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66 誰かに似た人
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「ありがとう、帰りは辻馬車を拾って帰るから待っていなくて大丈夫よ?」
市立劇場の前で馬車を降りた私は御者に伝えた。
「はい、テア様。では楽しんできてください。」
「ええ。ありがとう。」
そして馬車は走り去り、私は手を振って見送った。
「今何時かしら・・・。」
ショルダーバッグにつけておいた懐中時計を確認すると時刻は9時半だった。
「あと30分で開演ね・・・。という事は、もう中に入れるのかしら?」
カツカツと石畳の上を靴音を鳴らしながら市立劇場の入り口を目指して歩いていると、すでに入り口前には列が出来ていた。並ぶ人たちはみんなカップルか友人、家族連れで、1人きりでいるのは私だけだった。それが無性に恥ずかしくて、うつむき加減に列に並んで待っていると、私の背後に並んでいた若い女性たちのささやき声が聞こえてきた。
「ねえ、あそこに1人で並んでいる人・・とても素敵だと思わない。」
「ええ、本当に素敵な人ね・・。連れはいないのかしら・・。」
「勇気があれば声を掛けるのに・・。」
しまいには随分と大胆なセリフ迄飛び出してきた。それにしても・・女性からそんな言葉を言わせるなんて一体どんな人なのだろう?少し興味がわいて、顔を上げてその人物を見て・・息が止まりそうになった。その男性はとても背が高く、金色に輝くふわふわした巻き毛に青い瞳の横顔が見えた。
「え・・?」
何故かその男性を見た時に、今朝見た夢の少年を思い出してしまった。顔までは覚えていなかったけれども、ふわふわした金の巻き毛・・・その少年が成長して目の前に現れたのではないかと錯覚するほどに。
「馬鹿ね・・私ったら。所詮ただの夢なのに・・。」
ぽつりと小声で呟くと、受付が始まったのが列が動き出した―。
****
「え・・?」
会場に入った時に、思わず口から言葉が漏れてしまった。何故なら私の左隣の座席が例の金の髪の男性だったからだ。それに右隣には小さな子供連れの家族が座っている。
え?一体どういう事?キャロルは私と一緒にこのコンサートへ来るつもりじゃなかったのだろうか?それなのに・・・な、何故・・・キャロルが座るべき席に・・・この男性が・・・?!
私はチラリと席に座るとき男性の顔を見た。彼は私の視線に気づかない様子で入り口でもらったパンフレットを読んでいる。その横顔は・・よく見るとキャロルに似ていた。
そうだ、私が最初に男性を見た時・・息が止まりそうになったのはキャロルに雰囲気がよく似ていたからだ。おそらくキャロルを男性にしてみると・・きっと彼のようになったであろうと思わせるほどによく似ていた。
ほんの少し、男性を見ていたつもりがいつの間にか私は凝視してしまっていたようだ。視線に気づいたのか男性が私を見てじっとこちらを見つめ、にっこりとほほ笑んできた。慌てて私も会釈をすると、すぐに前を向き・・・コンサートが始まるのをひたすら・・待った―。
ブーッ・・・・
やがて開演を知らせるブザーが鳴り響き・・・、前方の舞台の赤いステージ幕がスルスルと巻き上げられ、コンサートが始まった―。
****
パチパチパチパチ・・
クラシックコンサートが終わって拍手が響き渡った。私も一生懸命拍手をした。それにしても・・まさかこんなに素晴らしいコンサートだとは思わなかった。キャロルが選んだコンサートはまさに私の好みにピッタリだった。さすがは私の一番の親友。彼女と一緒にコンサートに来る事が出来なかったのは残念だけど・・・家に帰ってキャロルに会ったらお礼を言おう。
幕が下りて会場の人たちが立ち上がり・・・皆がぞろぞろと出口へ向かって歩き始めたので私も立ち上がった時に不意に隣に座っていた男性に声を掛けられた。
「テア、どこへ行くの?」
「え・・・?」
驚いて男性を見下ろすと、彼は青い瞳でじっと私を見つめ・・笑みを浮かべた―。
市立劇場の前で馬車を降りた私は御者に伝えた。
「はい、テア様。では楽しんできてください。」
「ええ。ありがとう。」
そして馬車は走り去り、私は手を振って見送った。
「今何時かしら・・・。」
ショルダーバッグにつけておいた懐中時計を確認すると時刻は9時半だった。
「あと30分で開演ね・・・。という事は、もう中に入れるのかしら?」
カツカツと石畳の上を靴音を鳴らしながら市立劇場の入り口を目指して歩いていると、すでに入り口前には列が出来ていた。並ぶ人たちはみんなカップルか友人、家族連れで、1人きりでいるのは私だけだった。それが無性に恥ずかしくて、うつむき加減に列に並んで待っていると、私の背後に並んでいた若い女性たちのささやき声が聞こえてきた。
「ねえ、あそこに1人で並んでいる人・・とても素敵だと思わない。」
「ええ、本当に素敵な人ね・・。連れはいないのかしら・・。」
「勇気があれば声を掛けるのに・・。」
しまいには随分と大胆なセリフ迄飛び出してきた。それにしても・・女性からそんな言葉を言わせるなんて一体どんな人なのだろう?少し興味がわいて、顔を上げてその人物を見て・・息が止まりそうになった。その男性はとても背が高く、金色に輝くふわふわした巻き毛に青い瞳の横顔が見えた。
「え・・?」
何故かその男性を見た時に、今朝見た夢の少年を思い出してしまった。顔までは覚えていなかったけれども、ふわふわした金の巻き毛・・・その少年が成長して目の前に現れたのではないかと錯覚するほどに。
「馬鹿ね・・私ったら。所詮ただの夢なのに・・。」
ぽつりと小声で呟くと、受付が始まったのが列が動き出した―。
****
「え・・?」
会場に入った時に、思わず口から言葉が漏れてしまった。何故なら私の左隣の座席が例の金の髪の男性だったからだ。それに右隣には小さな子供連れの家族が座っている。
え?一体どういう事?キャロルは私と一緒にこのコンサートへ来るつもりじゃなかったのだろうか?それなのに・・・な、何故・・・キャロルが座るべき席に・・・この男性が・・・?!
私はチラリと席に座るとき男性の顔を見た。彼は私の視線に気づかない様子で入り口でもらったパンフレットを読んでいる。その横顔は・・よく見るとキャロルに似ていた。
そうだ、私が最初に男性を見た時・・息が止まりそうになったのはキャロルに雰囲気がよく似ていたからだ。おそらくキャロルを男性にしてみると・・きっと彼のようになったであろうと思わせるほどによく似ていた。
ほんの少し、男性を見ていたつもりがいつの間にか私は凝視してしまっていたようだ。視線に気づいたのか男性が私を見てじっとこちらを見つめ、にっこりとほほ笑んできた。慌てて私も会釈をすると、すぐに前を向き・・・コンサートが始まるのをひたすら・・待った―。
ブーッ・・・・
やがて開演を知らせるブザーが鳴り響き・・・、前方の舞台の赤いステージ幕がスルスルと巻き上げられ、コンサートが始まった―。
****
パチパチパチパチ・・
クラシックコンサートが終わって拍手が響き渡った。私も一生懸命拍手をした。それにしても・・まさかこんなに素晴らしいコンサートだとは思わなかった。キャロルが選んだコンサートはまさに私の好みにピッタリだった。さすがは私の一番の親友。彼女と一緒にコンサートに来る事が出来なかったのは残念だけど・・・家に帰ってキャロルに会ったらお礼を言おう。
幕が下りて会場の人たちが立ち上がり・・・皆がぞろぞろと出口へ向かって歩き始めたので私も立ち上がった時に不意に隣に座っていた男性に声を掛けられた。
「テア、どこへ行くの?」
「え・・・?」
驚いて男性を見下ろすと、彼は青い瞳でじっと私を見つめ・・笑みを浮かべた―。
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