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58 階段教室にて
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大学へ到着して1限目の教室へ入ると、すでに階段教室の一番奥の窓際の席にキャロルが座っており、じっと教室の出入り口を見つめている姿が目に入った。
「あ!テアッ!」
キャロルは私を見ると笑顔で右手を振る。私も笑顔で手を振るとキャロルの席へ向かった。途中・・何やら視線を感じたので振り向くと、そこには斜め右前方に座ったヘンリーがじっと私を凝視している姿が目に入った。それを目にした私は無意識のうちに生卵が入った手提げバックを握り締めていた。もし、ヘンリーに何か言いがかりをつけられたら・・この生卵をぶつければいいだけ。そう自分に言い聞かせた。けれど・・今朝のヘンリーはいつになく、上質な服を着用している。まるでこれからデートにでも出掛けるような・・・。さすがにあのような上質な服を着ているヘンリーに生卵をぶつけるのはいささか悪い気がしてきた。しかし、母はあの姿のヘンリーを箒で追いはらい、私にいざというときにぶつけるようにと生卵を渡してきたのだ。
・・・大丈夫、母の許可も下りているし・・・万一の時は彼に生卵をぶつけよう。
自分自身に言い聞かせて、無理やり納得させた。
そんな事を考えながら、背中にヘンリーの視線を感じつつ・・・キャロルの元へ向かった。
「おはよう、テア。」
「おはよう、キャロル。」
言いながらカバンを下ろし、キャロルの隣に座ると早速話しかけてきた。
「ねえねえ、聞いてよ。テア。」
「ええ、なあに?」
「ほら・・・あそこにヘンリーが座っているでしょう?」
「え?ええ。そうね。」
ヘンリーは私たちに見られているくせに、堂々とこちらを凝視している。・・一体何を考えているのだろう?普通は・・バツが悪くて視線をそらせるべきでは?
「聞いてよ、彼ったらね・・・教室に入って来た途端・・私の隣に始め座ろうとしたのよ。おはようキャロル・・・ここに座ってもいいかなって?」
キャロルは上手にヘンリーの声真似をした。
「ええっ?!ほ、本当・・・?」
「そうなのよ。信じられないでしょう?」
この話を聞いて私は驚きを通り越して、呆れてしまった。確かヘンリーはキャロルに告白をして、別に好きな人がいるからと言って振られたと教えてくれた。それなのに?キャロルに話しかけて・・隣に座ろうとした?
キャロルとヘンリーが互いに好意を寄せていると勘違いしてしまった私も多少、どうかしているのかもしれないけれど、ヘンリーの思考は私の斜め上をいっているようだ。
「そ、それで・・・どうしたの?」
声を震わせながら尋ねてみた。
「勿論断ったに決まっているじゃない。私の隣は常にテアが座るのよって。そしたら・・。」
「そしたら?」
ゴクリと息を飲んで次のキャロルの言葉を待った。
「だったらテアに確認してくれないか?って言ってきたのよ?!2人の邪魔はしないから・・・どうか僕の事を邪険にしないで欲しいって。」
「えええっ?!うっ!ゴホッゴホッ!」
私は思わず大きな声を上げてしまい・・激しくむせる。周囲の人たちから視線を浴びてしまった。
「大丈夫?テア・・・落ち着いて?当然断ったに決まっているじゃない。」
キャロルは私の背中をさすりながら言う。
「そ、そうね・・・。あ、ありがとう・・。」
信じられない・・・ショックだった。まさか・・ヘンリーと私の思考がかぶってしまったなんて。やっぱり・・・10年も長く一緒にいると・・どこか似てしまうのだろうか?これは・・・非常にまずい。やはりヘンリーとは出来るだけ距離を開けなければ・・今に私はヘンリー色?に染まってしまうかもしれない・・などと考えているうちにニコルが教室に入ってきた。
「おはよう、テア、キャロル。」
「「おはよう、ニコル。」」
2人で声を揃えて挨拶する。
「隣・・座っていいかな?」
ニコルが笑みを浮かべながら私に尋ねてきた。
「ええ、もちろんよ。」
私が答えるとキャロルも言う。
「断るはずないでしょう?」
「そうか、良かった。」
「あ、待ってねニコル。今バッグをずらすから。」
座席に置いてあったバッグを自分の方に引き寄せるとニコルが尋ねてきた。
「あれ?何だい?テア。随分可愛らしいバッグを持っているね?」
手の平サイズのリネンで出来たミニバッグは男性の目から見ても可愛らしいようだ。
「ええ、可愛いでしょう?」
するとキャロルも覗き込んでくると歓声を上げた。
「まあ!本当・・可愛らしいバッグね。どうしたの?何か大切なものが入っているの?」
「ええ・・そうなの。」
「ふ~ん・・何が入っているか聞いてもいいかな?」
ニコルが興味津々の目で尋ねてきた。
「ええ、いいわよ。この中にはね・・・生卵が入っているの。」
「「生卵?」」
キャロルとニコルが同時に首を傾げ・・・次の説明で2人は大爆笑するのだった―。
「あ!テアッ!」
キャロルは私を見ると笑顔で右手を振る。私も笑顔で手を振るとキャロルの席へ向かった。途中・・何やら視線を感じたので振り向くと、そこには斜め右前方に座ったヘンリーがじっと私を凝視している姿が目に入った。それを目にした私は無意識のうちに生卵が入った手提げバックを握り締めていた。もし、ヘンリーに何か言いがかりをつけられたら・・この生卵をぶつければいいだけ。そう自分に言い聞かせた。けれど・・今朝のヘンリーはいつになく、上質な服を着用している。まるでこれからデートにでも出掛けるような・・・。さすがにあのような上質な服を着ているヘンリーに生卵をぶつけるのはいささか悪い気がしてきた。しかし、母はあの姿のヘンリーを箒で追いはらい、私にいざというときにぶつけるようにと生卵を渡してきたのだ。
・・・大丈夫、母の許可も下りているし・・・万一の時は彼に生卵をぶつけよう。
自分自身に言い聞かせて、無理やり納得させた。
そんな事を考えながら、背中にヘンリーの視線を感じつつ・・・キャロルの元へ向かった。
「おはよう、テア。」
「おはよう、キャロル。」
言いながらカバンを下ろし、キャロルの隣に座ると早速話しかけてきた。
「ねえねえ、聞いてよ。テア。」
「ええ、なあに?」
「ほら・・・あそこにヘンリーが座っているでしょう?」
「え?ええ。そうね。」
ヘンリーは私たちに見られているくせに、堂々とこちらを凝視している。・・一体何を考えているのだろう?普通は・・バツが悪くて視線をそらせるべきでは?
「聞いてよ、彼ったらね・・・教室に入って来た途端・・私の隣に始め座ろうとしたのよ。おはようキャロル・・・ここに座ってもいいかなって?」
キャロルは上手にヘンリーの声真似をした。
「ええっ?!ほ、本当・・・?」
「そうなのよ。信じられないでしょう?」
この話を聞いて私は驚きを通り越して、呆れてしまった。確かヘンリーはキャロルに告白をして、別に好きな人がいるからと言って振られたと教えてくれた。それなのに?キャロルに話しかけて・・隣に座ろうとした?
キャロルとヘンリーが互いに好意を寄せていると勘違いしてしまった私も多少、どうかしているのかもしれないけれど、ヘンリーの思考は私の斜め上をいっているようだ。
「そ、それで・・・どうしたの?」
声を震わせながら尋ねてみた。
「勿論断ったに決まっているじゃない。私の隣は常にテアが座るのよって。そしたら・・。」
「そしたら?」
ゴクリと息を飲んで次のキャロルの言葉を待った。
「だったらテアに確認してくれないか?って言ってきたのよ?!2人の邪魔はしないから・・・どうか僕の事を邪険にしないで欲しいって。」
「えええっ?!うっ!ゴホッゴホッ!」
私は思わず大きな声を上げてしまい・・激しくむせる。周囲の人たちから視線を浴びてしまった。
「大丈夫?テア・・・落ち着いて?当然断ったに決まっているじゃない。」
キャロルは私の背中をさすりながら言う。
「そ、そうね・・・。あ、ありがとう・・。」
信じられない・・・ショックだった。まさか・・ヘンリーと私の思考がかぶってしまったなんて。やっぱり・・・10年も長く一緒にいると・・どこか似てしまうのだろうか?これは・・・非常にまずい。やはりヘンリーとは出来るだけ距離を開けなければ・・今に私はヘンリー色?に染まってしまうかもしれない・・などと考えているうちにニコルが教室に入ってきた。
「おはよう、テア、キャロル。」
「「おはよう、ニコル。」」
2人で声を揃えて挨拶する。
「隣・・座っていいかな?」
ニコルが笑みを浮かべながら私に尋ねてきた。
「ええ、もちろんよ。」
私が答えるとキャロルも言う。
「断るはずないでしょう?」
「そうか、良かった。」
「あ、待ってねニコル。今バッグをずらすから。」
座席に置いてあったバッグを自分の方に引き寄せるとニコルが尋ねてきた。
「あれ?何だい?テア。随分可愛らしいバッグを持っているね?」
手の平サイズのリネンで出来たミニバッグは男性の目から見ても可愛らしいようだ。
「ええ、可愛いでしょう?」
するとキャロルも覗き込んでくると歓声を上げた。
「まあ!本当・・可愛らしいバッグね。どうしたの?何か大切なものが入っているの?」
「ええ・・そうなの。」
「ふ~ん・・何が入っているか聞いてもいいかな?」
ニコルが興味津々の目で尋ねてきた。
「ええ、いいわよ。この中にはね・・・生卵が入っているの。」
「「生卵?」」
キャロルとニコルが同時に首を傾げ・・・次の説明で2人は大爆笑するのだった―。
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