上 下
164 / 221

9-18 声を掛けてきた人は

しおりを挟む
 朝食後、私は小切手を持ってホテルの前から辻馬車を拾った。目的は貴族令嬢達が利用するブティックへ行き、洋服を買う為だった。

「一体どれくらいお金がかかるかしら…」

小切手を持っているのだからお金の心配をする必要は無かったが、それでもこの小切手の出どころはユーグ様。
正直に言うと…使いたくは無かった。もし使え本当にユーグ様に負けを認めてしまうような気がしたからだ。

「駄目ね…自分をしっかり持たないと…」

馬車に窓から外を眺めながら、私はため息をついた―。



****

 私は貴族ご用達のブティックに来ていた。


「このお洋服などはいかがですか?最近流行に敏感なお嬢様たちの間では人気のデザインなのですよ?」

女性店員さんが鏡に映る私に尋ねてくる。

「ええ。そうですね。とても素敵な服だと思います」

ダークグリーンのサテン地の足首まで長さのあるロングワンピースドレス。襟元とわ裾部分には白いサテン地がふんだんに使用されている。ボリュームのあるスカート部分はレースが縫い付けられ、お姫様のドレスのようだった。

これならイアソン王子の食事会に招かれても大丈夫かもしれない…。

「では、これを頂けますか?」

貴族の服のことについて、全く知らない私は店員さんの進めるままに買うことに決めた。
その後、靴とついでにバッグも選んでもらい、店を出た頃にはすでに時計は午後2時を回っていた。

「…大変。もうこんな時間だわ。急いで帰らないと」

私は商品が入った大きな紙バッグを抱えると、辻馬車乗り場を目指して歩き出した。


「ふぅ…重いわ…」

紙バッグの中にはワンピースと靴にカバンが入っている。これだけ入っていれば相当な重さになる。
これが私と貴族令嬢たちの差なのかもしれない。普通の令嬢達ならお付きの人達がついていて、その人たちが荷物を代わりに持ってくれるのだろう。けれど私にはそのような人たちはいない。そこが平民の私と一般的な令嬢達との差であろう。

 その証拠に町を歩く身なりの良い人たちは1人で大きな荷物を抱えて街中を歩く私を興味深げに見つめている。

「…こんなことなら辻馬車にお店の前で待っていてもらえば良かったわ…」

けれど後悔してももう遅い。私は重い荷物を抱えながらフラフラと辻馬車乗り場を目指して歩いていると…。

「あれ?ひょっとして君は…ロザリー?」

何処かで聞き覚えのある声がすぐそばで聞こえた。

「え…?」

慌てて顔を上げて驚いた。

「やっぱり…ロザリーだね?大きな荷物を抱えて歩く人がいるから誰かと思って見ていれば…どこかで見覚えがある人だなって思ったんだよ」


相手は笑みを浮かべて私を見る。

「あ…貴方は…!」

その人は…私がもう一度会いたいと思っていたルペルト様だった―。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今日は私の結婚式

豆狸
恋愛
ベッドの上には、幼いころからの婚約者だったレーナと同じ色の髪をした女性の腐り爛れた死体があった。 彼女が着ているドレスも、二日前僕とレーナの父が結婚を拒むレーナを屋根裏部屋へ放り込んだときに着ていたものと同じである。

婚約者は、今月もお茶会に来ないらしい。

白雪なこ
恋愛
婚約時に両家で決めた、毎月1回の婚約者同士の交流を深める為のお茶会。だけど、私の婚約者は「彼が認めるお茶会日和」にしかやってこない。そして、数ヶ月に一度、参加したかと思えば、無言。短時間で帰り、手紙を置いていく。そんな彼を……許せる?  *6/21続編公開。「幼馴染の王女殿下は私の元婚約者に激おこだったらしい。次期女王を舐めんなよ!ですって。」 *外部サイトにも掲載しています。(1日だけですが総合日間1位)

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして

みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。 きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。 私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。 だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。 なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて? 全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです! ※「小説家になろう」様にも掲載しています。

七年間の婚約は今日で終わりを迎えます

hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈 
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

処理中です...