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第8話
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その日の昼休み、私は生徒会室に来ていた。
「はい、ロッテ。コーヒーをどうぞ」
アリシア様が目の前のテーブルにカップを置いてくれた。
「ありがとうございます。わぁ……素敵な香りですね」
カップを手に取り、香りをかいでみる。
「父が外国から取り寄せたコーヒーなの。我が家でも好評なのよ」
そしてアリシア様は机に向かうと、書類に目を通し始めた。
「アリシア様、生徒会の仕事忙しいのですか?」
「そうね。卒業式まで後一月だから、色々忙しいわ」
顔もあげずに答えるアリシア様。
「大変ですね……」
コーヒーを飲みながらアリシア様を見つめた。
「確かに大変ではあるけれど、自分たちの卒業式に関わることだから楽しくもあるわね」
「そういうものなのですか」
「ええ、そういうものよ」
アリシア様はニコリと笑うと、再び仕事を始めた。
「……」
私はその様子をじっと見つめる。
本来ならアリシア様は来月卒業するので、生徒会の仕事は終わりになるはずだった。
けれど現在の生徒会長が先月、生徒会費用を使いこんでしまったことがバレて停学処分になってしまった。
しかもあろうことか、副生徒会長まで加担していたのだから驚きだ。
当然2人は生徒会役員から外され、生徒会長と副生徒会長のなり手がいなくなってしまった。
そこで、前生徒会長だったアリシア様が卒業ギリギリまで仕事をすることになったのだが……。
アリシア様は目も回るような忙しい身分となってしまった。
「アリシア様、私で良ければお手伝い致しましょうか?」
「いいのよ。大分、仕事も終わりに近づいてきているから。だから今は手伝いもいらないのよ」
確かに今、生徒会室にはアリシア様の姿しかない。他の役員は全員不在だ。
「それなら良かったです……」
そのとき。
――コンコンコン!
妙に切羽詰まったノック音が聞こえた。
「あら? 誰かしら?」
怪訝そうに顔を上げるアリシア様。けれど私には誰がここに訪れたのか、よーく分かっている。
「あ、大丈夫です。私が応対しますから、アリシア様はお仕事を続けて下さい」
「え? ええ。ありがとう」
私は立ち上がると、扉に近付いて声をかけた。
「どちらさまですか?」
『その声……ロッテだな? 俺だよ! フリッツだよ!』
扉の外から焦った様子のフリッツの声が聞こえる。
「あら? フリッツ様なの? 珍しいわね、生徒会室に現れるなんて」
「アリシア様、どうされますか?」
振り返り、尋ねた。
「勿論、入ってもらって」
「分かりました、どうぞ入って下さい」
すると、扉が開かれて取り乱した様子のフリッツが現れる。
「ご無沙汰しておりましたね? フリッツ様」
アリシア様は笑顔をフリッツに向けた。
「あ、あぁ……ご、ご無沙汰してたね……」
フリッツは引きつった笑みを浮かべ、次に怯えた様子で私に視線を送るが私は知らんふりをした。
恐らくフリッツは私に会うため、教室へやってきた。
そこで私が生徒会室に向ったと話しを聞いて、ここまで追いかけてきたのだろう。
さぁ、フリッツ。どうするつもりかしら?
私は彼の動向を見守ることにした――
「はい、ロッテ。コーヒーをどうぞ」
アリシア様が目の前のテーブルにカップを置いてくれた。
「ありがとうございます。わぁ……素敵な香りですね」
カップを手に取り、香りをかいでみる。
「父が外国から取り寄せたコーヒーなの。我が家でも好評なのよ」
そしてアリシア様は机に向かうと、書類に目を通し始めた。
「アリシア様、生徒会の仕事忙しいのですか?」
「そうね。卒業式まで後一月だから、色々忙しいわ」
顔もあげずに答えるアリシア様。
「大変ですね……」
コーヒーを飲みながらアリシア様を見つめた。
「確かに大変ではあるけれど、自分たちの卒業式に関わることだから楽しくもあるわね」
「そういうものなのですか」
「ええ、そういうものよ」
アリシア様はニコリと笑うと、再び仕事を始めた。
「……」
私はその様子をじっと見つめる。
本来ならアリシア様は来月卒業するので、生徒会の仕事は終わりになるはずだった。
けれど現在の生徒会長が先月、生徒会費用を使いこんでしまったことがバレて停学処分になってしまった。
しかもあろうことか、副生徒会長まで加担していたのだから驚きだ。
当然2人は生徒会役員から外され、生徒会長と副生徒会長のなり手がいなくなってしまった。
そこで、前生徒会長だったアリシア様が卒業ギリギリまで仕事をすることになったのだが……。
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「アリシア様、私で良ければお手伝い致しましょうか?」
「いいのよ。大分、仕事も終わりに近づいてきているから。だから今は手伝いもいらないのよ」
確かに今、生徒会室にはアリシア様の姿しかない。他の役員は全員不在だ。
「それなら良かったです……」
そのとき。
――コンコンコン!
妙に切羽詰まったノック音が聞こえた。
「あら? 誰かしら?」
怪訝そうに顔を上げるアリシア様。けれど私には誰がここに訪れたのか、よーく分かっている。
「あ、大丈夫です。私が応対しますから、アリシア様はお仕事を続けて下さい」
「え? ええ。ありがとう」
私は立ち上がると、扉に近付いて声をかけた。
「どちらさまですか?」
『その声……ロッテだな? 俺だよ! フリッツだよ!』
扉の外から焦った様子のフリッツの声が聞こえる。
「あら? フリッツ様なの? 珍しいわね、生徒会室に現れるなんて」
「アリシア様、どうされますか?」
振り返り、尋ねた。
「勿論、入ってもらって」
「分かりました、どうぞ入って下さい」
すると、扉が開かれて取り乱した様子のフリッツが現れる。
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フリッツは引きつった笑みを浮かべ、次に怯えた様子で私に視線を送るが私は知らんふりをした。
恐らくフリッツは私に会うため、教室へやってきた。
そこで私が生徒会室に向ったと話しを聞いて、ここまで追いかけてきたのだろう。
さぁ、フリッツ。どうするつもりかしら?
私は彼の動向を見守ることにした――
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