上 下
67 / 77

67 貴方は誰?

しおりを挟む
 私が男性を見つめると彼は笑みを浮かべたまま立ち上がり、言った。

「とりあえず外に出ようか?」

「は、はい・・・。」

一体この男性は誰なのだろう・・?聞きたいことは山ほどあったけれどもまずは男性の言う通りこの会場から出た方がよさそうだ
出入口を見ると人が大勢連なってぞろぞろと会場の外へ出いく姿が見えた。

「こんなに人が来ていたのね・・・。」

独り言のようにぽつりと言うと私の言葉が聞こえていたのか、彼が私の耳元に口を寄せると言った。

「それはそうだよ。このコンサートはとても人気があるからね。事前にチケットがなければ入場できなかったよ。前売り券だけで完売してしまったからね。」

「え?」

その言葉に驚いて振り向く。すると彼が言った。

「危ないから会場に出るまでは前を向いていた方がいいよ。」

「は、はい。」

彼に言われて、私は再び前を向いた。そしてゆっくり人の流れに沿って歩きながら先ほどの彼の言葉の意味を考えていた。
・・・一体これはどういう事なのだろう。前売り券だけで完売?それではキャロルは初めから私だけをこのコンサート会場に来るようにしていたのだろうか?そしてこの男性は偶然私の隣に座った・・・?でも、彼は私の名前を知っていた。という事は初めから私と彼がこの会場で出会うように細工されていた・・?でも、一体何の為に?彼とキャロルは知り合いなのだろうか・・・?
悶々とした頭を抱えながら劇場の外へ出ると彼がすぐに私の隣に並んできて声を掛けてきた。

「テア、今日はこの後何か用事でもあるの?」

「いいえ、特にありません。」

その声の掛け方があまりにも自然で、私も普通に答えていた。

「本当?それじゃこの大通りを行った先には噴水のある大きな公園があるんだ。今日は祝日だからそこで大道芸や屋台のお店が沢山出ているから、僕と一緒に行こう。」

そしていきなり手をつないできた。

「え?!キャアッ!」

思わず驚いて手を振りほどいてしまうと、彼は悲し気な顔で私を見た。

「・・もしかして・・嫌だった?」

「え、あ・あの。嫌だというよりは驚いて・・・。」

すると彼はニッコリ笑みを浮かべた。

「それじゃ嫌だというわけじゃないんだね?」

そして再び私の右手を握り締めると言った。

「さぁ、行こう。」

そして公園に向かって歩き出す。

「あ、あの・・・!」

どうして?!私は知らない男性と手をつないで歩いているのだろう?頭の中はすっかり混乱していた。大体私は今まで異性とこんな風に手をつないで歩いたことがない。私とヘンリーは許婚同士だったけれども、そんな関係ではなかったし、男友達はたくさんいたけれどもただの友達だから手なんか当然つないだことは無い。なのにこの男性は初対面なのに、いきなり手をつないでくるのだから。
それにしても・・・手をつなぎながら私の隣を歩く男性を改めて見つめた。ヘンリーよりもずっと高い背。金の巻き毛に青い瞳はキャロルを思わせる。そして大きくて・・暖かい手・・。ヘンリーは出かける時、私の隣を歩いてくれたことは一度も無かった。いつも私の数歩前を歩き・・・私は彼の背中ばかりを寂しい気持ちで見つめていた。なのに・・・。この男性は・・。
それに初めてとは思えない、この安心感は一体何だろう・・・・?



****

「今日は本当にお天気に恵まれて良かったな~・・・。こうやってテアと出かけられるんだから。」

公園に向かって歩きながら彼は私を見下ろし、笑顔で言う。

「は、はい。ところでそろそろ貴方の事を教えて頂けませんか?貴方は誰ですか?どうして私の事を知っているのですか?」

「僕の名前はカルロス・ブレイクだよ。年齢はテアと同じ18歳。」

彼はカルロスと名乗ったけれども、私の記憶に彼の名前は無い。

「あ、あの・・・すみません。やっぱりその名前聞き覚えがないのですけど・・。」

するとカルロスが怪訝そうに眉をひそめながら言う。

「テア、年齢は君と同じなんだから・・・敬語なんか使わないでよ。」

「え、ええ・・・。分かったわ・・。」

どうもキャロルと雰囲気が似ていると、つい断れなくなってしまった。

「それは良かった・・・ほら、公園に着いたよ。」

いつの間にか私たちは公園の入り口に立っていた。目の前に広がる綺麗な公園にはベンチが並べられ、多くの屋台が軒をつらてねている。綺麗に整えられた芝生の奥には大きな池があり、ボート乗り場が遠くの方に見えている。

「行こう、テア。」

彼は笑顔で私に言うと、公園へ足を踏み入れた―。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「わかれよう」そうおっしゃったのはあなたの方だったのに。

友坂 悠
恋愛
侯爵夫人のマリエルは、夫のジュリウスから一年後の離縁を提案される。 あと一年白い結婚を続ければ、世間体を気にせず離婚できるから、と。 ジュリウスにとっては亡き父が進めた政略結婚、侯爵位を継いだ今、それを解消したいと思っていたのだった。 「君にだってきっと本当に好きな人が現れるさ。私は元々こうした政略婚は嫌いだったんだ。父に逆らうことができず君を娶ってしまったことは本当に後悔している。だからさ、一年後には離婚をして、第二の人生をちゃんと歩んでいくべきだと思うんだよ。お互いにね」 「わかりました……」 「私は君を解放してあげたいんだ。君が幸せになるために」 そうおっしゃるジュリウスに、逆らうこともできず受け入れるマリエルだったけれど……。 勘違い、すれ違いな夫婦の恋。 前半はヒロイン、中盤はヒーロー視点でお贈りします。 四万字ほどの中編。お楽しみいただけたらうれしいです。

今さら後悔しても知りません 婚約者は浮気相手に夢中なようなので消えてさしあげます

神崎 ルナ
恋愛
旧題:長年の婚約者は政略結婚の私より、恋愛結婚をしたい相手がいるようなので、消えてあげようと思います。 【奨励賞頂きましたっ( ゚Д゚) ありがとうございます(人''▽`)】 コッペリア・マドルーク公爵令嬢は、王太子アレンの婚約者として良好な関係を維持してきたと思っていた。  だが、ある時アレンとマリアの会話を聞いてしまう。 「あんな堅苦しい女性は苦手だ。もし許されるのであれば、君を王太子妃にしたかった」  マリア・ダグラス男爵令嬢は下級貴族であり、王太子と婚約などできるはずもない。 (そう。そんなに彼女が良かったの)  長年に渡る王太子妃教育を耐えてきた彼女がそう決意を固めるのも早かった。  何故なら、彼らは将来自分達の子を王に据え、更にはコッペリアに公務を押し付け、自分達だけ遊び惚けていようとしているようだったから。 (私は都合のいい道具なの?)  絶望したコッペリアは毒薬を入手しようと、お忍びでとある店を探す。  侍女達が話していたのはここだろうか?  店に入ると老婆が迎えてくれ、コッペリアに何が入用か、と尋ねてきた。  コッペリアが正直に全て話すと、 「今のあんたにぴったりの物がある」  渡されたのは、小瓶に入った液状の薬。 「体を休める薬だよ。ん? 毒じゃないのかって? まあ、似たようなものだね。これを飲んだらあんたは眠る。ただし」  そこで老婆は言葉を切った。 「目覚めるには条件がある。それを満たすのは並大抵のことじゃ出来ないよ。下手をすれば永遠に眠ることになる。それでもいいのかい?」  コッペリアは深く頷いた。  薬を飲んだコッペリアは眠りについた。  そして――。  アレン王子と向かい合うコッペリア(?)がいた。 「は? 書類の整理を手伝え? お断り致しますわ」 ※お読み頂きありがとうございます(人''▽`) hotランキング、全ての小説、恋愛小説ランキングにて1位をいただきました( ゚Д゚)  (2023.2.3)  ありがとうございますっm(__)m ジャンピング土下座×1000000 ※お読みくださり有難うございました(人''▽`) 完結しました(^▽^)

「私も新婚旅行に一緒に行きたい」彼を溺愛する幼馴染がお願いしてきた。彼は喜ぶが二人は喧嘩になり別れを選択する。

window
恋愛
イリス公爵令嬢とハリー王子は、お互いに惹かれ合い相思相愛になる。 「私と結婚していただけますか?」とハリーはプロポーズし、イリスはそれを受け入れた。 関係者を招待した結婚披露パーティーが開かれて、会場でエレナというハリーの幼馴染の子爵令嬢と出会う。 「新婚旅行に私も一緒に行きたい」エレナは結婚した二人の間に図々しく踏み込んでくる。エレナの厚かましいお願いに、イリスは怒るより驚き呆れていた。 「僕は構わないよ。エレナも一緒に行こう」ハリーは信じられないことを言い出す。エレナが同行することに乗り気になり、花嫁のイリスの面目をつぶし感情を傷つける。 とんでもない男と結婚したことが分かったイリスは、言葉を失うほかなく立ち尽くしていた。

【完】愛していますよ。だから幸せになってくださいね!

さこの
恋愛
「僕の事愛してる?」 「はい、愛しています」 「ごめん。僕は……婚約が決まりそうなんだ、何度も何度も説得しようと試みたけれど、本当にごめん」 「はい。その件はお聞きしました。どうかお幸せになってください」 「え……?」 「さようなら、どうかお元気で」  愛しているから身を引きます。 *全22話【執筆済み】です( .ˬ.)" ホットランキング入りありがとうございます 2021/09/12 ※頂いた感想欄にはネタバレが含まれていますので、ご覧の際にはお気をつけください! 2021/09/20  

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

アリシアの恋は終わったのです。

ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。 その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。 そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。 反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。 案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。 ーーーーー 12話で完結します。 よろしくお願いします(´∀`)

この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。

天織 みお
恋愛
「おめでとうございます。奥様はご懐妊されています」 目が覚めたらいきなり知らない老人に言われた私。どうやら私、妊娠していたらしい。 「だが!彼女と子供が出来るような心当たりは一度しかないんだぞ!!」 そして、子供を作ったイケメン王太子様との仲はあまり良くないようで――? そこに私の元婚約者らしい隣国の王太子様とそのお妃様まで新婚旅行でやって来た! っていうか、私ただの女子高生なんですけど、いつの間に結婚していたの?!ファーストキスすらまだなんだけど!! っていうか、ここどこ?! ※完結まで毎日2話更新予定でしたが、3話に変更しました ※他サイトにも掲載中

処理中です...