23 / 77
23 怪我の痛みと心の痛み
しおりを挟む
「テア、さっきはごめんなさいね。貴女が席を取ってくれたのに私達だけが座ってしまって・・。」
教室に入り、椅子に座った途端キャロルが声を掛けてきた。
「いいのよ、キャロル。だって貴女足首を怪我しているじゃない。当然の事をしたまでよ。」
ヘンリーが私とキャロルの会話を聞いているからなるべく彼の機嫌を損ねないように気を付けて話をしないと・・。
「そうだよ、キャロル。テアは親友の為に当然の事をしたまで何だから別に謝る必要は無いさ?そうだろう、テア。」
その顔は笑顔だったけども、何処か有無を言わさない強さがあった。
「ええ、そうよ。キャロル。」
「だけど、テア。貴女だって手首を怪我してるじゃない。」
キャロルが手首の怪我の事をヘンリーの前で言ってしまった!
「え?怪我?そんなものしていたか?」
ヘンリーは私が先ほどトレーを落とした事や、手首を強く掴まれて痛がっていた様子を手首の怪我と結びつけることが出来ないのだろうか?
「え、ええ・・。ちょっと・・ほんの少しだけよ・・。」
するとキャロルが言った。
「テア・・・顔色が悪いわ。ひょっとして痛むんじゃないの?」
そしてキャロルがそっと私の右手首に触れた時に、まるで痺れたような痛みが走った。
「い、痛っ!」
「ご、ごめんなさいっ!テアッ!」
キャロルが慌てて手を引っ込めた。
「おい!テアッ!大袈裟に痛がるフリなんかするなよっ!キャロルに謝れっ!」
どうしてこの状況になってもヘンリーは私が痛がるフリをしていると思えるのだろう?痛みと傷ついた心で思わず眼尻に涙が浮かんだ。
「ヘンリーッ!やめてっ!テアを傷つけるような言い方はしないでっ!」
突如キャロルが大きな声でヘンリーに言った。その声はあまりに大きく、周囲に座っていた学生たちがギョッとした顔でこちらを一斉に向くほどだった。
キャロルはヘンリーを睨み付けている。
「あ・・・ごめん、キャロル。テアの態度があまりにも酷かったら・・。頼むからそんなに怒らないでくれないか?」
ヘンリーはオロオロしながらキャロルに謝っている。一方の私は彼の言葉に衝撃を受けてしまった。酷い?今の私の態度は・・そんなに酷い態度だったのだろうか?それならヘンリーが私に対する態度はどうなのだろう?
「謝るなら・・私にではなく、テアに謝って。」
キャロルは毅然とした態度で言う。するとヘンリーは私の方を向き直ると言った。
「あ・・そ、その・・きつい言い方して悪かったよ。ん・・・?テア?お前、真っ青だぞ?まさか・・本当に痛いのか・・・?」
「だ、大丈夫・・医務室に行って来るから・・。」
私は何とか返事をした。
「ええ、そうね。テア・・・。私の足がこんなんじゃなかったら・・ついて行ってあげたのに・・。そうだわ、ヘンリー。貴方がテアについて行ってあげてよ。」
キャロルは私の為を思って言ってくれたのだろうが・・それは絶対にヘンリーに言ってはいけない言葉だった。
「ええっ?!お、俺が何でっ?!大体怪我しているのは腕なんだから付き添う必要は無いだろう?そうだよな?テア。」
ヘンリーは同意を求めるように私の方を向いて言った。
だけど・・安心して、ヘンリー。私は貴方に付き添いはお願いしないから。
「ええ・・そうよ。大丈夫、キャロルと違って足じゃないから。」
私は嘘をついた。本当は歩くたびに振動で右手首が痛む。出来れば誰かに付き添って貰いたいくらいだったけれども、絶対にヘンリーには頼れない。だってこれ以上私は我儘を言って・・・ヘンリーに憎まれたくは無かったから。
「だけど・・・。」
尚も心配そうに言うキャロル。・・やっぱりキャロルは優しい女性だ。
「大丈夫。1人で行けるから・・・。」
そして私は痛む手首を押さえて立ち上がると、言った。
「オリエンテーリングの話・・後で聞かせてくれる?」
「ええ。勿論よ。テア。」
キャロルは返事をしてくれたが・・ヘンリーはこちらを見ようともしなかった。
「それじゃ・・行ってくるわ。」
私は1人、教室を出た。廊下を歩いている学生はもう1人もいなかった。精神的にも肉体的にも辛いことが多すぎて・・・手首の痛みもさることながら、胸もズキズキ痛んで苦しかった。
そして私は痛みを堪えて、医務室へと向かった。
誰かが背後から近付いて来る事も気付かずに―。
教室に入り、椅子に座った途端キャロルが声を掛けてきた。
「いいのよ、キャロル。だって貴女足首を怪我しているじゃない。当然の事をしたまでよ。」
ヘンリーが私とキャロルの会話を聞いているからなるべく彼の機嫌を損ねないように気を付けて話をしないと・・。
「そうだよ、キャロル。テアは親友の為に当然の事をしたまで何だから別に謝る必要は無いさ?そうだろう、テア。」
その顔は笑顔だったけども、何処か有無を言わさない強さがあった。
「ええ、そうよ。キャロル。」
「だけど、テア。貴女だって手首を怪我してるじゃない。」
キャロルが手首の怪我の事をヘンリーの前で言ってしまった!
「え?怪我?そんなものしていたか?」
ヘンリーは私が先ほどトレーを落とした事や、手首を強く掴まれて痛がっていた様子を手首の怪我と結びつけることが出来ないのだろうか?
「え、ええ・・。ちょっと・・ほんの少しだけよ・・。」
するとキャロルが言った。
「テア・・・顔色が悪いわ。ひょっとして痛むんじゃないの?」
そしてキャロルがそっと私の右手首に触れた時に、まるで痺れたような痛みが走った。
「い、痛っ!」
「ご、ごめんなさいっ!テアッ!」
キャロルが慌てて手を引っ込めた。
「おい!テアッ!大袈裟に痛がるフリなんかするなよっ!キャロルに謝れっ!」
どうしてこの状況になってもヘンリーは私が痛がるフリをしていると思えるのだろう?痛みと傷ついた心で思わず眼尻に涙が浮かんだ。
「ヘンリーッ!やめてっ!テアを傷つけるような言い方はしないでっ!」
突如キャロルが大きな声でヘンリーに言った。その声はあまりに大きく、周囲に座っていた学生たちがギョッとした顔でこちらを一斉に向くほどだった。
キャロルはヘンリーを睨み付けている。
「あ・・・ごめん、キャロル。テアの態度があまりにも酷かったら・・。頼むからそんなに怒らないでくれないか?」
ヘンリーはオロオロしながらキャロルに謝っている。一方の私は彼の言葉に衝撃を受けてしまった。酷い?今の私の態度は・・そんなに酷い態度だったのだろうか?それならヘンリーが私に対する態度はどうなのだろう?
「謝るなら・・私にではなく、テアに謝って。」
キャロルは毅然とした態度で言う。するとヘンリーは私の方を向き直ると言った。
「あ・・そ、その・・きつい言い方して悪かったよ。ん・・・?テア?お前、真っ青だぞ?まさか・・本当に痛いのか・・・?」
「だ、大丈夫・・医務室に行って来るから・・。」
私は何とか返事をした。
「ええ、そうね。テア・・・。私の足がこんなんじゃなかったら・・ついて行ってあげたのに・・。そうだわ、ヘンリー。貴方がテアについて行ってあげてよ。」
キャロルは私の為を思って言ってくれたのだろうが・・それは絶対にヘンリーに言ってはいけない言葉だった。
「ええっ?!お、俺が何でっ?!大体怪我しているのは腕なんだから付き添う必要は無いだろう?そうだよな?テア。」
ヘンリーは同意を求めるように私の方を向いて言った。
だけど・・安心して、ヘンリー。私は貴方に付き添いはお願いしないから。
「ええ・・そうよ。大丈夫、キャロルと違って足じゃないから。」
私は嘘をついた。本当は歩くたびに振動で右手首が痛む。出来れば誰かに付き添って貰いたいくらいだったけれども、絶対にヘンリーには頼れない。だってこれ以上私は我儘を言って・・・ヘンリーに憎まれたくは無かったから。
「だけど・・・。」
尚も心配そうに言うキャロル。・・やっぱりキャロルは優しい女性だ。
「大丈夫。1人で行けるから・・・。」
そして私は痛む手首を押さえて立ち上がると、言った。
「オリエンテーリングの話・・後で聞かせてくれる?」
「ええ。勿論よ。テア。」
キャロルは返事をしてくれたが・・ヘンリーはこちらを見ようともしなかった。
「それじゃ・・行ってくるわ。」
私は1人、教室を出た。廊下を歩いている学生はもう1人もいなかった。精神的にも肉体的にも辛いことが多すぎて・・・手首の痛みもさることながら、胸もズキズキ痛んで苦しかった。
そして私は痛みを堪えて、医務室へと向かった。
誰かが背後から近付いて来る事も気付かずに―。
46
お気に入りに追加
3,581
あなたにおすすめの小説
「わかれよう」そうおっしゃったのはあなたの方だったのに。
友坂 悠
恋愛
侯爵夫人のマリエルは、夫のジュリウスから一年後の離縁を提案される。
あと一年白い結婚を続ければ、世間体を気にせず離婚できるから、と。
ジュリウスにとっては亡き父が進めた政略結婚、侯爵位を継いだ今、それを解消したいと思っていたのだった。
「君にだってきっと本当に好きな人が現れるさ。私は元々こうした政略婚は嫌いだったんだ。父に逆らうことができず君を娶ってしまったことは本当に後悔している。だからさ、一年後には離婚をして、第二の人生をちゃんと歩んでいくべきだと思うんだよ。お互いにね」
「わかりました……」
「私は君を解放してあげたいんだ。君が幸せになるために」
そうおっしゃるジュリウスに、逆らうこともできず受け入れるマリエルだったけれど……。
勘違い、すれ違いな夫婦の恋。
前半はヒロイン、中盤はヒーロー視点でお贈りします。
四万字ほどの中編。お楽しみいただけたらうれしいです。
出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
古代魔法を専門とする魔法研究者のアンヌッカは、家族と研究所を守るために軍人のライオネルと結婚をする。
ライオネルもまた昇進のために結婚をしなければならず、国王からの命令ということもあり結婚を渋々と引き受ける。
しかし、愛のない結婚をした二人は結婚式当日すら顔を合わせることなく、そのまま離れて暮らすこととなった。
ある日、アンヌッカの父が所長を務める魔法研究所に軍から古代文字で書かれた魔導書の解読依頼が届く。
それは禁帯本で持ち出し不可のため、軍施設に研究者を派遣してほしいという依頼だ。
この依頼に対応できるのは研究所のなかでもアンヌッカしかいない。
しかし軍人の妻が軍に派遣されて働くというのは体裁が悪いし何よりも会ったことのない夫が反対するかもしれない。
そう思ったアンヌッカたちは、アンヌッカを親戚の娘のカタリーナとして軍に送り込んだ――。
素性を隠したまま働く妻に、知らぬ間に惹かれていく(恋愛にはぽんこつ)夫とのラブコメディ。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす
リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」
夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。
後に夫から聞かされた衝撃の事実。
アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。
※シリアスです。
※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。
運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング
婚約者の側室に嫌がらせされたので逃げてみました。
アトラス
恋愛
公爵令嬢のリリア・カーテノイドは婚約者である王太子殿下が側室を持ったことを知らされる。側室となったガーネット子爵令嬢は殿下の寵愛を盾にリリアに度重なる嫌がらせをしていた。
いやになったリリアは王城からの逃亡を決意する。
だがその途端に、王太子殿下の態度が豹変して・・・
「いつわたしが婚約破棄すると言った?」
私に飽きたんじゃなかったんですか!?
……………………………
たくさんの方々に読んで頂き、大変嬉しく思っています。お気に入り、しおりありがとうございます。とても励みになっています。今後ともどうぞよろしくお願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる