6月9日はきっと晴れるから

結城芙由奈@コミカライズ発売中

文字の大きさ
上 下
8 / 200

第1章 8 スーパーでの出来事

しおりを挟む
 あの後は特に隣の部屋で父親から虐待を受けているような様子は感じられなかった。代わりに部屋の中を歩き回っている音がずっと聞こえていた。ひょっとすると引越しの後片付けをしていたのかもしれない。


19時―

この日、お金を大分使い過ぎてしまった私の夜の食事はカップ麺だけになってしまった。 

「う~ん…来月まで食費最低1カ月1万円に抑えないと…」

お湯を沸かしながらガス代の前で私は腕を組んでぶつぶつ呟いていた。

「まずは朝はシリアルに安い低脂肪乳にして…野菜…は高いから、青汁の粉末で代用するとして…そうだ、冷凍食品が安いスーパーに行ってみよう。取りあえずカップ麺を食べたら買い物に行こうかな」

その時―。

ピーッ!

突然やかんのお湯が沸く音に驚いて、慌てて火を止めた。そしてあらかじめ準備しておいたカップ麺に慎重にお湯を注ぐとお盆に乗せてテーブルの上に運ぶ。

「何かネット動画でも見て食べようかな」

私の部屋にはテレビが無い。テレビを買うお金も節約したかったし、音楽を聞くようなオーディオ機器も無い。ノートパソコンがあればニュースだって知ることが出来るし、色々なコンテンツも見れるのだから貧乏人な私には必要無かった。
自分の好きなジャンルのネット動画を検索し、再生させると早速私はカップ麺を食べる事にした。

「いただきます」

パチンと手を叩き、動画を見ながらゆっくりカップ麺を味わった―。



 20時―

 駅前の激安スーパーに来ていた。カートを押しながら安い食品は無いか物色する。

「あ、鯖缶が安い。へ~水煮も味噌煮も1缶90円か…よし、買おうっと」

2缶ずつ、レジカゴにいれた。鯖の水煮は卵やパン粉、を入れてサバ缶のハンバーグが作れるし、味噌煮は片栗粉をまぶして揚げ焼きすれば鯖の龍田揚げにする事が出来る。

「冷凍にすれば1週間は食べられるものね~」

そして次にシリアル売り場へ向かい、お買い得品の大容量シリアルをゲット。牛乳は低脂肪を選べば普通の牛乳より格安だし…。

そしてレジに行って会計を済ませると、次はお隣の冷凍食品の店に向かった―。


 時間が遅い事もあってか、お隣の冷凍食品専門店の客はまばらだった。

「ううう…重いわ…先に冷凍食品を見れば良かったかも…」

 1Lの低脂肪乳と缶詰に大容量のシリアルの重さが私を襲う。
取りあえず店内のカートにお隣のスーパーで買った品物を入れると、冷凍食品を見て回った。

「あ、ここはひき肉がやす~い」

 冷凍ひき肉を手に、思わず笑みがこぼれる。これだけあれば色々調理できそうだ。他に冷凍野菜をいくつかレジカゴに入れてると、大きなカートをガラガラ通しながらレジへと向かい…。

「あっ!」

角を曲がり切れずに通路に置かれていた商品が積まれた段ボールに突っ込んでしまった。

ドサドサッ!

途端に床の上に落ちて行く売り物のパスタ。

「あ~いやだ、もうっ!」

慌てて拾い上げていると、近くにいた男性が一緒に拾い上げてくれた。

「すみません、ありがとうございます」

慌ててて頭を下げると、その人は私の方を振り返った。年の頃は私と同年代と思しき青年はニコリと笑った。

「いいえ、どう致しまして。こちらこそ、今日はありがとう」

「え?」

突然の意味深の言葉に首を傾げると、青年は笑みをうかべたまま「それじゃ」と言って真っすぐ出入り口に向かうと、そのまま自動ドアを開けて店を出て行ってしまった。

「何?今の人…?」

何処かで会った事があっただろうか?しかしいくら考えても思い出せない。
ひょっとして誰かと勘違いしているのかも…。

「ま、別にいいけどね」

そして私はレジへと向かい、会計を済ませると全ての荷物を自転車の籠に入れ、家路に着いた―。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

振られた私

詩織
恋愛
告白をして振られた。 そして再会。 毎日が気まづい。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

処理中です...