上 下
31 / 77

31 キャロルとの電話

しおりを挟む
 母はほんの少しの間、私を凝視していたけれどもすぐに電話口に向かって話し出した。

「キャロル、テアが来たわ。今電話変わるわね?」

そして受話器から耳を外し、通話口を押さえながら母が私を呼んだ。

「何してるの?テア。キャロルが待ってるわよ。早くいらっしゃい。」

「は、はい・・・。」

母への違和感をぬぐえないまま、ドアを開けて受話器を持って待っている母の傍へ行った。

「テア。」

「は、はい!」

先ほどのキャロルとの会話で耳に飛び込んできた話が気になって、思わず返事をする声が上ずってしまった。

「どうしたの・・?おかしな子ね?はい、電話よ。その手で持てるかしら?」

母は受話器を差し出しながら、三角巾でつられている私の右腕を見た。

「え、ええ。大丈夫。いつも受話器は左手で持って話していたから。」

平静を装って返事をした。

「そう言えばそうだったわね?それじゃ電話変わるから・・・じっくりキャロルとお話しなさい。」

「え、ええ・・・分かったわ・・・。」

受話器を受け取りながら返事をする。だけど・・・じっくり?じっくりって・・何?そこは普通、ゆっくりと言うべきなのでは?

母は笑みを浮かべると、部屋を去って行った。私は一度深呼吸すると電話に出た。

「もしもし・・・・。」

『あ?テアッ?!こんばんは。』

キャロルの明るい元気な声が通話口から聞こえてくる。その声が私をほっとさせた。

「こんばんは、キャロル。何か・・あったの?」

『ううん、別に何もないわ。ただ・・テアの声が聞きたくなっちゃったの。』

「そうなの?そう言って貰えると嬉しいわ・・。あ、そうだ。私、キャロルにどうしてもお礼を言いたかったのよ。」

『お礼・・?何かお礼を言われるようなこと・・・あったかしら?』

キャロルは覚えていないのだろうか・・・?

「ほら、キャロルがヘンリーに少しだけ席を外して貰うように誘導してくれて、そのすきにフリーダとレオナに私を探して馬車に乗せてあげて欲しいと頼んでくれたのでしょう?」

『あ・・ああ、その件ね?それ位どうって事無いわよ。ヘンリーの前で聞かれたらまずい話かと思って・・。彼って何故かテアの話になると敏感になるから・・。』

彼・・。キャロルの口からヘンリーの事を『彼』と呼ぶのを聞くと、まだ胸がズキリと痛む。私が一瞬黙ってしまったのを心配したのか、キャロルの声が聞こえてきた。

『ねえ、テア・・・まだ手首が痛むの?大丈夫?』

「ええ、医務室の先生のちょっと大袈裟すぎる処置が良かったのね?普通にしている分には痛みは無いから。」

『何言ってるのテア?大袈裟すぎるなんて事は全く無いわ。それでテア・・おばさまにはどうして手首の怪我をしたのか理由は話さなかったの?』

「ええ・・話せなかったわ。だって・・・お母さんに話せば・・すぐにヘンリーの耳に入ってしまうでしょう?私・・ヘンリーに嫌われたくないの・・。」

するとキャロルがポツリと言った。

『テア・・貴女、まだ・・・。』

「え?まだって?」

『いいえ、何でもないわ。まだヘンリーに怪我の事は言うつもりは無いのかしらって思っただけよ。』

「ええ・・・私からは言わないわ。それに医務室の先生にも、私に付き添ってくれたニコルにも口留めしたから・・・。」

すると、突然キャロルの口調が変わった。

『あ、彼ね?テアを何かと気にかけてくれた・・そう。彼はニコルというの?テアから見て・・どう思った?』

「どうって・・?」

キャロルは何が言いたいのだろう?

『例えば・・感じがいい人だな~とか・・優しい人だな~とか・・。』

「そうね、とても親切で優しい人だと思ったわ。」

私は思ったことを素直に伝えた。

『そう・・・それは・・本当に良かったわ・・。』

キャロルの口調はどこか安堵しているように聞こえた。その時、ふと思った。今なら・・母との会話で耳に入った内容を聞いても大丈夫だろうか・・・?

「ねえ、キャロル。」

『何?』

「さっき・・お母さんと何話していたの?」

『何って・・・世間話よ?学校であった出来事をお話ししてたの。』

「そうなの・・?実は・・さっき偶然聞こえてしまったんだけど・・・。」

私はごくりと息を飲んだ。

『なあに?』

「これからも・・あの事・・宜しく頼むわね?って・・・どういう意味なの・・?」

ついに私はキャロルに尋ねてしまった―。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「わかれよう」そうおっしゃったのはあなたの方だったのに。

友坂 悠
恋愛
侯爵夫人のマリエルは、夫のジュリウスから一年後の離縁を提案される。 あと一年白い結婚を続ければ、世間体を気にせず離婚できるから、と。 ジュリウスにとっては亡き父が進めた政略結婚、侯爵位を継いだ今、それを解消したいと思っていたのだった。 「君にだってきっと本当に好きな人が現れるさ。私は元々こうした政略婚は嫌いだったんだ。父に逆らうことができず君を娶ってしまったことは本当に後悔している。だからさ、一年後には離婚をして、第二の人生をちゃんと歩んでいくべきだと思うんだよ。お互いにね」 「わかりました……」 「私は君を解放してあげたいんだ。君が幸せになるために」 そうおっしゃるジュリウスに、逆らうこともできず受け入れるマリエルだったけれど……。 勘違い、すれ違いな夫婦の恋。 前半はヒロイン、中盤はヒーロー視点でお贈りします。 四万字ほどの中編。お楽しみいただけたらうれしいです。

今さら後悔しても知りません 婚約者は浮気相手に夢中なようなので消えてさしあげます

神崎 ルナ
恋愛
旧題:長年の婚約者は政略結婚の私より、恋愛結婚をしたい相手がいるようなので、消えてあげようと思います。 【奨励賞頂きましたっ( ゚Д゚) ありがとうございます(人''▽`)】 コッペリア・マドルーク公爵令嬢は、王太子アレンの婚約者として良好な関係を維持してきたと思っていた。  だが、ある時アレンとマリアの会話を聞いてしまう。 「あんな堅苦しい女性は苦手だ。もし許されるのであれば、君を王太子妃にしたかった」  マリア・ダグラス男爵令嬢は下級貴族であり、王太子と婚約などできるはずもない。 (そう。そんなに彼女が良かったの)  長年に渡る王太子妃教育を耐えてきた彼女がそう決意を固めるのも早かった。  何故なら、彼らは将来自分達の子を王に据え、更にはコッペリアに公務を押し付け、自分達だけ遊び惚けていようとしているようだったから。 (私は都合のいい道具なの?)  絶望したコッペリアは毒薬を入手しようと、お忍びでとある店を探す。  侍女達が話していたのはここだろうか?  店に入ると老婆が迎えてくれ、コッペリアに何が入用か、と尋ねてきた。  コッペリアが正直に全て話すと、 「今のあんたにぴったりの物がある」  渡されたのは、小瓶に入った液状の薬。 「体を休める薬だよ。ん? 毒じゃないのかって? まあ、似たようなものだね。これを飲んだらあんたは眠る。ただし」  そこで老婆は言葉を切った。 「目覚めるには条件がある。それを満たすのは並大抵のことじゃ出来ないよ。下手をすれば永遠に眠ることになる。それでもいいのかい?」  コッペリアは深く頷いた。  薬を飲んだコッペリアは眠りについた。  そして――。  アレン王子と向かい合うコッペリア(?)がいた。 「は? 書類の整理を手伝え? お断り致しますわ」 ※お読み頂きありがとうございます(人''▽`) hotランキング、全ての小説、恋愛小説ランキングにて1位をいただきました( ゚Д゚)  (2023.2.3)  ありがとうございますっm(__)m ジャンピング土下座×1000000 ※お読みくださり有難うございました(人''▽`) 完結しました(^▽^)

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

「私も新婚旅行に一緒に行きたい」彼を溺愛する幼馴染がお願いしてきた。彼は喜ぶが二人は喧嘩になり別れを選択する。

window
恋愛
イリス公爵令嬢とハリー王子は、お互いに惹かれ合い相思相愛になる。 「私と結婚していただけますか?」とハリーはプロポーズし、イリスはそれを受け入れた。 関係者を招待した結婚披露パーティーが開かれて、会場でエレナというハリーの幼馴染の子爵令嬢と出会う。 「新婚旅行に私も一緒に行きたい」エレナは結婚した二人の間に図々しく踏み込んでくる。エレナの厚かましいお願いに、イリスは怒るより驚き呆れていた。 「僕は構わないよ。エレナも一緒に行こう」ハリーは信じられないことを言い出す。エレナが同行することに乗り気になり、花嫁のイリスの面目をつぶし感情を傷つける。 とんでもない男と結婚したことが分かったイリスは、言葉を失うほかなく立ち尽くしていた。

アリシアの恋は終わったのです。

ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。 その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。 そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。 反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。 案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。 ーーーーー 12話で完結します。 よろしくお願いします(´∀`)

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

【完】愛していますよ。だから幸せになってくださいね!

さこの
恋愛
「僕の事愛してる?」 「はい、愛しています」 「ごめん。僕は……婚約が決まりそうなんだ、何度も何度も説得しようと試みたけれど、本当にごめん」 「はい。その件はお聞きしました。どうかお幸せになってください」 「え……?」 「さようなら、どうかお元気で」  愛しているから身を引きます。 *全22話【執筆済み】です( .ˬ.)" ホットランキング入りありがとうございます 2021/09/12 ※頂いた感想欄にはネタバレが含まれていますので、ご覧の際にはお気をつけください! 2021/09/20  

決めたのはあなたでしょう?

みおな
恋愛
 ずっと好きだった人がいた。 だけど、その人は私の気持ちに応えてくれなかった。  どれだけ求めても手に入らないなら、とやっと全てを捨てる決心がつきました。  なのに、今さら好きなのは私だと? 捨てたのはあなたでしょう。

処理中です...