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38 疑念
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ガラガラガラガラ・・・
揺れる馬車の中、私とヘンリーは向かい合わせで座っている。先程からヘンリーは一言も口を聞いてくれない。
「あの・・ヘンリー・・・?」
「うるさい、黙っていろ。俺は・・・今、背中の痛みに耐えるので必死なんだ。」
不愛想に返事をする。
「ねえ・・そんなに背中が痛むの?どうなっているか見てあげましょうか?」
ヘンリーの袖に触れようとすると、乱暴に振り払われてしまった。
「馬鹿、よせっ!触るなっ!うっ!」
言うと、ヘンリーは背中を丸くしてうずくまってしまった。
「うう・・ば、馬車の振動が・・・せ、背中に伝わって来る・・・。」
「大丈夫?もっとゆっくり走って貰うように御者の方に伝える?」
「うう・・うるさい・・静かにしていろ。」
ヘンリーはうずくまったまま黙ってしまった。
ここまで言われてしまえば・・・もう黙っているしかない。仕方がないので私は馬車から見える窓の外を眺める事にした。・・本当は母と何があったのかヘンリーに尋ねたかったのに、とてもではないが言い出せる雰囲気では無かったので私は諦めるしかなかった―。
****
約30分後―
馬車が大学に到着した。
「ヘンリー。大学に着いたわ。どう?1人で馬車から降りられそう?」
うずくまっているヘンリーに声を掛けていると、キイ~と馬車のドアが開く音が聞こえた。
「ヘンリー様。大丈夫ですか?」
馬車のドアを開けたのは御者の男性だった。
「あ・・・貴方は・・・。」
その男性は私がお世話になった御者の男性だった。
「おはようございます、お嬢様。」
彼はペコリと頭を下げるとヘンリーに声を掛けた。
「ヘンリー様。手を貸してください。降りるお手伝いをしますよ。」
しかしヘンリーは苦し気にしながらも、にべもなく断る。
「うるさい・・・御者の分際で・・俺に触るな。」
御者の男性はビクリとし・・項垂れて謝罪した。
「も、申し訳ございません・・・。」
「ヘンリー、いくら何でもそんな言い方は良くないわ。この人は・・。」
「うるさい・・大学には着いた。お、俺は・・お前の母親との約束は守ったんだ・・さっさと教室に行けよ。俺に・・構うな・・。」
ヘンリーはうずくまったままジロリと私を見た。
「ヘンリー・・・。」
しかし、こんなに痛がっているのに私は無視する事は出来なかった。
「ヘンリー、このままここで待っていてくれる?」
ヘンリーに声を掛けるも彼は返事をしない。でも返事をしないと言う事は肯定と受け取ろう。
「すみません。私が戻ってくるまでヘンリーを見ていて頂けますか?」
私は片腕で馬車を降りるとヘンリーには聞こえないように小声で御者の男性に声を掛けた。
「え?お嬢様?いったいどちらへ?」
「医務室の先生を呼んでくるから。」
そして私は急ぎ足で医務室へ向かった―。
****
「おはよう!テアッ!」
医務室へ向かって急ぎ足で歩いていると、背後から大きな声でテアの声が聞こえてきた。振り向くと右手に松葉杖をついたキャロルがそこに立っていた。傍には新しく出来た友人だろうか?見かけぬ女子学生が立っている。
「おはよう、キャロル。」
声を掛けて私はキャロルと見かけぬ女子学生の傍へ行った。
「あのね、テア。この人は私のルームメイトのダイアナよ。」
するとダイアナと呼ばれた女性が挨拶してきた。
「初めまして、ダイアナと言います。貴女がテアね?ずっとキャロルが貴女の事を話していたのよ?私にはとっても優しい友人がいるって。」
「初めまして、テアです。キャロルったら・・そんな事を話していたの?は、恥ずかしいわ・・。」
思わず顔が赤らむ。
「そう言えば、テア。そんな怪我をした腕で随分急いでいたようだけど・・何所へ行くつもりだったの?」
キャロルが尋ねてきた。
「ええ、実はね・・・今朝ヘンリーが迎えにきてくれたのだけど・・・ちょっとしたトラブルでエントランスの扉のとがった飾り部分に背中を打ち付けて怪我をして馬車で苦しんでるの。」
「まあ?!そうなの?」
「ええ、だから今から医務室の先生を呼びに行こうとしていた処なの。」
「それは心配ね・・・。でもテア、貴女腕を怪我しているのに・・・歩き回って大丈夫なの?」
キャロルが心配そうに尋ねて来る。
「ええ。大丈夫よ。貴女こそ・・・足の怪我は平気?」
「ええ、私は全く大丈夫よ。だけど・・テアが心配だわ・・・。あ、勿論ヘンリーの事も心配だけど・・。」
「大丈夫よ。それじゃ私、医務室に行くから・・・また後でね。」
私は手を振ってキャロルに背を向けた時、キャロルがポツリと言った言葉が聞こえてきた。
「・・・っておけばいいのに。」
え?
「キャロル?今・・・何か言った?」
キャロルの方を振り向くと尋ねた。すると彼女は笑みを浮かべて私を見る。
「何?どうかした?」
空耳だったのだろうか・・?
「ううん、何でもない。」
するとそれまで静かに私達の会話を聞いていたダイアナが言った。
「キャロル・・そろそろ私達も行かないと。」
「ええ、そうね。それじゃ、後でね。テア。」
「ええ、また後でね。」
そして私は再びキャロルに背を向けると、医務室へ向かった。
微かな疑念を抱きながら―。
揺れる馬車の中、私とヘンリーは向かい合わせで座っている。先程からヘンリーは一言も口を聞いてくれない。
「あの・・ヘンリー・・・?」
「うるさい、黙っていろ。俺は・・・今、背中の痛みに耐えるので必死なんだ。」
不愛想に返事をする。
「ねえ・・そんなに背中が痛むの?どうなっているか見てあげましょうか?」
ヘンリーの袖に触れようとすると、乱暴に振り払われてしまった。
「馬鹿、よせっ!触るなっ!うっ!」
言うと、ヘンリーは背中を丸くしてうずくまってしまった。
「うう・・ば、馬車の振動が・・・せ、背中に伝わって来る・・・。」
「大丈夫?もっとゆっくり走って貰うように御者の方に伝える?」
「うう・・うるさい・・静かにしていろ。」
ヘンリーはうずくまったまま黙ってしまった。
ここまで言われてしまえば・・・もう黙っているしかない。仕方がないので私は馬車から見える窓の外を眺める事にした。・・本当は母と何があったのかヘンリーに尋ねたかったのに、とてもではないが言い出せる雰囲気では無かったので私は諦めるしかなかった―。
****
約30分後―
馬車が大学に到着した。
「ヘンリー。大学に着いたわ。どう?1人で馬車から降りられそう?」
うずくまっているヘンリーに声を掛けていると、キイ~と馬車のドアが開く音が聞こえた。
「ヘンリー様。大丈夫ですか?」
馬車のドアを開けたのは御者の男性だった。
「あ・・・貴方は・・・。」
その男性は私がお世話になった御者の男性だった。
「おはようございます、お嬢様。」
彼はペコリと頭を下げるとヘンリーに声を掛けた。
「ヘンリー様。手を貸してください。降りるお手伝いをしますよ。」
しかしヘンリーは苦し気にしながらも、にべもなく断る。
「うるさい・・・御者の分際で・・俺に触るな。」
御者の男性はビクリとし・・項垂れて謝罪した。
「も、申し訳ございません・・・。」
「ヘンリー、いくら何でもそんな言い方は良くないわ。この人は・・。」
「うるさい・・大学には着いた。お、俺は・・お前の母親との約束は守ったんだ・・さっさと教室に行けよ。俺に・・構うな・・。」
ヘンリーはうずくまったままジロリと私を見た。
「ヘンリー・・・。」
しかし、こんなに痛がっているのに私は無視する事は出来なかった。
「ヘンリー、このままここで待っていてくれる?」
ヘンリーに声を掛けるも彼は返事をしない。でも返事をしないと言う事は肯定と受け取ろう。
「すみません。私が戻ってくるまでヘンリーを見ていて頂けますか?」
私は片腕で馬車を降りるとヘンリーには聞こえないように小声で御者の男性に声を掛けた。
「え?お嬢様?いったいどちらへ?」
「医務室の先生を呼んでくるから。」
そして私は急ぎ足で医務室へ向かった―。
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「おはよう!テアッ!」
医務室へ向かって急ぎ足で歩いていると、背後から大きな声でテアの声が聞こえてきた。振り向くと右手に松葉杖をついたキャロルがそこに立っていた。傍には新しく出来た友人だろうか?見かけぬ女子学生が立っている。
「おはよう、キャロル。」
声を掛けて私はキャロルと見かけぬ女子学生の傍へ行った。
「あのね、テア。この人は私のルームメイトのダイアナよ。」
するとダイアナと呼ばれた女性が挨拶してきた。
「初めまして、ダイアナと言います。貴女がテアね?ずっとキャロルが貴女の事を話していたのよ?私にはとっても優しい友人がいるって。」
「初めまして、テアです。キャロルったら・・そんな事を話していたの?は、恥ずかしいわ・・。」
思わず顔が赤らむ。
「そう言えば、テア。そんな怪我をした腕で随分急いでいたようだけど・・何所へ行くつもりだったの?」
キャロルが尋ねてきた。
「ええ、実はね・・・今朝ヘンリーが迎えにきてくれたのだけど・・・ちょっとしたトラブルでエントランスの扉のとがった飾り部分に背中を打ち付けて怪我をして馬車で苦しんでるの。」
「まあ?!そうなの?」
「ええ、だから今から医務室の先生を呼びに行こうとしていた処なの。」
「それは心配ね・・・。でもテア、貴女腕を怪我しているのに・・・歩き回って大丈夫なの?」
キャロルが心配そうに尋ねて来る。
「ええ。大丈夫よ。貴女こそ・・・足の怪我は平気?」
「ええ、私は全く大丈夫よ。だけど・・テアが心配だわ・・・。あ、勿論ヘンリーの事も心配だけど・・。」
「大丈夫よ。それじゃ私、医務室に行くから・・・また後でね。」
私は手を振ってキャロルに背を向けた時、キャロルがポツリと言った言葉が聞こえてきた。
「・・・っておけばいいのに。」
え?
「キャロル?今・・・何か言った?」
キャロルの方を振り向くと尋ねた。すると彼女は笑みを浮かべて私を見る。
「何?どうかした?」
空耳だったのだろうか・・?
「ううん、何でもない。」
するとそれまで静かに私達の会話を聞いていたダイアナが言った。
「キャロル・・そろそろ私達も行かないと。」
「ええ、そうね。それじゃ、後でね。テア。」
「ええ、また後でね。」
そして私は再びキャロルに背を向けると、医務室へ向かった。
微かな疑念を抱きながら―。
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