69 / 77
69 深まる謎
しおりを挟む
「あ、カ、カルロスッ!」
良かった・・・戻って来てくれたっ!カルロスの元へ走ろうとした。
「行かせるかっ!」
するとヘンリーが私の手首を掴み、グイッと強く自分の方へ引き寄せてきた。
「は、離してっ!ヘンリーッ!」
必死で振りほどこうとしてもヘンリーの力が強すぎて振りほどけない。
「やめろっ!テアを離せっ!」
「うるさいっ!」
するとヘンリーが大声を上げた。
「誰だ?お前は・・・。いいか?テアは俺の許婚なんだ。勝手に人の物に手を出すなよっ!」
物・・・?酷い。ヘンリーは私の事を物扱いするなんて・・。するとカルロスが叫んだ。
「テアッ!頭を下げてっ!」
「え?!」
だけど、一瞬カルロスと目が合った時・・何故かその目は信頼出来た。私はすぐに頭を下げた。するとジュースの入った紙コップを地面に置くと同時にポケットに手を突っ込み、ヒュッと何かを投げた。すると次の瞬間―。
「ウワッ!い、痛いっ!」
ヘンリーが私を離しておでこを押さえて悲鳴を上げた。
チャリーン!
コインが地面に落ちる音が聞こえた。それは銅貨だった。カルロスがポケットに入っていた銅貨をヘンリーのおでこに当てたのだ。
「テアッ!こっちへっ!」
「カルロスッ!」
カルロスが私に向かって手を伸ばして来た。
「ま、待てっ!テアッ!い、行くなよっ!」
ヘンリーはおでこを押さえて叫ぶが、カルロスは私を連れて走りながらヘンリーに叫んだ。
「あいにくお前にテアを渡す気は無いからなっ!」
そしてカルロスは私を見て笑った。その笑顔は・・・キャロルによく似ていた―。
****
人通りの少ない木陰まで私とカルロスは走って来た。
「ハアハアハア・・・。」
久々に走って息切れが酷い。一方のカルロスは涼しい顔をしていたけれども私があまりに息切れをしているのが心配になったのか、声を掛けてきた。
「テア?大丈夫かい?」
「え、ええ・・。ハアハア・・だ、大丈夫・・よ・・。」
「ごめん・・・テアの体力の事を良く考えずに走ってしまって・・・。」
申し訳無さそうに謝って来る。
「いいのよ・・おかげでヘンリーから逃げる事が出来たから・・・。」
無理に笑みを浮かべて言うとカルロスが忌々し気に言った。
「ヘンリー・・・あいつめ・・・。よくもテアを・・・。」
その言い方はまるでヘンリーの事を知っているような言い方に聞こえた。
「ねえ、カルロス・・・貴方、ひょっとしてヘンリーの事知ってるの?」
「勿論。あの男は・・本当に最低だよ。学校での評判も最低だし・・こんな言い方しては何だけど、テアはあの男と許嫁の関係を終わらせて正解だったと思うよ。最もあいつはまだテアの許婚でいるつもりみたいだけど・・・。」
その言葉にますますカルロスに対する謎が深まって来た。
「ねえ、カルロス。どうして貴方は私の事を知ってるの?私達・・・知り合い同士なの?」
すると私の言葉になぜか悲しそうな顔を見せるカルロス。
「テア・・・本当に僕の事・・分からないのかい?」
「カルロス・・・。」
私はカルロスの顔をじっと見つめて、必死で記憶の糸を手繰り寄せようとしたけれども・・・どうしても思い出す事が出来なかった。名前もまるで初耳だったし。
「ごめんなさい・・思い出せないわ・・・。」
首を振るとカルロスは溜息をつくと言った。
「まあ・・いいよ。今度会う時までの宿題にしておいてあげるよ。」
「え?宿題?」
「そう、次に僕に会う時までに思い出してみてよ。それでも分らなければ僕の正体を教えてあげるから。だから・・今は。」
カルロスは笑顔で言った。
「余計な事は考えずに・・・デートを楽しもうよ。」
そして私に右手を差し出して来た。
「え、ええ・・・。」
彼の笑顔を見ていると・・カルロスが何者でも関係ないと思えてしまった―。
良かった・・・戻って来てくれたっ!カルロスの元へ走ろうとした。
「行かせるかっ!」
するとヘンリーが私の手首を掴み、グイッと強く自分の方へ引き寄せてきた。
「は、離してっ!ヘンリーッ!」
必死で振りほどこうとしてもヘンリーの力が強すぎて振りほどけない。
「やめろっ!テアを離せっ!」
「うるさいっ!」
するとヘンリーが大声を上げた。
「誰だ?お前は・・・。いいか?テアは俺の許婚なんだ。勝手に人の物に手を出すなよっ!」
物・・・?酷い。ヘンリーは私の事を物扱いするなんて・・。するとカルロスが叫んだ。
「テアッ!頭を下げてっ!」
「え?!」
だけど、一瞬カルロスと目が合った時・・何故かその目は信頼出来た。私はすぐに頭を下げた。するとジュースの入った紙コップを地面に置くと同時にポケットに手を突っ込み、ヒュッと何かを投げた。すると次の瞬間―。
「ウワッ!い、痛いっ!」
ヘンリーが私を離しておでこを押さえて悲鳴を上げた。
チャリーン!
コインが地面に落ちる音が聞こえた。それは銅貨だった。カルロスがポケットに入っていた銅貨をヘンリーのおでこに当てたのだ。
「テアッ!こっちへっ!」
「カルロスッ!」
カルロスが私に向かって手を伸ばして来た。
「ま、待てっ!テアッ!い、行くなよっ!」
ヘンリーはおでこを押さえて叫ぶが、カルロスは私を連れて走りながらヘンリーに叫んだ。
「あいにくお前にテアを渡す気は無いからなっ!」
そしてカルロスは私を見て笑った。その笑顔は・・・キャロルによく似ていた―。
****
人通りの少ない木陰まで私とカルロスは走って来た。
「ハアハアハア・・・。」
久々に走って息切れが酷い。一方のカルロスは涼しい顔をしていたけれども私があまりに息切れをしているのが心配になったのか、声を掛けてきた。
「テア?大丈夫かい?」
「え、ええ・・。ハアハア・・だ、大丈夫・・よ・・。」
「ごめん・・・テアの体力の事を良く考えずに走ってしまって・・・。」
申し訳無さそうに謝って来る。
「いいのよ・・おかげでヘンリーから逃げる事が出来たから・・・。」
無理に笑みを浮かべて言うとカルロスが忌々し気に言った。
「ヘンリー・・・あいつめ・・・。よくもテアを・・・。」
その言い方はまるでヘンリーの事を知っているような言い方に聞こえた。
「ねえ、カルロス・・・貴方、ひょっとしてヘンリーの事知ってるの?」
「勿論。あの男は・・本当に最低だよ。学校での評判も最低だし・・こんな言い方しては何だけど、テアはあの男と許嫁の関係を終わらせて正解だったと思うよ。最もあいつはまだテアの許婚でいるつもりみたいだけど・・・。」
その言葉にますますカルロスに対する謎が深まって来た。
「ねえ、カルロス。どうして貴方は私の事を知ってるの?私達・・・知り合い同士なの?」
すると私の言葉になぜか悲しそうな顔を見せるカルロス。
「テア・・・本当に僕の事・・分からないのかい?」
「カルロス・・・。」
私はカルロスの顔をじっと見つめて、必死で記憶の糸を手繰り寄せようとしたけれども・・・どうしても思い出す事が出来なかった。名前もまるで初耳だったし。
「ごめんなさい・・思い出せないわ・・・。」
首を振るとカルロスは溜息をつくと言った。
「まあ・・いいよ。今度会う時までの宿題にしておいてあげるよ。」
「え?宿題?」
「そう、次に僕に会う時までに思い出してみてよ。それでも分らなければ僕の正体を教えてあげるから。だから・・今は。」
カルロスは笑顔で言った。
「余計な事は考えずに・・・デートを楽しもうよ。」
そして私に右手を差し出して来た。
「え、ええ・・・。」
彼の笑顔を見ていると・・カルロスが何者でも関係ないと思えてしまった―。
54
お気に入りに追加
3,608
あなたにおすすめの小説

【完結】婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ
曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。
婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。
美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。
そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……?
――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

手放したくない理由
ねむたん
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。
しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。
話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、
「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」
と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。
同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。
大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。
嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜
みおな
恋愛
伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。
そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。
その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。
そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。
ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。
堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

【完結】婚約破棄され毒杯処分された悪役令嬢は影から王子の愛と後悔を見届ける
堀 和三盆
恋愛
「クアリフィカ・アートルム公爵令嬢! 貴様との婚約は破棄する」
王太子との結婚を半年後に控え、卒業パーティーで婚約を破棄されてしまったクアリフィカ。目の前でクアリフィカの婚約者に寄り添い、歪んだ嗤いを浮かべているのは異母妹のルシクラージュだ。
クアリフィカは既に王妃教育を終えているため、このタイミングでの婚約破棄は未来を奪われるも同然。こうなるとクアリフィカにとれる選択肢は多くない。
せめてこれまで努力してきた王妃教育の成果を見てもらいたくて。
キレイな姿を婚約者の記憶にとどめてほしくて。
クアリフィカは荒れ狂う感情をしっかりと覆い隠し、この場で最後の公務に臨む。
卒業パーティー会場に響き渡る悲鳴。
目にした惨状にバタバタと倒れるパーティー参加者達。
淑女の鑑とまで言われたクアリフィカの最期の姿は、良くも悪くも多くの者の記憶に刻まれることになる。
そうして――王太子とルシクラージュの、後悔と懺悔の日々が始まった。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

今世ではあなたと結婚なんてお断りです!
水川サキ
恋愛
私は夫に殺された。
正確には、夫とその愛人である私の親友に。
夫である王太子殿下に剣で身体を貫かれ、死んだと思ったら1年前に戻っていた。
もう二度とあんな目に遭いたくない。
今度はあなたと結婚なんて、絶対にしませんから。
あなたの人生なんて知ったことではないけれど、
破滅するまで見守ってさしあげますわ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる