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59 私の覚悟
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1限目の講義が始まった。今日の講義は心理学だった。私は心理学が大好きでこの講義を受講したのだが、キャロルはあまり好きではないのか、欠伸を噛み殺しながら授業を聞いている。次にヘンリーの様子を伺うと、彼は1人ぼっちで教壇近くの席に座り、眠気と戦っているのか何度も何度も眼をこすっている姿が目に入った。
それにしても・・・こうして客観的にヘンリーを見ることが出来るようになって、改めて私は気づいた。ヘンリーの周囲は彼を中心にポカリと席が空いている。まるで意図的に彼から離れようとしているようにも見えた。だけど・・皆傍に近寄りたくない程にヘンリーの事を嫌っているのだという事が―。
キーンコーンカーンコーン・・・
チャイムが鳴って1限目の講義が終わり、教科書をカバンに入れているとキャロルが私に話しかけてきた。
「ねえ、テア。昨日・・・帰り大丈夫だった?」
「え?何が?」
「あのね・・・この教室にヘンリーが来る前に・・・彼の事噂していた人たちがいたのよ。ほら、あの席に座っている人たちよ。」
キャロルがそっと指をさした先に座っていたのは男女4人組の学生達だった。
「あ・・あの人たちは、高校生の時のクラスメイトよ。」
「やっぱりそうなのね。ヘンリーが教室に入ってきたときに噂をしていたのだけど、昨日・・・昼休みから姿を見せないと思っていたけど、大学に残っていたみたいね?あの人たち放課後ヘンリーがまるで何かに逃げるかのように走り去って行く姿を見かけたらしいから・・・。」
すると私の隣に座っていたニコルが会話に入ってきた。
「え?何?ヘンリーは家に帰ったんじゃなかったのかい?」
2人に尋ねられてきたので私は正直に話すことにした。
「ええ・・・実は昨日キャロルたちと別れた後に大学の出口を出たところでヘンリーに声を掛けられたのよ。ずっと茂みの中に隠れていたみたいで、その話を聞いたとき驚いたわ。」
「それは驚くわね・・。」
「一体彼はどのくらい隠れていたのだろう?」
ニコルは腕組をしながら首をひねる。
「さあ・・・・あえて、そのあたりの事は聞かなかったから・・・。それで茂みから出てきたヘンリーは食堂で馬鹿にされて逃げた自分を何故追ってこなかったのか問い詰めてきたのよ。」
「うわっ!何だい・・その話は。」
ニコルが露骨に嫌そうな顔をする。
「テアが1人になるのを狙って現れたのね・・・。卑怯な人だわ。」
キャロルはまだ教室に残っているヘンリーを一瞥すると言った。
一方・・ヘンリーは一体何をしているのだろう?時々チラチラこちらの様子を伺いながらゆっくり机の上の荷物を片付けている。まさか・・・私たちに声を掛けてもらえるのを待っているのだろうか?
ヘンリーの奇妙な動きに気づいたキャロルが小声で声を掛けてきた。
「ねぇ、ヘンリーが意味深な目でこっちを見ているわ・・。気味が悪いからもう次の教室へ行きましょう。」
キャロルが立ち上がりながら言う。
「ああ、そうだな。」
ニコルも席を立ったので、私も立ち上がった。それにしても・・私は内心驚いていた。キャロルが、あの顔だけはハンサムなヘンリーの事を気味が悪いと言ってのけるのだから。後でもういちどキャロルに謝っておかなければ。ヘンリーとキャロルが互いの事を好きあっていると勘違いした私が余計な気をまわしてしまったことを・・。
私たちが教室を出て廊下を歩き始めると、ヘンリーもコソコソ後をつけてくるのが分かった。それを横目でチラリと見ながらすっかり足が治ったキャロルが言った。
「いやね~・・・コソコソ後をつけてくるなんて・・・。迷惑だわ・・・。」
「ああ、そうだな・・実に男らしくない。言いたいことがあればはっきり言いに来ればいいんだ。それにしても本当に目障りな男だな・・・。」
ニコルもなかなかの事を言ってくれる。
何故ヘンリーがあのように得体のしれない行動に出ているかという事をキャロルもニコルも知らない。これ以上2人に嫌な思いをさせたくないので、私は直にヘンリーに言いに行こうと決めた。
「あの・・ね。私がヘンリーに迷惑だから付きまとわないで欲しいと伝えてくるわ。だから2人は先に教室へ行っててくれる?次の授業はクラスごとの授業だったものね?」
「あら・・大丈夫なの?テア・・貴女1人で。」
「ああ、そうだよ。俺たちも付き合おうか?」
2人の申し出は嬉しいけれども、1対3ではヘンリーに卑怯者呼ばわりされそうだ。それに元々は私とヘンリーの問題なので2人を巻き込むわけにはいかない。
「大丈夫・・私にはいざとなったら・・ほら、生卵があるから。」
「確かにそうだけど・・でも本当に大丈夫?」
キャロルが心配そうに言う。
「うん、大丈夫よ。」
「テア、話し合いはなるべく人が多い場所でするんだよ。」
ニコルがアドバイスをくれる。
「分かったわ。それじゃ後でね。」
私は2人に手を振ると、その場に残りヘンリーのいる方向を振り向いた。すると遠目からでもはっきり分かるほどに満面の笑みを浮かべてヘンリーが速足で私の方へ近づいてきた―。
それにしても・・・こうして客観的にヘンリーを見ることが出来るようになって、改めて私は気づいた。ヘンリーの周囲は彼を中心にポカリと席が空いている。まるで意図的に彼から離れようとしているようにも見えた。だけど・・皆傍に近寄りたくない程にヘンリーの事を嫌っているのだという事が―。
キーンコーンカーンコーン・・・
チャイムが鳴って1限目の講義が終わり、教科書をカバンに入れているとキャロルが私に話しかけてきた。
「ねえ、テア。昨日・・・帰り大丈夫だった?」
「え?何が?」
「あのね・・・この教室にヘンリーが来る前に・・・彼の事噂していた人たちがいたのよ。ほら、あの席に座っている人たちよ。」
キャロルがそっと指をさした先に座っていたのは男女4人組の学生達だった。
「あ・・あの人たちは、高校生の時のクラスメイトよ。」
「やっぱりそうなのね。ヘンリーが教室に入ってきたときに噂をしていたのだけど、昨日・・・昼休みから姿を見せないと思っていたけど、大学に残っていたみたいね?あの人たち放課後ヘンリーがまるで何かに逃げるかのように走り去って行く姿を見かけたらしいから・・・。」
すると私の隣に座っていたニコルが会話に入ってきた。
「え?何?ヘンリーは家に帰ったんじゃなかったのかい?」
2人に尋ねられてきたので私は正直に話すことにした。
「ええ・・・実は昨日キャロルたちと別れた後に大学の出口を出たところでヘンリーに声を掛けられたのよ。ずっと茂みの中に隠れていたみたいで、その話を聞いたとき驚いたわ。」
「それは驚くわね・・。」
「一体彼はどのくらい隠れていたのだろう?」
ニコルは腕組をしながら首をひねる。
「さあ・・・・あえて、そのあたりの事は聞かなかったから・・・。それで茂みから出てきたヘンリーは食堂で馬鹿にされて逃げた自分を何故追ってこなかったのか問い詰めてきたのよ。」
「うわっ!何だい・・その話は。」
ニコルが露骨に嫌そうな顔をする。
「テアが1人になるのを狙って現れたのね・・・。卑怯な人だわ。」
キャロルはまだ教室に残っているヘンリーを一瞥すると言った。
一方・・ヘンリーは一体何をしているのだろう?時々チラチラこちらの様子を伺いながらゆっくり机の上の荷物を片付けている。まさか・・・私たちに声を掛けてもらえるのを待っているのだろうか?
ヘンリーの奇妙な動きに気づいたキャロルが小声で声を掛けてきた。
「ねぇ、ヘンリーが意味深な目でこっちを見ているわ・・。気味が悪いからもう次の教室へ行きましょう。」
キャロルが立ち上がりながら言う。
「ああ、そうだな。」
ニコルも席を立ったので、私も立ち上がった。それにしても・・私は内心驚いていた。キャロルが、あの顔だけはハンサムなヘンリーの事を気味が悪いと言ってのけるのだから。後でもういちどキャロルに謝っておかなければ。ヘンリーとキャロルが互いの事を好きあっていると勘違いした私が余計な気をまわしてしまったことを・・。
私たちが教室を出て廊下を歩き始めると、ヘンリーもコソコソ後をつけてくるのが分かった。それを横目でチラリと見ながらすっかり足が治ったキャロルが言った。
「いやね~・・・コソコソ後をつけてくるなんて・・・。迷惑だわ・・・。」
「ああ、そうだな・・実に男らしくない。言いたいことがあればはっきり言いに来ればいいんだ。それにしても本当に目障りな男だな・・・。」
ニコルもなかなかの事を言ってくれる。
何故ヘンリーがあのように得体のしれない行動に出ているかという事をキャロルもニコルも知らない。これ以上2人に嫌な思いをさせたくないので、私は直にヘンリーに言いに行こうと決めた。
「あの・・ね。私がヘンリーに迷惑だから付きまとわないで欲しいと伝えてくるわ。だから2人は先に教室へ行っててくれる?次の授業はクラスごとの授業だったものね?」
「あら・・大丈夫なの?テア・・貴女1人で。」
「ああ、そうだよ。俺たちも付き合おうか?」
2人の申し出は嬉しいけれども、1対3ではヘンリーに卑怯者呼ばわりされそうだ。それに元々は私とヘンリーの問題なので2人を巻き込むわけにはいかない。
「大丈夫・・私にはいざとなったら・・ほら、生卵があるから。」
「確かにそうだけど・・でも本当に大丈夫?」
キャロルが心配そうに言う。
「うん、大丈夫よ。」
「テア、話し合いはなるべく人が多い場所でするんだよ。」
ニコルがアドバイスをくれる。
「分かったわ。それじゃ後でね。」
私は2人に手を振ると、その場に残りヘンリーのいる方向を振り向いた。すると遠目からでもはっきり分かるほどに満面の笑みを浮かべてヘンリーが速足で私の方へ近づいてきた―。
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