171 / 221
9-25 もう二度と…
しおりを挟む
ガラガラガラ…
音を立てて走る馬車の中で、先程イアソン王子が私に言った言葉が耳について離れない。
『俺はよく知らないが…どうやらルペルトには婚約者がいるらしい』
イアソン王子は私のルペルト様に対する恋心に気付いていたのだ。そしてあの方には婚約者がいる。
「そうよね…。ルペルト様は絶対高位貴族だろうし…婚約者がいてもおかしくないわ…。それにあんなに素敵な方なのだから…」
私はまた失恋してしまったのだ。
けれどレナート様のときとは違って胸の痛みは感じなかった。
とても悲しいことのハズなのに…不思議なことにその話を冷静に受け止めている自分がいる。
そうだ。
私は…どうせ叶うはずの無い恋だからと初めから諦めていたのだ。あの学園に入って、貴族と平民という身分は決して超えることが出来ないということを知った。
貴族の人達は初めから平民には…目をくれないのだ。
だから、私は無意識のうちに心のなかでルペルト様のことを半ば諦めていたのだ。
どうせ叶うはずのいない恋なのだから…。
ルペルト様はまた会えるかもしれないようなことを言ってきたけれども…恐らくそれは無いだろう。今回私がここへやってきたのも本当に偶然のことなのだし、それに婚約者がいるのなら…尚更私はもうこれ以上近づいてはいけない。
あらぬ噂を立てられて…ルペルト様に迷惑だけは掛けたくなかったからだ。
「…さようなら。ルペルト様…」
私はポツリと呟き…目を閉じた―。
****
22時半―
ホテルまで戻った私は部屋で荷造りをしていた。そして手を止めると室内を見渡した。
「この部屋とも明日でお別れなのね…」
思えば私は約一月近くもこのホテルにお世話になっていたのだ。
「一月なんて…短いようであっという間なのね」
新学期が始まるのも後3日後。
また、いつもの生活が始まる…。
いつもの?本当にいつもの生活が始まると言えるのだろうか?
私はもうあの家に戻ることは出来ない。ダミアンが私を姉ではなく、1人の異性としてしか見ていなかったことを知ってしまったから。
そして父は私の為を思って、二度と実家には戻らないように言ってきたから。
私は…自分の帰れる場所を失ってしまったのだ。
「…手紙を書くことも…もう出来ないでしょうね…」
ため息をつくと、再び荷造りの準備に取り掛かった。
そして、翌朝…私はイアソン王子が迎えによこしてくれた馬車に乗り、約一月お世話になったホテルと別れを告げて、駅へ向かった―。
音を立てて走る馬車の中で、先程イアソン王子が私に言った言葉が耳について離れない。
『俺はよく知らないが…どうやらルペルトには婚約者がいるらしい』
イアソン王子は私のルペルト様に対する恋心に気付いていたのだ。そしてあの方には婚約者がいる。
「そうよね…。ルペルト様は絶対高位貴族だろうし…婚約者がいてもおかしくないわ…。それにあんなに素敵な方なのだから…」
私はまた失恋してしまったのだ。
けれどレナート様のときとは違って胸の痛みは感じなかった。
とても悲しいことのハズなのに…不思議なことにその話を冷静に受け止めている自分がいる。
そうだ。
私は…どうせ叶うはずの無い恋だからと初めから諦めていたのだ。あの学園に入って、貴族と平民という身分は決して超えることが出来ないということを知った。
貴族の人達は初めから平民には…目をくれないのだ。
だから、私は無意識のうちに心のなかでルペルト様のことを半ば諦めていたのだ。
どうせ叶うはずのいない恋なのだから…。
ルペルト様はまた会えるかもしれないようなことを言ってきたけれども…恐らくそれは無いだろう。今回私がここへやってきたのも本当に偶然のことなのだし、それに婚約者がいるのなら…尚更私はもうこれ以上近づいてはいけない。
あらぬ噂を立てられて…ルペルト様に迷惑だけは掛けたくなかったからだ。
「…さようなら。ルペルト様…」
私はポツリと呟き…目を閉じた―。
****
22時半―
ホテルまで戻った私は部屋で荷造りをしていた。そして手を止めると室内を見渡した。
「この部屋とも明日でお別れなのね…」
思えば私は約一月近くもこのホテルにお世話になっていたのだ。
「一月なんて…短いようであっという間なのね」
新学期が始まるのも後3日後。
また、いつもの生活が始まる…。
いつもの?本当にいつもの生活が始まると言えるのだろうか?
私はもうあの家に戻ることは出来ない。ダミアンが私を姉ではなく、1人の異性としてしか見ていなかったことを知ってしまったから。
そして父は私の為を思って、二度と実家には戻らないように言ってきたから。
私は…自分の帰れる場所を失ってしまったのだ。
「…手紙を書くことも…もう出来ないでしょうね…」
ため息をつくと、再び荷造りの準備に取り掛かった。
そして、翌朝…私はイアソン王子が迎えによこしてくれた馬車に乗り、約一月お世話になったホテルと別れを告げて、駅へ向かった―。
0
お気に入りに追加
413
あなたにおすすめの小説
七年間の婚約は今日で終わりを迎えます
hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。
今日は私の結婚式
豆狸
恋愛
ベッドの上には、幼いころからの婚約者だったレーナと同じ色の髪をした女性の腐り爛れた死体があった。
彼女が着ているドレスも、二日前僕とレーナの父が結婚を拒むレーナを屋根裏部屋へ放り込んだときに着ていたものと同じである。
完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。
音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。
だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。
そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。
そこには匿われていた美少年が棲んでいて……
今さら、私に構わないでください
ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。
彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。
愛し合う二人の前では私は悪役。
幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。
しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……?
タイトル変更しました。
逃した番は他国に嫁ぐ
基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」
婚約者との茶会。
和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。
獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。
だから、グリシアも頷いた。
「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」
グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。
こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。
出て行けと言って、本当に私が出ていくなんて思ってもいなかった??
新野乃花(大舟)
恋愛
ガランとセシリアは婚約関係にあったものの、ガランはセシリアに対して最初から冷遇的な態度をとり続けていた。ある日の事、ガランは自身の機嫌を損ねたからか、セシリアに対していなくなっても困らないといった言葉を発する。…それをきっかけにしてセシリアはガランの前から失踪してしまうこととなるのだが、ガランはその事をあまり気にしてはいなかった。しかし後に貴族会はセシリアの味方をすると表明、じわじわとガランの立場は苦しいものとなっていくこととなり…。
【完結】嗤われた王女は婚約破棄を言い渡す
干野ワニ
恋愛
「ニクラス・アールベック侯爵令息。貴方との婚約は、本日をもって破棄します」
応接室で婚約者と向かい合いながら、わたくしは、そう静かに告げました。
もう無理をしてまで、愛を囁いてくれる必要などないのです。
わたくしは、貴方の本音を知ってしまったのですから――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる