店で美味しいお酒と食事でもいいよ?どう?」
「どうと言われても…」
その時―。
「おい!人の彼女に何やってるんだよっ!」
背後で男の人の声が聞こえた。
「え…?」
その声にふりむくと、そこに立っていたのはどこかで見覚えのある男性が立っていた。
「何だ?お前は?」
椎名さんは機嫌悪そうに男性を見た。
「それはこっちの台詞だ。俺の彼女にそんな真似をするなんていい度胸しているな」
その人は大股で近付いてくると椎名さんの前に立った。男性は椎名さんよりも頭1つ分大きい。その姿に圧倒されたのか、私を引きつった顔で見ると言った。
「な、何だ…南さん。彼氏がいたのか…わ、悪かったね。それじゃ…」
椎名さんはパッと私から手を離すと大股で駅の方へ歩き去って行った。
「…」
その人は暫く椎名さんの後姿を見つめていたけれども、やがて人混みに紛れて見えなくなると、私の方を振り返った。
「大丈夫だった?」
「はい、ありがとうございました」
「良かった。助けてあげられて…」
そして、その人は優しい笑みを浮かべて私を見た―。
本日分の業務も終了し、退勤時間になった。
「お疲れ様でした」
まだ残業で残っている社員の人達に挨拶をし、私は職場を出ると伸びをした。
「ふ~…やっぱり月曜日の仕事は疲れるわ…」
18歳の時から勤めているこの会社は私にとって、決して働きやすい職場とは言えなかった。女性社員はたった私を含めてもたった4人しかいないのに、7年勤めていても未だに挨拶と仕事上の話だけの関係にとどまっていた。
彼女達は全員アラフォー世代で、既婚、子持ちと言う事で話があうのだろうし、全員短大卒だった。だから高卒でまだ20代の私と親しくするのは嫌なのかもしれない。
総務課という部署に配属されているからありとあらゆる雑用業務まで押し付けられているので、昼休みも満足に休むことが出来ないでいた。食事をしながら電話当番なんて、はっきり言って休んでいる気にもなれない。
おまけに給料だって、ほかの人達に比べれば安いのだから。
「転職したいけど…高卒の私を雇ってくれる会社なんて早々無いだろうし…」
お金も中々たまらないから、もっと良いアパートに暮らしたくても暮らせない。そこで現在は副業として、ライティングのワーカー業務を在宅で行っているけれども、最近は仕事の奪い合いになっている状態で以前ほど稼ぎは良くなかった。
「ふぅ~…ままならないわ…」
そして前方にまたしても厄介な人物がいた。
椎名さんだ。
ガードレールに寄りかかる様な格好で椎名さんがじっと私を見つめているのだ。
しかも前方、駅に向かう方面に。
嫌だな…あの前を通らないと駅に行けないし、しかもどう見てもあの様子だと私を待っているようにしか見えない。
仕方無い…。
私は意を決して、駅へ向かって歩き出し…。
「南さん。食事でもして帰ろうよ」
案の定、椎名さんは私に声を掛けてきた。けれども私には断ると言う選択肢しかない。
「いえ、お金を節約しなければいけないので遠慮しておきます」
すると椎名さんが笑みを浮かべた。
「いやだな~女の子からお金取るわけないでしょう?しかも南さんみたいに可愛い人からさ。何でも好きな物食べさせてあげるから…一緒に行こう?」
そしてあろう事か、椎名さんは私の手を握りしめて来た。その力はとても強く、私の力では振り払えそうに無かった。
「あ、あの…こんな事、困るんです…!」
同じ職場の人だから邪険にする事も出来ない。
「あ、それともどこか雰囲気の良い店で美味しいお酒と食事でもいいよ?どう?」
「どうと言われても…」
その時―。
「おい!人の彼女に何やってるんだよっ!」
背後で男の人の声が聞こえた。
「え…?」
その声にふりむくと、そこに立っていたのはどこかで見覚えのある男性が立っていた。
「何だ?お前は?」
椎名さんは機嫌悪そうに男性を見た。
「それはこっちの台詞だ。俺の彼女にそんな真似をするなんていい度胸しているな」
その人は大股で近付いてくると椎名さんの前に立った。男性は椎名さんよりも頭1つ分大きい。その姿に圧倒されたのか、私を引きつった顔で見ると言った。
「な、何だ…南さん。彼氏がいたのか…わ、悪かったね。それじゃ…」
椎名さんはパッと私から手を離すと大股で駅の方へ歩き去って行った。
「…」
その人は暫く椎名さんの後姿を見つめていたけれども、やがて人混みに紛れて見えなくなると、私の方を振り返った。
「大丈夫だった?」
「はい、ありがとうございました」
「良かった。助けてあげられて…」
そして、その人は優しい笑みを浮かべて私を見た―。
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