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<悪女の娘>④ ―エピローグ―
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ベンジャミンと一緒に彼の馬車で向かった病院は市街地にあった。周囲は病院以外は何もなく、とても寂しい場所に無機質な白いコンクリートの建物が立っているだけであった。病院の敷地内には綺麗に芝生と樹木が植えられている。
「ベンジャミン・・・ここに・・カサンドラという人物が・・入院しているの・・?」
私は窓に鉄格子がはめられた病院を見上げながら尋ねた。
「ああ、そうだよ。もう・・ここに入院して18年になるそうだよ。」
「18年・・・。」
その年数にゾッとした。同じだ・・・あの老人が収監された年と。モンタナ伯の罪状の中には監禁罪と婦女暴行罪と言うのがあった。しかも被害者の名前はカサンドラと記述があった。もしかして・・・・私は・・・暴行されて生まれてきた子供・・?
思わずぞっとして、自分の両肩を抱き締めるとベンジャミンが心配そうに声を掛けてきた。
「アンジェリカ・・大丈夫かい?顔色が悪い・・・やっぱり行くのはやめるかい?」
ベンジャミンは私の肩を抱き寄せながら言う。
「いいえ・・・いいえ、大丈夫よ。ベンジャミン。せっかくここまで来たのだから・・帰るなんてもったいないでしょう?」
私は笑みを浮かべてベンジャミンを見た。
「分かったよ、アンジェリカ。それじゃ・・中に入るよ?」
ベンジャミンに促され、私は病院の中へと足を踏み入れた―。
「すみません。カサンドラ・モンタナと言う女性の面会をしたいのですが・・・。」
ベンジャミンが病院の受付の女性に言うと、女性はあっさり返事をして私達にカサンドラの入院している部屋番号を告げた。カサンドラの部屋は2階の一番奥の部屋だった。
カツンカツン
石で出来た階段をベンジャミンと2人で歩く。病院内部は薄暗く、とても寒々しい印象を与える。
「ねえ・・・ベンジャミン。本当に・・ここは病院なのかしら?」
ベンジャミンの腕にしがみ付くように歩きながら私は尋ねた。
「もちろん、病院なのは間違いないよ。ところでアンジェリカ・・・。」
歩きながらベンジャミンは言う。
「どうしたの?ベンジャミン。」
「う、うん・・・。また・・お金を貸してくれないかな・・・?新規で立ち上げたビジネスが・・うまくいっていないんだよ。」
ベンジャミンは言葉を詰まらせるように言う。
「ベンジャミン・・・分かった、いいわよ。」
「本当?アンジェリカッ?!」
「ええ、だって貴方は私の婚約者だもの。困っている時に手を差し伸べるのが・・・私の役目でしょう?それで・・今回はいくら都合つければいいのかしら?」
するとベンジャミンは足を止めると言った。
「・・金貨・・10枚・・。」
「10枚・・・。」
今までで一番最高の金額だ。もうベンジャミンにはかれこれ金貨100枚近く渡している。そしてそれらのお金は・・・まだ一度も返してもらったことは無い。
すぐに返事をしない私に不安を覚えたのか、ベンジャミンが言った。
「・・やっぱり・・・無理・・かな?」
そして悲しそうな顔を見せる。いけない・・・彼は私の大切な婚約者なのよ?こんな悲しそうな顔をさせてしまった。だから私は言った。
「大丈夫よ。ベンジャミン。屋敷に帰ったらすぐにお金を用意してあげるわ。」
すると・・・。
「アンジェリカ・・・ありがとう・・・!」
そしてベンジャミンは私を抱き締めると深い口づけをしてきた。
「あ。んっ!ま、待って・・ベンジャミン。ここは・・病院だから・・んんっ。」
私は何とかベンジャミンを押しのけ、軽く睨むとベンジャミンは恥ずかしそうに頭を掻いている。だけど・・私は彼のこういうところも大好きだ。
そして気を取り直した私たちはカサンドラが入院している部屋を目指した―。
「ここ・・だね・・。」
ベンジャミンは扉を見ると言った。
「え、ええ・・・そうね。」
カサンドラが入院している部屋は廊下の一番奥にあり、窓も無いからより一層薄暗い。
「それじゃ・・・入るよ?」
ベンジャミンはドアノブを掴むとドアを開けた。
ギイイイ~・・・・。
さび付いたドアの開く音が聞こえる。ドアを開けて中へ入ると部屋の鉄格子窓のすぐそばにベッドが置かれ、1人の女性が窓の外を眺めいた。私たちが部屋の中へ入ってきたことに気付かないのか、こちらを振り向く気配がない。
「あの・・・。カサンドラ・・さん?」
私は近付き、声を掛けると女性は振り向いた。
「!」
私は女性の顔を見て驚いた。金の髪の女性は・・・青白い顔でやつれていたけれども・・。
ベンジャミンは声を震わせながら言った。
「アンジェリカに・・・そっくりだ・・。」
「あの・・貴女にお聞きしたいことがあるのです。母ライザは定期的に貴女に会いに来ていると聞いていますが。2人はどのような関係なのですか?」
「・・・。」
しかし、カサンドラはうつろな瞳で私を見つめたまま、黙っている。
「お願いです。それでは別の質問に答えて下さい。モンタナ伯は・・・一体貴女とどのような関係なのですか?貴女は・・・私の母ですか?」
「モンタナ伯・・?」
そこで初めてカサンドラが反応した。
「そう、モンタナ伯です。」
すると・・・・。
「イヤアアアアアッ!!」
突如、カサンドラは頭を抱え、髪を振り乱して絶叫した。
「!」
思わず後ずさると、ベンジャミンが私を支えてくれる。カサンドラは叫びながら言葉を発した。
「ライザ・・・どうして助けてくれなかったの?!そんなに・・私が憎かったの?!いやあああ!叔父様・・やめて・・許して・・私は・・叔父様の花嫁じゃないわっ!お願いよぉぉぉっ!痛い・・痛い・・・っ!ああ・・どうしよう・・子供が出来てしまったわ・・・。嫌よ・・産みたくない産みたくない産みたくない・・。」
しまいにはケタケタ笑い、私を指さすと言った。
「そうよ・・お前は私を苦しめる為に生まれてきた罪の子・・・罪人の娘よっ!」
もはや、私もベンジャミンも顔色が真っ青になっている。
「に・・逃げるんだっ!アンジェリカッ!」
「ベンジャミンッ!」
私はベンジャミンに手を引かれ、逃げるように病室を飛び出した―。
帰りの馬車の中―
「アンジェリカ・・・。さっきの話だけど・・・君はあの女性の娘なのかい?」
「ええ・・・。もうあの様子から間違いないわ。私はカサンドラと・・モンタナ伯との間に生まれた子・・。」
もう隠しようがなかった。私は全てベンジャミンに告白した―。
「・・・・。」
ベンジャミンは青ざめた顔で話を聞いていたが、やがて口を開いた。
「し・・信じられないよ・・。まさか・・アンジェリカが・・・そのモンタナ伯の娘だったなんて・・。」
「ええ・・。でも、私は私。もとからモンタナ伯ともカサンドラとも無関係だわ。だから・・ベンジャミン。ずっとそばにいてね・・?」
「あ、ああ・・もちろんだよ・・・。」
ベンジャミンはどこか上の空で返事をしているが・・・・大丈夫。私達は互いに愛し合っているのだから・・・。
そして私はベンジャミンの腕に寄り掛かり・・・目を閉じた―。
あれから1カ月の時が流れた。ベンジャミンからは一度も連絡が取れない。
彼は・・きっと新規の事業で忙しいのだろう。私は立ち上がると刺繍道具を持ってテラスへ行った。
穏やかなテラス席で刺繍をしていると、庭から声が聞こえてきた。どうやら妹と母のライザが庭のベンチで話しているようだ。風に乗って2人の会話が聞こえてくる・・。
「ありがとう。アンジェリーナ。貴女のお陰でベンジャミンとアンジェリカの婚約を破談にする事が出来たわ。」
え?破談?どういう事?
「でも・・お母様。どうてこんな回りくどい事を?わざわざ私を使ってお姉さまを・・?」
「仕方なかったのよ・・・。アンジェリカの来月の18歳の誕生日に・・正式に結婚させてほしいとベンジャミンが言ってきていたのだから・・。でも彼はダメよ。」
「・・・お姉さまからお金を借りて、ギャンブルや女性につぎ込んでいたからでしょう?」
「!」
そんな・・・。
「ええ・・・それにああいうタイプの男は、絶対自分から別れようとは言わないし。こちら側から持ち掛けても了承しないわ。だから・・・アンジェリカに真実を知らせようと思ったのよ。そうすればおのずとベンジャミンも知ることになると思ったのよ。」
そんな・・・お母様も・・・妹も・・・私をベンジャミンから引き離すために・・・私が知りたくなかった事実を・・・私自身の手で・・調べさせたの・・?
私は一歩ずつ2人の背後に近づいて行く。
「それにしても・・・ここまでうまくいくとは思わなかったわ。ベンジャミンはあっさり手を引き、犯罪者のモンタナ家の血筋を恐れて今までの借りたお金も全額綺麗に返してきたのだから・・・・。」
母は妖艶に笑った。その笑顔はとても美しく・・まさに悪知恵の働く悪女に見えた。
「お母様、アンジェリーナ。」
私が茂みから顔を出すと、2人は心底驚いた顔を見せた。
「ま、まあ・・・・。アンジェリカ・・今の話を聞いていたの・・?」
母ライザは引きつった笑身を浮かべた。
「はい、全て聞きました。でも・・・。」
私は母の首に腕を回し、抱き付くと言った。
「ありがとうございます・・・。ベンジャミンは悪人だったのですね・・?私の為を思って・・・別れさせる為に今回の出来事を引き起こさせたのですよね?ありがとうございます。」
すると母は私の背中に腕を回すと言った。
「ええ、そうよ。ベンジャミンは酷い男だったから・・・もっとあなたにはふさわしい男性を探してあげるから。」
「そうよ、お姉さま。それが一番よ。」
言いながらアンジェリーナも私の身体を背後から抱きしめる。
でもね・・・・お母様、アンジェリーナ。貴女達は私がどれだけベンジャミンを愛していたか知らないでしょう?ベンジャミンが女にだらしがなく、ギャンブルをするどうしようも無い男だってことは知ってたわ。
アンジェリーナ・・・貴女もベンジャミンに恋していたでしょう?貴女達が抱き合ってキスしているのを私が知らないとでも思っていた?
そしてお母様・・。貴女が母ライザを見捨てた事実が分かったわ。
あんな父親の娘として私は生れてきたくは無かった。
あれから色々調べてみたけど・・お母様はカサンドラに虐められていたのよね?そしてお母様はカサンドラに仕返しをした・・・。
つまり、私の産みの親も育ての親も・・・2人とも悪女だったと言う事。
だから私もこれから悪女を目指します。
まずは・・・私から愛するベンジャミンを奪ったお母様とアンジェリカ・・・次に私を裏切ったベンジャミン。
これからあなた方にどんな復讐をしようかしら・・・。
そして私は母を抱き締めながら微笑むのだった—。
<終>
「ベンジャミン・・・ここに・・カサンドラという人物が・・入院しているの・・?」
私は窓に鉄格子がはめられた病院を見上げながら尋ねた。
「ああ、そうだよ。もう・・ここに入院して18年になるそうだよ。」
「18年・・・。」
その年数にゾッとした。同じだ・・・あの老人が収監された年と。モンタナ伯の罪状の中には監禁罪と婦女暴行罪と言うのがあった。しかも被害者の名前はカサンドラと記述があった。もしかして・・・・私は・・・暴行されて生まれてきた子供・・?
思わずぞっとして、自分の両肩を抱き締めるとベンジャミンが心配そうに声を掛けてきた。
「アンジェリカ・・大丈夫かい?顔色が悪い・・・やっぱり行くのはやめるかい?」
ベンジャミンは私の肩を抱き寄せながら言う。
「いいえ・・・いいえ、大丈夫よ。ベンジャミン。せっかくここまで来たのだから・・帰るなんてもったいないでしょう?」
私は笑みを浮かべてベンジャミンを見た。
「分かったよ、アンジェリカ。それじゃ・・中に入るよ?」
ベンジャミンに促され、私は病院の中へと足を踏み入れた―。
「すみません。カサンドラ・モンタナと言う女性の面会をしたいのですが・・・。」
ベンジャミンが病院の受付の女性に言うと、女性はあっさり返事をして私達にカサンドラの入院している部屋番号を告げた。カサンドラの部屋は2階の一番奥の部屋だった。
カツンカツン
石で出来た階段をベンジャミンと2人で歩く。病院内部は薄暗く、とても寒々しい印象を与える。
「ねえ・・・ベンジャミン。本当に・・ここは病院なのかしら?」
ベンジャミンの腕にしがみ付くように歩きながら私は尋ねた。
「もちろん、病院なのは間違いないよ。ところでアンジェリカ・・・。」
歩きながらベンジャミンは言う。
「どうしたの?ベンジャミン。」
「う、うん・・・。また・・お金を貸してくれないかな・・・?新規で立ち上げたビジネスが・・うまくいっていないんだよ。」
ベンジャミンは言葉を詰まらせるように言う。
「ベンジャミン・・・分かった、いいわよ。」
「本当?アンジェリカッ?!」
「ええ、だって貴方は私の婚約者だもの。困っている時に手を差し伸べるのが・・・私の役目でしょう?それで・・今回はいくら都合つければいいのかしら?」
するとベンジャミンは足を止めると言った。
「・・金貨・・10枚・・。」
「10枚・・・。」
今までで一番最高の金額だ。もうベンジャミンにはかれこれ金貨100枚近く渡している。そしてそれらのお金は・・・まだ一度も返してもらったことは無い。
すぐに返事をしない私に不安を覚えたのか、ベンジャミンが言った。
「・・やっぱり・・・無理・・かな?」
そして悲しそうな顔を見せる。いけない・・・彼は私の大切な婚約者なのよ?こんな悲しそうな顔をさせてしまった。だから私は言った。
「大丈夫よ。ベンジャミン。屋敷に帰ったらすぐにお金を用意してあげるわ。」
すると・・・。
「アンジェリカ・・・ありがとう・・・!」
そしてベンジャミンは私を抱き締めると深い口づけをしてきた。
「あ。んっ!ま、待って・・ベンジャミン。ここは・・病院だから・・んんっ。」
私は何とかベンジャミンを押しのけ、軽く睨むとベンジャミンは恥ずかしそうに頭を掻いている。だけど・・私は彼のこういうところも大好きだ。
そして気を取り直した私たちはカサンドラが入院している部屋を目指した―。
「ここ・・だね・・。」
ベンジャミンは扉を見ると言った。
「え、ええ・・・そうね。」
カサンドラが入院している部屋は廊下の一番奥にあり、窓も無いからより一層薄暗い。
「それじゃ・・・入るよ?」
ベンジャミンはドアノブを掴むとドアを開けた。
ギイイイ~・・・・。
さび付いたドアの開く音が聞こえる。ドアを開けて中へ入ると部屋の鉄格子窓のすぐそばにベッドが置かれ、1人の女性が窓の外を眺めいた。私たちが部屋の中へ入ってきたことに気付かないのか、こちらを振り向く気配がない。
「あの・・・。カサンドラ・・さん?」
私は近付き、声を掛けると女性は振り向いた。
「!」
私は女性の顔を見て驚いた。金の髪の女性は・・・青白い顔でやつれていたけれども・・。
ベンジャミンは声を震わせながら言った。
「アンジェリカに・・・そっくりだ・・。」
「あの・・貴女にお聞きしたいことがあるのです。母ライザは定期的に貴女に会いに来ていると聞いていますが。2人はどのような関係なのですか?」
「・・・。」
しかし、カサンドラはうつろな瞳で私を見つめたまま、黙っている。
「お願いです。それでは別の質問に答えて下さい。モンタナ伯は・・・一体貴女とどのような関係なのですか?貴女は・・・私の母ですか?」
「モンタナ伯・・?」
そこで初めてカサンドラが反応した。
「そう、モンタナ伯です。」
すると・・・・。
「イヤアアアアアッ!!」
突如、カサンドラは頭を抱え、髪を振り乱して絶叫した。
「!」
思わず後ずさると、ベンジャミンが私を支えてくれる。カサンドラは叫びながら言葉を発した。
「ライザ・・・どうして助けてくれなかったの?!そんなに・・私が憎かったの?!いやあああ!叔父様・・やめて・・許して・・私は・・叔父様の花嫁じゃないわっ!お願いよぉぉぉっ!痛い・・痛い・・・っ!ああ・・どうしよう・・子供が出来てしまったわ・・・。嫌よ・・産みたくない産みたくない産みたくない・・。」
しまいにはケタケタ笑い、私を指さすと言った。
「そうよ・・お前は私を苦しめる為に生まれてきた罪の子・・・罪人の娘よっ!」
もはや、私もベンジャミンも顔色が真っ青になっている。
「に・・逃げるんだっ!アンジェリカッ!」
「ベンジャミンッ!」
私はベンジャミンに手を引かれ、逃げるように病室を飛び出した―。
帰りの馬車の中―
「アンジェリカ・・・。さっきの話だけど・・・君はあの女性の娘なのかい?」
「ええ・・・。もうあの様子から間違いないわ。私はカサンドラと・・モンタナ伯との間に生まれた子・・。」
もう隠しようがなかった。私は全てベンジャミンに告白した―。
「・・・・。」
ベンジャミンは青ざめた顔で話を聞いていたが、やがて口を開いた。
「し・・信じられないよ・・。まさか・・アンジェリカが・・・そのモンタナ伯の娘だったなんて・・。」
「ええ・・。でも、私は私。もとからモンタナ伯ともカサンドラとも無関係だわ。だから・・ベンジャミン。ずっとそばにいてね・・?」
「あ、ああ・・もちろんだよ・・・。」
ベンジャミンはどこか上の空で返事をしているが・・・・大丈夫。私達は互いに愛し合っているのだから・・・。
そして私はベンジャミンの腕に寄り掛かり・・・目を閉じた―。
あれから1カ月の時が流れた。ベンジャミンからは一度も連絡が取れない。
彼は・・きっと新規の事業で忙しいのだろう。私は立ち上がると刺繍道具を持ってテラスへ行った。
穏やかなテラス席で刺繍をしていると、庭から声が聞こえてきた。どうやら妹と母のライザが庭のベンチで話しているようだ。風に乗って2人の会話が聞こえてくる・・。
「ありがとう。アンジェリーナ。貴女のお陰でベンジャミンとアンジェリカの婚約を破談にする事が出来たわ。」
え?破談?どういう事?
「でも・・お母様。どうてこんな回りくどい事を?わざわざ私を使ってお姉さまを・・?」
「仕方なかったのよ・・・。アンジェリカの来月の18歳の誕生日に・・正式に結婚させてほしいとベンジャミンが言ってきていたのだから・・。でも彼はダメよ。」
「・・・お姉さまからお金を借りて、ギャンブルや女性につぎ込んでいたからでしょう?」
「!」
そんな・・・。
「ええ・・・それにああいうタイプの男は、絶対自分から別れようとは言わないし。こちら側から持ち掛けても了承しないわ。だから・・・アンジェリカに真実を知らせようと思ったのよ。そうすればおのずとベンジャミンも知ることになると思ったのよ。」
そんな・・・お母様も・・・妹も・・・私をベンジャミンから引き離すために・・・私が知りたくなかった事実を・・・私自身の手で・・調べさせたの・・?
私は一歩ずつ2人の背後に近づいて行く。
「それにしても・・・ここまでうまくいくとは思わなかったわ。ベンジャミンはあっさり手を引き、犯罪者のモンタナ家の血筋を恐れて今までの借りたお金も全額綺麗に返してきたのだから・・・・。」
母は妖艶に笑った。その笑顔はとても美しく・・まさに悪知恵の働く悪女に見えた。
「お母様、アンジェリーナ。」
私が茂みから顔を出すと、2人は心底驚いた顔を見せた。
「ま、まあ・・・・。アンジェリカ・・今の話を聞いていたの・・?」
母ライザは引きつった笑身を浮かべた。
「はい、全て聞きました。でも・・・。」
私は母の首に腕を回し、抱き付くと言った。
「ありがとうございます・・・。ベンジャミンは悪人だったのですね・・?私の為を思って・・・別れさせる為に今回の出来事を引き起こさせたのですよね?ありがとうございます。」
すると母は私の背中に腕を回すと言った。
「ええ、そうよ。ベンジャミンは酷い男だったから・・・もっとあなたにはふさわしい男性を探してあげるから。」
「そうよ、お姉さま。それが一番よ。」
言いながらアンジェリーナも私の身体を背後から抱きしめる。
でもね・・・・お母様、アンジェリーナ。貴女達は私がどれだけベンジャミンを愛していたか知らないでしょう?ベンジャミンが女にだらしがなく、ギャンブルをするどうしようも無い男だってことは知ってたわ。
アンジェリーナ・・・貴女もベンジャミンに恋していたでしょう?貴女達が抱き合ってキスしているのを私が知らないとでも思っていた?
そしてお母様・・。貴女が母ライザを見捨てた事実が分かったわ。
あんな父親の娘として私は生れてきたくは無かった。
あれから色々調べてみたけど・・お母様はカサンドラに虐められていたのよね?そしてお母様はカサンドラに仕返しをした・・・。
つまり、私の産みの親も育ての親も・・・2人とも悪女だったと言う事。
だから私もこれから悪女を目指します。
まずは・・・私から愛するベンジャミンを奪ったお母様とアンジェリカ・・・次に私を裏切ったベンジャミン。
これからあなた方にどんな復讐をしようかしら・・・。
そして私は母を抱き締めながら微笑むのだった—。
<終>
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