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9-3 プレゼント
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白いスケッチブックに鉛筆と色鉛筆を使って、描かれていく目の前の風景画にすっかり私は見とれていた。
けれど…。
何故色鉛筆を持つ手がピタリと止まってしまった。
え?何故絵を描くことをやめてしまったのだろう?
不思議に思い、顔を上げて…私は彼がこちらを凝視していることに気付いた。
「あの…」
彼はためらいがちに私に声を掛けてきた。
「あ…っ!す、すみませんっ!あまりにも素晴らしい絵だったので…つ、つい描いているところを見つめていました。盗み見して…本当に申し訳ございませんっ!私…帰りますっ!」
恥ずかしくていたたまれず、ベンチから立ち上がって立ち去ろうとした時…。
「待ってっ!」
不意に背後から呼び止められた。
「は、はい…?」
恐る恐る振り返ると、少年が手招きしている。
「おいでよ、見たいんでしょう?絵を描いているところ」
「え…?で、ですが…」
「あ、それとも何か用事でもあるの?だとしたら呼び止めたら悪いね」
「い、いいえ。用事は特にありませんけど…」
すると少年はニコリと笑った。
「だったら見ていけばいいよ。絵を描いているの見るの…好きなんでしょう?」
「は、はい…」
思わず真っ赤になってうなずくと、少年は笑みを浮かべた。
「だったら遠慮せずに見ていくといいよ」
「はい…ありがとうございます…」
ベンチに戻り、少し距離を開けて座ると少年は再び風景画を描き始めた。最初は全く見知らぬ人の隣に座り、何とも居心地が悪く感じていたけれども彼の方は全く私の事を気にする素振りも無く…一心不乱に絵を描き続けている。
それはもう私の存在すら忘れているかのように。
けれど、その方がかえって私にとっては心地よい空間だった。
逆に私のことを気にかけて、あれこれ話しかけられる方が申し訳ない気分になってしまうからだ。
やがて―
「ふぅ…」
少年が色鉛筆を置いた。スケッチブックには眼前に広がる港の光景が描かれている。とても柔らかい…それでいて繊細なタッチの絵だった。絵心の無い私にとってはその表現が精一杯だった。
「…描けたんですね?」
ようやく私は語りかけた。
「うん、描けたよ。この港の光景がとても綺麗だったから、どうしても描きたくなったんだ」
彼は私を見た。
「ひょっとして…絵描きさんですか?」
「え?違うよ。僕は学生だよ。まだ16歳だし」
16歳…大人っぽく見えたから私より年齢が上だと思っていたけれども、まさか同い年だったなんて…。
すると彼は何を思ったか、今描き上げた色鉛筆画のページを破くと私に差し出してきた。
「はい、これ…あげるよ」
「え?!そ、そんな…受け取れませんっ!こんな素敵な絵…」
慌てて首を振ると、彼は笑った。
「いいんだよ、この絵はただ描きたかったから描いただけだし。むしろ受け取ってもらえた方が嬉しいかな?」
ニコニコ笑いながら手渡された港の絵…。
「ありがとうございます」
私はありがたく受け取る事にした。
「どういたしまして」
そして彼は手早く片付けを済ませた。
「さてと、それじゃそろそろ行こうかな」
立ち上がった彼は、よく見ると、とても良い身なりをしていた。ひょっとすると…この人は貴族なのかもしれない。
「本当にありがとうございました」
「気にしなくていいよ。それじゃあね」
彼は笑みを浮かべると、その場を去って行った―。
けれど…。
何故色鉛筆を持つ手がピタリと止まってしまった。
え?何故絵を描くことをやめてしまったのだろう?
不思議に思い、顔を上げて…私は彼がこちらを凝視していることに気付いた。
「あの…」
彼はためらいがちに私に声を掛けてきた。
「あ…っ!す、すみませんっ!あまりにも素晴らしい絵だったので…つ、つい描いているところを見つめていました。盗み見して…本当に申し訳ございませんっ!私…帰りますっ!」
恥ずかしくていたたまれず、ベンチから立ち上がって立ち去ろうとした時…。
「待ってっ!」
不意に背後から呼び止められた。
「は、はい…?」
恐る恐る振り返ると、少年が手招きしている。
「おいでよ、見たいんでしょう?絵を描いているところ」
「え…?で、ですが…」
「あ、それとも何か用事でもあるの?だとしたら呼び止めたら悪いね」
「い、いいえ。用事は特にありませんけど…」
すると少年はニコリと笑った。
「だったら見ていけばいいよ。絵を描いているの見るの…好きなんでしょう?」
「は、はい…」
思わず真っ赤になってうなずくと、少年は笑みを浮かべた。
「だったら遠慮せずに見ていくといいよ」
「はい…ありがとうございます…」
ベンチに戻り、少し距離を開けて座ると少年は再び風景画を描き始めた。最初は全く見知らぬ人の隣に座り、何とも居心地が悪く感じていたけれども彼の方は全く私の事を気にする素振りも無く…一心不乱に絵を描き続けている。
それはもう私の存在すら忘れているかのように。
けれど、その方がかえって私にとっては心地よい空間だった。
逆に私のことを気にかけて、あれこれ話しかけられる方が申し訳ない気分になってしまうからだ。
やがて―
「ふぅ…」
少年が色鉛筆を置いた。スケッチブックには眼前に広がる港の光景が描かれている。とても柔らかい…それでいて繊細なタッチの絵だった。絵心の無い私にとってはその表現が精一杯だった。
「…描けたんですね?」
ようやく私は語りかけた。
「うん、描けたよ。この港の光景がとても綺麗だったから、どうしても描きたくなったんだ」
彼は私を見た。
「ひょっとして…絵描きさんですか?」
「え?違うよ。僕は学生だよ。まだ16歳だし」
16歳…大人っぽく見えたから私より年齢が上だと思っていたけれども、まさか同い年だったなんて…。
すると彼は何を思ったか、今描き上げた色鉛筆画のページを破くと私に差し出してきた。
「はい、これ…あげるよ」
「え?!そ、そんな…受け取れませんっ!こんな素敵な絵…」
慌てて首を振ると、彼は笑った。
「いいんだよ、この絵はただ描きたかったから描いただけだし。むしろ受け取ってもらえた方が嬉しいかな?」
ニコニコ笑いながら手渡された港の絵…。
「ありがとうございます」
私はありがたく受け取る事にした。
「どういたしまして」
そして彼は手早く片付けを済ませた。
「さてと、それじゃそろそろ行こうかな」
立ち上がった彼は、よく見ると、とても良い身なりをしていた。ひょっとすると…この人は貴族なのかもしれない。
「本当にありがとうございました」
「気にしなくていいよ。それじゃあね」
彼は笑みを浮かべると、その場を去って行った―。
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