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4-5 溢れる涙
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「「…」」
気まずい雰囲気の中、噴水広場に私とレナート様は残されてしまった。それに…気のせいだろうか?何となくレナート様の様子がおかしい。ここは…立ち去った方が良いかもしれない。
「あ、あの…私、…もう帰ります。申し訳ございませんでした」
レナート様に謝った。
「何故謝るんだい?」
するとレナート様が口を開いた。
「な、何故って…」
本当は謝る必要は無かったのかもしれない。けれども私の平民としての立場が…いつも何処かで誰かに謝るのが当然の環境で育ってきた為に今も謝罪の言葉が口をついてでてしまったのだろう。
「もしロザリーが何も悪いことをしていなければ謝る必要なんか無いんだよ?それとも…謝らなければいけない理由があるのかな?」
「い、いえ…別に理由はありませんが…」
どうしたのだろう?レナート様の口調が…いつもより棘を持っているように感じる。
「なら別に謝る必要は無いよ。だけど…」
レナート様は顔を上げて私を見ると言った。
「ロザリー。君はイアソン王子がどんな人物なのか知っているよね?」
「どんな人物か…?」
「イアソン王子は…いろいろな女子学生に手を出しているんだよ。あの王子のせいで婚約破棄をしてしまった人たちだっているんだ」
「え?!」
その話は初耳だった。するとレナート様は何所か自嘲気味に笑うと言った。
「どうやら婚約破棄の話までは知らなかったようだね…でも僕たち貴族の間では有名な話だよ?」
「…」
私は黙って話を聞いていた。
『僕たち貴族』
この言葉にどこか一線を引かれてしまったみたいで、ズキリと胸が痛む。
「…フランシスカの事でも良く分っているだろう?」
「は、はい…」
俯き加減に返事をする。
「ロザリーは…そんな人じゃないと思っていたのに…」
ポツリとレナート様は言う。
「え?」
するとレナート様は私を真っすぐ見ると言った。
「ロザリーはフランシスカと仲が良いから知っているだろう?彼女がイアソン王子の事を好きなのは…」
レナート様が言わんとしている意味が分からなかった。
「僕はフランシスカの事が…好きだから、彼女の幸せを願っている。彼女との結婚を望んでいる半面…本当にイアソン王子の事が好きなら…卒業するまでは…2人を応援してもいいかとも思っていたんだ」
「レ、レナート様…?」
一体レナート様は何を言い出すつもりなのだろう…?
「ロザリー。君はフランシスカの気持ちを知っていながら、イアソン王子とデートを愉しんでいたのかい?」
「!」
その言葉で目の前が一瞬真っ暗になる。そんな…私が好きなのはレナート様なのに…?悲しいけれど私とレナート様では身分が違い過ぎる。だから初恋を諦めてフランシスカ様とレナート様が結ばれる事を祈って…行動していたのに…。
思わず目じりに涙が浮かびそうになるも、それを必死で堪えると言った。
「それは…決してありません…私はイアソン王子とデートをしていたわけではありません。王子が私のいる女子寮を訪れたのです。そして出て来なければ大きな声を出すよと言われたので…病むを得ず出て来たのです…」
涙声になりそうになるのを必死で堪える。
「そうか…」
レナート様は溜息をつくと言った。
「分った…その話、信じるよ。イアソン王子ならやりかねないしね。でもロザリー。これだけは約束してくれ」
「約束…?」
「そう。フランシスカの為にイアソン王子には近づかないでくれるかな?彼女を悲しませたくないんだ。言ってる意味…分かるよね?」
「は、はい分ります。大丈夫です…。イアソン王子にはもう、近付きませんから…」
悲しい気持ちを堪えて何とか返事をする。
「そう?よろしく頼むね」
レナート様はニコリと笑う。
「それでは…私、もう寮に戻りますね」
震える声を押さえながら頭を下げた。
「寮まで送るよ」
「い、いえ!大丈夫です。…もし、万一誰かに見られてはいけないので…1人で戻ります」
「そう?気を付けて帰ってね」
「ハイ…それでは失礼致します」
私は踵を返し、寮へ向かった。
溢れる涙を堪えながら―。
気まずい雰囲気の中、噴水広場に私とレナート様は残されてしまった。それに…気のせいだろうか?何となくレナート様の様子がおかしい。ここは…立ち去った方が良いかもしれない。
「あ、あの…私、…もう帰ります。申し訳ございませんでした」
レナート様に謝った。
「何故謝るんだい?」
するとレナート様が口を開いた。
「な、何故って…」
本当は謝る必要は無かったのかもしれない。けれども私の平民としての立場が…いつも何処かで誰かに謝るのが当然の環境で育ってきた為に今も謝罪の言葉が口をついてでてしまったのだろう。
「もしロザリーが何も悪いことをしていなければ謝る必要なんか無いんだよ?それとも…謝らなければいけない理由があるのかな?」
「い、いえ…別に理由はありませんが…」
どうしたのだろう?レナート様の口調が…いつもより棘を持っているように感じる。
「なら別に謝る必要は無いよ。だけど…」
レナート様は顔を上げて私を見ると言った。
「ロザリー。君はイアソン王子がどんな人物なのか知っているよね?」
「どんな人物か…?」
「イアソン王子は…いろいろな女子学生に手を出しているんだよ。あの王子のせいで婚約破棄をしてしまった人たちだっているんだ」
「え?!」
その話は初耳だった。するとレナート様は何所か自嘲気味に笑うと言った。
「どうやら婚約破棄の話までは知らなかったようだね…でも僕たち貴族の間では有名な話だよ?」
「…」
私は黙って話を聞いていた。
『僕たち貴族』
この言葉にどこか一線を引かれてしまったみたいで、ズキリと胸が痛む。
「…フランシスカの事でも良く分っているだろう?」
「は、はい…」
俯き加減に返事をする。
「ロザリーは…そんな人じゃないと思っていたのに…」
ポツリとレナート様は言う。
「え?」
するとレナート様は私を真っすぐ見ると言った。
「ロザリーはフランシスカと仲が良いから知っているだろう?彼女がイアソン王子の事を好きなのは…」
レナート様が言わんとしている意味が分からなかった。
「僕はフランシスカの事が…好きだから、彼女の幸せを願っている。彼女との結婚を望んでいる半面…本当にイアソン王子の事が好きなら…卒業するまでは…2人を応援してもいいかとも思っていたんだ」
「レ、レナート様…?」
一体レナート様は何を言い出すつもりなのだろう…?
「ロザリー。君はフランシスカの気持ちを知っていながら、イアソン王子とデートを愉しんでいたのかい?」
「!」
その言葉で目の前が一瞬真っ暗になる。そんな…私が好きなのはレナート様なのに…?悲しいけれど私とレナート様では身分が違い過ぎる。だから初恋を諦めてフランシスカ様とレナート様が結ばれる事を祈って…行動していたのに…。
思わず目じりに涙が浮かびそうになるも、それを必死で堪えると言った。
「それは…決してありません…私はイアソン王子とデートをしていたわけではありません。王子が私のいる女子寮を訪れたのです。そして出て来なければ大きな声を出すよと言われたので…病むを得ず出て来たのです…」
涙声になりそうになるのを必死で堪える。
「そうか…」
レナート様は溜息をつくと言った。
「分った…その話、信じるよ。イアソン王子ならやりかねないしね。でもロザリー。これだけは約束してくれ」
「約束…?」
「そう。フランシスカの為にイアソン王子には近づかないでくれるかな?彼女を悲しませたくないんだ。言ってる意味…分かるよね?」
「は、はい分ります。大丈夫です…。イアソン王子にはもう、近付きませんから…」
悲しい気持ちを堪えて何とか返事をする。
「そう?よろしく頼むね」
レナート様はニコリと笑う。
「それでは…私、もう寮に戻りますね」
震える声を押さえながら頭を下げた。
「寮まで送るよ」
「い、いえ!大丈夫です。…もし、万一誰かに見られてはいけないので…1人で戻ります」
「そう?気を付けて帰ってね」
「ハイ…それでは失礼致します」
私は踵を返し、寮へ向かった。
溢れる涙を堪えながら―。
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