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21 気遣い
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ロールパンを食べていると彼がテーブル席に戻ってきた。
「お待たせ。」
そして私の前にマグカップを置くと、再び向かい側の椅子に座った。そこには美味しそうな具沢山のスープが注がれている。
「あの、こちらの料理も食べられるのですか?」
「ああ、食べるよ。ただし、君がね?」
彼は言った。
「え?あの・・・?」
「冷めちゃうから温かいうちに食べた方がいいよ?それだけじゃ栄養が足りないよ。」
その声は優しかった。
「あ、あの・・・でしたらお金を・・・。」
慌てて財布を出そうとしたら止められた。
「お金なんかいらないよ。君が美味しそうな顔で食べてくれればそれでいい。」
「あ・・・。」
どうしよう。優しい言葉が嬉しくて涙が出そうになってしまった。最近ヘンリーの当たりが強くて、辛い事が多くて、落ち込む日々が続いていたから・・・。
「ありがとうございます。」
私は何とか笑みを浮かべて、スープをスプーンで口に運んだ。クリームスープに甘みのあるお野菜が、とても美味い。
「とても美味しいです・・・本当にありがとうございます。」
「・・・別にいいよ。それくらい。」
彼は優しい目でこちらを見ると言った。
「ところで・・・あのテーブルに座っているのは君の知り合いなんだろう?」
彼の向いた方向にはヘンリーとキャロルがいる。2人は楽し気に話をしながらパスタを食べていた。
「は、はい。そうです・・・。」
「さっきまで一緒にいたよね?だけど・・・君の分だけ座る席が無かったんだろう?一体、あの2人とはどういう関係なんだい?」
やっぱり見られていたんだ・・。恥ずかしくなり、思わず顔が赤面してしまった。
「俺の目には・・どう見ても君だけのけ者にされているように見えたんだけど?」
彼はじっと私の目を見つめて話しかけてくる。彼になら・・・事情を話してもいいかもしれない。だって・・私の事を心配してくれているみたいだから。
「男性は私の許嫁です、女性は私の幼馴染みで・・・親友です。」
「何だって・・・?」
彼の顔色が変わる。一体どんな風に思われてしまっただろう?自分の親友を許嫁に預ける変わり者な女だと思われてしまっただろうか?彼には・・・軽蔑されたくは無かった。
「あ、あの。これには訳が・・・。」
訳?一体どんな訳が?
自分で言いかけて、思った。私に魅力が無いから許嫁は私に嫌気がさして、代わりに私の親友を好きになってしまったので身を引こうと思っています・・。などと言えるはずは無かった。
「君は・・・自分の許嫁が他の女性に心を奪われてもいいのかい?」
「そ、それは・・・。」
「彼のあの目は・・・恋する目だよ。彼は完全に彼女に恋をしている。」
「はい・・分かっています。」
「君はそれをどう思うんだい?」
彼は何故か食い下がって質問して来る。
「私は・・彼の事も、親友の事も大好きなので・・2人が本当にお互いの事を好き合って・・将来結ばれたいと考えているなら・・身を引こうと思っています。だって私は・・あの2人に嫌われたくはないから・・。」
最後の方は消え入りそうな声になってしまった。
「そうか・・。ごめん・・。嫌な事を聞いてしまったね・・。だけど・・。ひょっとして君は自分を責めているんじゃないのかい?」
「え・・?ど、どうして分ったのですか・・?」
「君のその自信なさげな姿でそう感じたんだよ。恐らく君にそんな思いを抱かせたのは・・彼のせいなんだろうね・・?」
「い、いえ。本当にそんな事は・・。」
すると彼は言った。
「もうそろそろお昼休みが終わるから早めに食べたほうがいいよ。」
彼は立ち上がると言った。
「あ、お世話になりました。」
慌てて立ち上がり、頭を下げた。
「別に気にする事は無いよ。それじゃあね。」
そして彼はヒラヒラと手を振ると背を向け、去って行った。私は彼の姿が見えなくなるまで見守っていた。
その私の姿を憎悪のこもった眼でヘンリーが見ていることには気付かないまま―。
「お待たせ。」
そして私の前にマグカップを置くと、再び向かい側の椅子に座った。そこには美味しそうな具沢山のスープが注がれている。
「あの、こちらの料理も食べられるのですか?」
「ああ、食べるよ。ただし、君がね?」
彼は言った。
「え?あの・・・?」
「冷めちゃうから温かいうちに食べた方がいいよ?それだけじゃ栄養が足りないよ。」
その声は優しかった。
「あ、あの・・・でしたらお金を・・・。」
慌てて財布を出そうとしたら止められた。
「お金なんかいらないよ。君が美味しそうな顔で食べてくれればそれでいい。」
「あ・・・。」
どうしよう。優しい言葉が嬉しくて涙が出そうになってしまった。最近ヘンリーの当たりが強くて、辛い事が多くて、落ち込む日々が続いていたから・・・。
「ありがとうございます。」
私は何とか笑みを浮かべて、スープをスプーンで口に運んだ。クリームスープに甘みのあるお野菜が、とても美味い。
「とても美味しいです・・・本当にありがとうございます。」
「・・・別にいいよ。それくらい。」
彼は優しい目でこちらを見ると言った。
「ところで・・・あのテーブルに座っているのは君の知り合いなんだろう?」
彼の向いた方向にはヘンリーとキャロルがいる。2人は楽し気に話をしながらパスタを食べていた。
「は、はい。そうです・・・。」
「さっきまで一緒にいたよね?だけど・・・君の分だけ座る席が無かったんだろう?一体、あの2人とはどういう関係なんだい?」
やっぱり見られていたんだ・・。恥ずかしくなり、思わず顔が赤面してしまった。
「俺の目には・・どう見ても君だけのけ者にされているように見えたんだけど?」
彼はじっと私の目を見つめて話しかけてくる。彼になら・・・事情を話してもいいかもしれない。だって・・私の事を心配してくれているみたいだから。
「男性は私の許嫁です、女性は私の幼馴染みで・・・親友です。」
「何だって・・・?」
彼の顔色が変わる。一体どんな風に思われてしまっただろう?自分の親友を許嫁に預ける変わり者な女だと思われてしまっただろうか?彼には・・・軽蔑されたくは無かった。
「あ、あの。これには訳が・・・。」
訳?一体どんな訳が?
自分で言いかけて、思った。私に魅力が無いから許嫁は私に嫌気がさして、代わりに私の親友を好きになってしまったので身を引こうと思っています・・。などと言えるはずは無かった。
「君は・・・自分の許嫁が他の女性に心を奪われてもいいのかい?」
「そ、それは・・・。」
「彼のあの目は・・・恋する目だよ。彼は完全に彼女に恋をしている。」
「はい・・分かっています。」
「君はそれをどう思うんだい?」
彼は何故か食い下がって質問して来る。
「私は・・彼の事も、親友の事も大好きなので・・2人が本当にお互いの事を好き合って・・将来結ばれたいと考えているなら・・身を引こうと思っています。だって私は・・あの2人に嫌われたくはないから・・。」
最後の方は消え入りそうな声になってしまった。
「そうか・・。ごめん・・。嫌な事を聞いてしまったね・・。だけど・・。ひょっとして君は自分を責めているんじゃないのかい?」
「え・・?ど、どうして分ったのですか・・?」
「君のその自信なさげな姿でそう感じたんだよ。恐らく君にそんな思いを抱かせたのは・・彼のせいなんだろうね・・?」
「い、いえ。本当にそんな事は・・。」
すると彼は言った。
「もうそろそろお昼休みが終わるから早めに食べたほうがいいよ。」
彼は立ち上がると言った。
「あ、お世話になりました。」
慌てて立ち上がり、頭を下げた。
「別に気にする事は無いよ。それじゃあね。」
そして彼はヒラヒラと手を振ると背を向け、去って行った。私は彼の姿が見えなくなるまで見守っていた。
その私の姿を憎悪のこもった眼でヘンリーが見ていることには気付かないまま―。
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