上 下
3 / 4

第3話

しおりを挟む
 翌日は学校が休みだった。

今日は婚約者の屋敷を訪ねてデートに誘ってみよう。外出着用のクローゼットを開けると、吊り下げられている服を見つめた。

「どれがいいかな……よし、これにしよう」

僕がより一層魅力的に見えるのは、この服しかないだろう。早速、服を取り出すと着替えを始めた――


ダイニングルームへ行くと、既に両親と5歳年上の兄が席に着いていた。

「おはようございます、父上。それに母上に兄上」

「ああ、おはよう」
「おはよう、レオニー」
「おはよう」

父、母、それに兄が挨拶を返してくる。席に座ると、早速兄が声をかけてきた。

「今朝は姿を見せるのが遅かったな」

「すみません。服選びをしていたものですから」

「どこかへ出掛けるのか?」

父が尋ねてくる。

「はい、リューク伯爵家に行く予定です」

「リューク伯爵家……? まさか……」

母が首を傾げた。

「はい、婚約者に会いに行ってきます。最近、忙しくて中々会えませんでしたからね」

すると兄が眉間にシワを寄せた。

「……やめたほうがいいんじゃないか?」

「何故ですか?」

「いや、それは……」

「ゴホン!」

突然父が大きな咳払いをすると笑顔になった。

「そうかそうか、リューク伯爵家に行ってくるのか? よろしく伝えてれ。それでは食事にしようか?」

「は、はい……?」

兄と父の態度に軽い違和感を抱きつつ、皆で食事を始めた――



****


「ええ!? レオニー様! 馬車を使われないのですか!?」

馬繋場に、御者の声が響き渡った。

「ああ、今日は乗馬をしたい気分だったからな。ほら、こんなに青空なんだ。馬車に乗るにはもったいない……そうは思わないか?」

僕は空を見上げた。

「確かにそうかもしれませんが……ですが、おやめ下さい! その服は乗馬には不向きです。それに、旦那さまから仰せつかっているのですよ。今日は馬車を出すようにと。 命令に背けば叱られてしまいます!」

涙目で訴えてくる御者。

「わ……分かったよ。父の命令なら仕方ない。馬車に乗ることにしよう」

「ありがとうございます! レオニー様!」

こうして、僕は馬車でリューク伯爵家へ向った――


****


「えっ!? レ、レオニー様! 本日はいったいどうされたのですか!?」

リューク伯爵へ到着すると、僕を出迎えたフットマンが驚きの表情を浮かべた。

「どうされたって……婚約者に会いに来てはいけなかったのかい?」

何故そんなに怯えた表情を浮かべているのだろう?

「い、いえ。そ、そ、そういうわけではありませんが……」

フットマンは目を泳がせて、僕と視線を合わせようとしない。

「もしかして、いないのかい?」

「いいえ! シリル様は御在宅ではありますが……」

シリルとは僕の婚約者の名前だ。

「何だ、シリルはいるのか。だったら会わせてもらうよ。それでどこにいる?」

「え、えぇと……シリル様は……、ガゼボにいらっしゃいますが……」

「ガゼボだな、分かった」

踵を返すと、背後からフットマンの声が追いかけてきた。

「ですがシリル様はご友人たちと……!」

最後までフットマンの声を聞くこともなく、僕は足早にガゼボへ向かった――




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうして別れるのかと聞かれても。お気の毒な旦那さま、まさかとは思いますが、あなたのようなクズが女性に愛されると信じていらっしゃるのですか?

石河 翠
恋愛
主人公のモニカは、既婚者にばかり声をかけるはしたない女性として有名だ。愛人稼業をしているだとか、天然の毒婦だとか、聞こえてくるのは下品な噂ばかり。社交界での評判も地に落ちている。 ある日モニカは、溺愛のあまり茶会や夜会に妻を一切参加させないことで有名な愛妻家の男性に声をかける。おしどり夫婦の愛の巣に押しかけたモニカは、そこで虐げられている女性を発見する。 彼女が愛妻家として評判の男性の奥方だと気がついたモニカは、彼女を毎日お茶に誘うようになり……。 八方塞がりな状況で抵抗する力を失っていた孤独なヒロインと、彼女に手を差し伸べ広い世界に連れ出したしたたかな年下ヒーローのお話。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID24694748)をお借りしています。

婚約破棄された令嬢が呆然としてる間に、周囲の人達が王子を論破してくれました

マーサ
恋愛
国王在位15年を祝うパーティの場で、第1王子であるアルベールから婚約破棄を宣告された侯爵令嬢オルタンス。 真意を問いただそうとした瞬間、隣国の王太子や第2王子、学友たちまでアルベールに反論し始め、オルタンスが一言も話さないまま事態は収束に向かっていく…。

学園にいる間に一人も彼氏ができなかったことを散々バカにされましたが、今ではこの国の王子と溺愛結婚しました。

朱之ユク
恋愛
ネイビー王立学園に入学して三年間の青春を勉強に捧げたスカーレットは学園にいる間に一人も彼氏ができなかった。  そして、そのことを異様にバカにしている相手と同窓会で再開してしまったスカーレットはまたもやさんざん彼氏ができなかったことをいじられてしまう。  だけど、他の生徒は知らないのだ。  スカーレットが次期国王のネイビー皇太子からの寵愛を受けており、とんでもなく溺愛されているという事実に。  真実に気づいて今更謝ってきてももう遅い。スカーレットは美しい王子様と一緒に幸せな人生を送ります。

氷のメイドが辞職を伝えたらご主人様が何度も一緒にお出かけするようになりました

まさかの
恋愛
「結婚しようかと思います」 あまり表情に出ない氷のメイドとして噂されるサラサの一言が家族団欒としていた空気をぶち壊した。 ただそれは田舎に戻って結婚相手を探すというだけのことだった。 それに安心した伯爵の奥様が伯爵家の一人息子のオックスが成人するまでの一年間は残ってほしいという頼みを受け、いつものようにオックスのお世話をするサラサ。 するとどうしてかオックスは真面目に勉強を始め、社会勉強と評してサラサと一緒に何度もお出かけをするようになった。 好みの宝石を聞かれたり、ドレスを着せられたり、さらには何度も自分の好きな料理を食べさせてもらったりしながらも、あくまでも社会勉強と言い続けるオックス。 二人の甘酸っぱい日々と夫婦になるまでの物語。

旦那様、愛人を作ってもいいですか?

ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。 「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」 これ、旦那様から、初夜での言葉です。 んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと? ’18/10/21…おまけ小話追加

最後の思い出に、魅了魔法をかけました

ツルカ
恋愛
幼い時からの婚約者が、聖女と婚約を結びなおすことが内定してしまった。 愛も恋もなく政略的な結びつきしかない婚約だったけれど、婚約解消の手続きの前、ほんの短い時間に、クレアは拙い恋心を叶えたいと願ってしまう。 氷の王子と呼ばれる彼から、一度でいいから、燃えるような眼差しで見つめられてみたいと。 「魅了魔法をかけました」 「……は?」 「十分ほどで解けます」 「短すぎるだろう」

断罪するならご一緒に

宇水涼麻
恋愛
卒業パーティーの席で、バーバラは王子から婚約破棄を言い渡された。 その理由と、それに伴う罰をじっくりと聞いてみたら、どうやらその罰に見合うものが他にいるようだ。 王家の下した罰なのだから、その方々に受けてもらわねばならない。 バーバラは、責任感を持って説明を始めた。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

処理中です...