3 / 9
第3話
しおりを挟む
――翌日8時半
「フッフッフッ。完璧な姿ね」
私は鏡の前でポーズを取った。カーキー色のチェックのジャケットにブラウンのボトムス。だてメガネに、長い髪はキャスケット帽の中に隠してある。
「何処からどう見ても、美少年にしか見えないわ!」
鏡の中に映る自分をビシッと指さした。
「お姉様……本当に、その姿で出掛けるつもりですか……? お母様が見たら卒倒しますよ?」
4つ年下の弟、デニスが心配そうに声をかけてくる。
「大丈夫よ。誰も私がロッテだと気づかないわ」
「だけど、その服は僕のです。すぐにバレてしまうのではありませんか?」
「ええ、だから……バレる前に出掛けるのよ!」
メッセンジャーバッグを肩から下げると、カメラをチェックする。
新し物好きな私は、最近巷で流行し始めたカメラを父に強請って強引に手に入れていたのだ。
「このカメラを使って、フリッツの浮気している決定的瞬間を収めてやるのだから」
「……でもそんな回りくどいことをしなくても、デートをしているフリッツ兄様を直撃すればよいのではありませんか?」
デニスはフリッツを慕っているので「フリッツ兄様」と呼んでいた。
「駄目よ、それでは意味がないの。直撃して話を聞くだけでは証拠として残せないでしょう? こうやってカメラに収めることでフリッツの弱みを握ることに繋がるのよ」
「……陰険だなぁ……」
「何? 今、何か言った?」
ジロリと睨むと、デニスが震える。
「い、いえ! 何でもありません! お姉様、どうぞお気をつけて言ってらっしゃいませ!」
「ええ。行ってくるわ!」
そして私は部屋を出ると、コソコソと物陰に隠れながら誰にも見られること無く脱出に成功したのだった……。
「確か、10時に噴水広場の前で待ち合わせだったわよね」
屋敷を出た私は懐中時計を取り出した。
「今は9時過ぎね……屋敷の馬車を使うわけにはいかないし……こうなったら辻馬車を拾って行くしか無いわね!」
慣れない革靴で私は辻馬車乗り場を目指した。
****
――9時半
辻馬車が噴水広場で停車した。
「どうもありがとうございました」
辻馬車を降りて御者に代金を支払うと、早速私はフリッツとメラニーの姿を探した。
「あの2人はどこかしら……? それにしてもすごい人だかりね。何かイベントでもあるのかしら? これじゃ探すのに手間が掛かりそうだわ。あら? あそこにいるのは……!」
その時私は人混みの間から、めかしこんだ姿でベンチに座るフリッツの姿を発見した。
「何? あの格好……ベストにジャケット……それに蝶ネクタイまでしてるじゃない! 随分気合を入れているのね……あ! 立ち上がって手を振っているわ! 誰か来たのね!」
すると、予想通り現れたのはメラニーだった。
彼女もまた気合を入れたワンピースドレス姿をしている。
「あの格好……間違いないわ。絶対これからデートをするつもりだわ!」
カバンからカメラを取り出すと首からぶら下げた。
「フッフッフッ……今日は1日あなた達に張り付いて、証拠写真を何枚も収めてやるんだから……あ、手を繋いで移動を始めたわ。追いかけなくちゃ!」
万一の為にキャスケット帽を目深にかぶると、私は仲よさげに手を繋いで歩く2人の尾行を探偵気分で開始した――
「フッフッフッ。完璧な姿ね」
私は鏡の前でポーズを取った。カーキー色のチェックのジャケットにブラウンのボトムス。だてメガネに、長い髪はキャスケット帽の中に隠してある。
「何処からどう見ても、美少年にしか見えないわ!」
鏡の中に映る自分をビシッと指さした。
「お姉様……本当に、その姿で出掛けるつもりですか……? お母様が見たら卒倒しますよ?」
4つ年下の弟、デニスが心配そうに声をかけてくる。
「大丈夫よ。誰も私がロッテだと気づかないわ」
「だけど、その服は僕のです。すぐにバレてしまうのではありませんか?」
「ええ、だから……バレる前に出掛けるのよ!」
メッセンジャーバッグを肩から下げると、カメラをチェックする。
新し物好きな私は、最近巷で流行し始めたカメラを父に強請って強引に手に入れていたのだ。
「このカメラを使って、フリッツの浮気している決定的瞬間を収めてやるのだから」
「……でもそんな回りくどいことをしなくても、デートをしているフリッツ兄様を直撃すればよいのではありませんか?」
デニスはフリッツを慕っているので「フリッツ兄様」と呼んでいた。
「駄目よ、それでは意味がないの。直撃して話を聞くだけでは証拠として残せないでしょう? こうやってカメラに収めることでフリッツの弱みを握ることに繋がるのよ」
「……陰険だなぁ……」
「何? 今、何か言った?」
ジロリと睨むと、デニスが震える。
「い、いえ! 何でもありません! お姉様、どうぞお気をつけて言ってらっしゃいませ!」
「ええ。行ってくるわ!」
そして私は部屋を出ると、コソコソと物陰に隠れながら誰にも見られること無く脱出に成功したのだった……。
「確か、10時に噴水広場の前で待ち合わせだったわよね」
屋敷を出た私は懐中時計を取り出した。
「今は9時過ぎね……屋敷の馬車を使うわけにはいかないし……こうなったら辻馬車を拾って行くしか無いわね!」
慣れない革靴で私は辻馬車乗り場を目指した。
****
――9時半
辻馬車が噴水広場で停車した。
「どうもありがとうございました」
辻馬車を降りて御者に代金を支払うと、早速私はフリッツとメラニーの姿を探した。
「あの2人はどこかしら……? それにしてもすごい人だかりね。何かイベントでもあるのかしら? これじゃ探すのに手間が掛かりそうだわ。あら? あそこにいるのは……!」
その時私は人混みの間から、めかしこんだ姿でベンチに座るフリッツの姿を発見した。
「何? あの格好……ベストにジャケット……それに蝶ネクタイまでしてるじゃない! 随分気合を入れているのね……あ! 立ち上がって手を振っているわ! 誰か来たのね!」
すると、予想通り現れたのはメラニーだった。
彼女もまた気合を入れたワンピースドレス姿をしている。
「あの格好……間違いないわ。絶対これからデートをするつもりだわ!」
カバンからカメラを取り出すと首からぶら下げた。
「フッフッフッ……今日は1日あなた達に張り付いて、証拠写真を何枚も収めてやるんだから……あ、手を繋いで移動を始めたわ。追いかけなくちゃ!」
万一の為にキャスケット帽を目深にかぶると、私は仲よさげに手を繋いで歩く2人の尾行を探偵気分で開始した――
289
お気に入りに追加
474
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。


魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

悪役令嬢の涙
拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。
かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。
ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。
二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。
悪役断罪?そもそも何かしましたか?
SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。
男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。
あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。
えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。
勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる