50 / 77
50 ニコルの忠告
しおりを挟む
キーンコーンカーンコーン
1限目の経営学の授業が終わった。机の上の荷物を片付けながらキャロルが声を掛けてきた。
「良かったわ、テア。腕の怪我・・良くなったみたいで。」
「ええ、昨日はノート取ってくれてありがとう。そう言えば、キャロルの足の具合はどう?」
「私も大分良くなったわ。松葉杖もいらない程度になったし。まだちょっと歩くと痛いけど・・でも平気よ。」
「まあ、そうなの?それは良かったわ。」
その時、どこかから視線を感じたのでそちらを見るとじっとこちらを見つめているヘンリーがいた。けれど私と目が合うと、慌てて視線を逸らす。
「ヘンリー・・・。」
小声でつぶやくと、キャロルが尋ねてきた。
「どうしたの?テア。」
「あ・・ううん。ヘンリーがこっちを見ていたから・・。」
「ああ・・そうなのね。」
何故か興味なさげにキャロルが言う。昨日から何となくヘンリーに対するキャロルの態度が冷たい気がしたので私は尋ねてみる事にした。
「ねえ・・・キャロル。ヘンリーと何か・・・あった?」
「え?」
「何だか・・・ヘンリーに対する態度が初めて会った時と違う気がしたから・・・。」
「それは・・・。テアが・・。」
「え?私が・・何?」
キャロルは何か言いかけて、コホンと咳払いすると言った。
「そ、それはね、ヘンリーが・・・テアの腕を怪我させたからよ。だから言ったの。テアに優しく出来ないなら私には話しかけないでって。」
「え・・?キャロル・・そんな事言ったの?」
「ええ?・・ひょっとして・・駄目だったの?」
どこか悲し気な目でキャロルが私を見つめる。
「ううん、そんな事無いわ。キャロルのその気持ち・・とても嬉しいわ。でも・・・。」
「でも・・何?」
「ヘンリーの事は・・もういいのよ。私はヘンリーにふさわしくないから。だから・・もっと彼にふさわしい女性がお付き合いするべきなのよ。」
そう・・たとえば、キャロル。貴女みたいな・・・。
「ねえ・・・それは、許婚の話は無かったことにするって事?」
キャロルは食いつき気味に尋ねて来る。
「え、えっと・・・ヘンリーが承諾すれば・・そうなるわね・・・。でもきっと彼なら喜んで承諾するかもね。」
母もヘンリーの事を反対しているのだから、やっぱりこの辺が引き際なのかもしれない・・。
「まあ!大変っ!」
突然キャロルが声を上げた。
「な、何?」
「もう次の講義の人達が入ってきているわ。私達も早く次の教室へ移動しないと!」
「ええ、そうね。急ぎましょう。」
そして私はキャロルに肩を貸して教室を出ると・・・。
「あ・・・。」
何と教室の外にはヘンリーがいた。私は咄嗟にヘンリーから視線を外した。その様子を見たキャロルが代わりにヘンリーに尋ねた。
「ヘンリー・・こんなところで何をしていたの?」
「あ・・・俺は・・・。」
そして意味深な目で私を見る。ああ・・そうか、きっと私は邪魔なんだ。
「あの、私・・・先に教室へ行ってるから・・・。」
「え?テア?」
キャロルが驚いたように声を掛けてきたが、私は笑顔で言った。
「私の事なら気にしないで。それじゃあね。」
「あ、おい。テア!」
ヘンリーも私の名を呼ぶが、振り返らなかった。私はヘンリーとキャロルの仲を応援すると決めたのだから。ヘンリー。キャロルの事よろしくね・・・。少しの胸の痛みを抑えて私は次の教室へと急ぎ足で歩いていると、前方に見知った人物が歩いていた。
「ニコルッ!」
するとニコルが振り向いて笑顔で挨拶してくれた。
「やあ、テア。おはよう。あれ?キャロルは?」
並んで歩きながら私は答えた。
「キャロルならヘンリーと一緒よ。あの2人、お似合いだと思わない?」
「え?!」
すると何故かニコルが驚いたような顔を向けてきた。
「え?どうかしたの?」
「テア・・・ヘンリーとキャロルはお似合いだと思ってるの?」
「え?ええ・・・。だって、2人共お互いの事、想いあっているんじゃないの?私という人間がいるから、気持ちを伝え合えないと思うのよ。私・・ヘンリーから身を引こうと思っているの。これ以上ヘンリーに嫌われたくないし、キャロルは私にとって大切な親友だから。」
「・・・・。」
しかし、ニコルは難しい顔をして黙っている。そして口を開いた。
「テア・・・。2人の様子をもう一度・・よく観察してみたほうがいいと思うよ?」
「そ、そう・・・?分ったわ。」
「うん、そうした方がいい。ところでテアは次は何の授業なんだい?」
「次?次は貿易学よ。」
「そうか、それじゃ俺と一緒だね。よし、一緒に行こう。」
「ええ、そうね。」
そして私とニコルは一緒に次のクラスへ向かった―。
1限目の経営学の授業が終わった。机の上の荷物を片付けながらキャロルが声を掛けてきた。
「良かったわ、テア。腕の怪我・・良くなったみたいで。」
「ええ、昨日はノート取ってくれてありがとう。そう言えば、キャロルの足の具合はどう?」
「私も大分良くなったわ。松葉杖もいらない程度になったし。まだちょっと歩くと痛いけど・・でも平気よ。」
「まあ、そうなの?それは良かったわ。」
その時、どこかから視線を感じたのでそちらを見るとじっとこちらを見つめているヘンリーがいた。けれど私と目が合うと、慌てて視線を逸らす。
「ヘンリー・・・。」
小声でつぶやくと、キャロルが尋ねてきた。
「どうしたの?テア。」
「あ・・ううん。ヘンリーがこっちを見ていたから・・。」
「ああ・・そうなのね。」
何故か興味なさげにキャロルが言う。昨日から何となくヘンリーに対するキャロルの態度が冷たい気がしたので私は尋ねてみる事にした。
「ねえ・・・キャロル。ヘンリーと何か・・・あった?」
「え?」
「何だか・・・ヘンリーに対する態度が初めて会った時と違う気がしたから・・・。」
「それは・・・。テアが・・。」
「え?私が・・何?」
キャロルは何か言いかけて、コホンと咳払いすると言った。
「そ、それはね、ヘンリーが・・・テアの腕を怪我させたからよ。だから言ったの。テアに優しく出来ないなら私には話しかけないでって。」
「え・・?キャロル・・そんな事言ったの?」
「ええ?・・ひょっとして・・駄目だったの?」
どこか悲し気な目でキャロルが私を見つめる。
「ううん、そんな事無いわ。キャロルのその気持ち・・とても嬉しいわ。でも・・・。」
「でも・・何?」
「ヘンリーの事は・・もういいのよ。私はヘンリーにふさわしくないから。だから・・もっと彼にふさわしい女性がお付き合いするべきなのよ。」
そう・・たとえば、キャロル。貴女みたいな・・・。
「ねえ・・・それは、許婚の話は無かったことにするって事?」
キャロルは食いつき気味に尋ねて来る。
「え、えっと・・・ヘンリーが承諾すれば・・そうなるわね・・・。でもきっと彼なら喜んで承諾するかもね。」
母もヘンリーの事を反対しているのだから、やっぱりこの辺が引き際なのかもしれない・・。
「まあ!大変っ!」
突然キャロルが声を上げた。
「な、何?」
「もう次の講義の人達が入ってきているわ。私達も早く次の教室へ移動しないと!」
「ええ、そうね。急ぎましょう。」
そして私はキャロルに肩を貸して教室を出ると・・・。
「あ・・・。」
何と教室の外にはヘンリーがいた。私は咄嗟にヘンリーから視線を外した。その様子を見たキャロルが代わりにヘンリーに尋ねた。
「ヘンリー・・こんなところで何をしていたの?」
「あ・・・俺は・・・。」
そして意味深な目で私を見る。ああ・・そうか、きっと私は邪魔なんだ。
「あの、私・・・先に教室へ行ってるから・・・。」
「え?テア?」
キャロルが驚いたように声を掛けてきたが、私は笑顔で言った。
「私の事なら気にしないで。それじゃあね。」
「あ、おい。テア!」
ヘンリーも私の名を呼ぶが、振り返らなかった。私はヘンリーとキャロルの仲を応援すると決めたのだから。ヘンリー。キャロルの事よろしくね・・・。少しの胸の痛みを抑えて私は次の教室へと急ぎ足で歩いていると、前方に見知った人物が歩いていた。
「ニコルッ!」
するとニコルが振り向いて笑顔で挨拶してくれた。
「やあ、テア。おはよう。あれ?キャロルは?」
並んで歩きながら私は答えた。
「キャロルならヘンリーと一緒よ。あの2人、お似合いだと思わない?」
「え?!」
すると何故かニコルが驚いたような顔を向けてきた。
「え?どうかしたの?」
「テア・・・ヘンリーとキャロルはお似合いだと思ってるの?」
「え?ええ・・・。だって、2人共お互いの事、想いあっているんじゃないの?私という人間がいるから、気持ちを伝え合えないと思うのよ。私・・ヘンリーから身を引こうと思っているの。これ以上ヘンリーに嫌われたくないし、キャロルは私にとって大切な親友だから。」
「・・・・。」
しかし、ニコルは難しい顔をして黙っている。そして口を開いた。
「テア・・・。2人の様子をもう一度・・よく観察してみたほうがいいと思うよ?」
「そ、そう・・・?分ったわ。」
「うん、そうした方がいい。ところでテアは次は何の授業なんだい?」
「次?次は貿易学よ。」
「そうか、それじゃ俺と一緒だね。よし、一緒に行こう。」
「ええ、そうね。」
そして私とニコルは一緒に次のクラスへ向かった―。
39
お気に入りに追加
3,549
あなたにおすすめの小説
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
婚約者の側室に嫌がらせされたので逃げてみました。
アトラス
恋愛
公爵令嬢のリリア・カーテノイドは婚約者である王太子殿下が側室を持ったことを知らされる。側室となったガーネット子爵令嬢は殿下の寵愛を盾にリリアに度重なる嫌がらせをしていた。
いやになったリリアは王城からの逃亡を決意する。
だがその途端に、王太子殿下の態度が豹変して・・・
「いつわたしが婚約破棄すると言った?」
私に飽きたんじゃなかったんですか!?
……………………………
たくさんの方々に読んで頂き、大変嬉しく思っています。お気に入り、しおりありがとうございます。とても励みになっています。今後ともどうぞよろしくお願いします!
婚約破棄されなかった者たち
ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。
令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。
第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。
公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。
一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。
その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。
ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
私との婚約は政略ですか?恋人とどうぞ仲良くしてください
稲垣桜
恋愛
リンデン伯爵家はこの王国でも有数な貿易港を領地内に持つ、王家からの信頼も厚い家門で、その娘の私、エリザベスはコゼルス侯爵家の二男のルカ様との婚約が10歳の時に決まっていました。
王都で暮らすルカ様は私より4歳年上で、その時にはレイフォール学園の2年に在籍中。
そして『学園でルカには親密な令嬢がいる』と兄から聞かされた私。
学園に入学した私は仲良さそうな二人の姿を見て、自分との婚約は政略だったんだって。
私はサラサラの黒髪に海のような濃紺の瞳を持つルカ様に一目惚れをしたけれど、よく言っても中の上の容姿の私が婚約者に選ばれたことが不思議だったのよね。
でも、リンデン伯爵家の領地には交易港があるから、侯爵家の家業から考えて、領地内の港の使用料を抑える為の政略結婚だったのかな。
でも、実際にはルカ様にはルカ様の悩みがあるみたい……なんだけどね。
※ 誤字・脱字が多いと思います。ごめんなさい。
※ あくまでもフィクションです。
※ ゆるふわ設定のご都合主義です。
※ 実在の人物や団体とは一切関係はありません。
運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
アリシアの恋は終わったのです【完結】
ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。
その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。
そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。
反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。
案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。
ーーーーー
12話で完結します。
よろしくお願いします(´∀`)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる