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20 気を遣う私
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席を探してキョロキョロしていると、不意に声を掛けられた。
「ここ、空いてるよ。」
「え?」
見ると、そこには2人掛けの丸テーブルに座ってアイスコーヒーを飲んでいる男子学生がいた。
「あの・・いいんですか?」
「ああ、別に構わないよ。もともと俺は1人でこの席に座っていたんだから。」
私を見上げているのは、黒い髪に青い瞳の整った顔立ちの青年だった。
「すみません。それでは相席させて頂きます。」
お礼を述べて腰を降ろすと彼は言った。
「ねえ?何も食べないつもり?ここはセルフサービスの学食だから座っていても誰も注文を取りに来ないよ?」
「あ、そ・そうでしたね?教えていただき、ありがとうございます。」
そこで私は持っていた学生カバンからハンカチとメモ帳を取り出してテーブルの上に置いた。
「・・・。」
彼は私のそんな様子をじっと見つめると尋ねてきた。
「君・・・何してるの?」
「え・・?あの・・自分の席を確保しておくために荷物をおいているのですけど?」
「別にそんな事する必要はないだろう?俺がここにいるんだから。」
「え・・・でも・・?そのアイスコーヒーを飲み終えれば食事終わりなんでよね?」
「ああ、そうだよ。」
「それなら、もうこの席を立つという事ですよね?」
「まあ、本来ならね・・・でも君を相席に誘っておいて、食事を注文しに行っている間に勝手にいなくはならないよ。そんなことをしたら君だって困るだろう?置いておいた荷物をどかされて席を横取りされてしまうかもしれないし、置き引きされてしまうかもしれない・・。」
「はい・・だから仮に盗まれてもあまり差し支えないものを置いて料理を持ってこようかと思って・・。」
すると学生は言った。
「君は・・・平民だったのかな?その身なりからして貴族だとばかり思っていたけど・・?」
この学園は全校生徒の4分の3が貴族で構成され・・残りは平民で優秀な学生たちが集まっている。平民の彼らは貴族の寄付金によって学費かなり割り引かれているのだ。
「い、いいえ・・・一応子爵家ではありますが・・・。」
「そうかい、あまりに人に気を使うタイプの女性だからてっきり、平民出身の女子学生なのかと思ったよ。ふ~ん・・・なら、あの2人も貴族なのかな?」
え?
彼が向いた方向には、いつの間にかもう料理を頼んでいたのか、楽し気に仲良さそうに食事をしているヘンリーとキャロルの姿があった。・・何てお似合いの2人なのだろう・・・。思わずぼんやり見ていると彼が声を掛けてきた。
「ほら、ここで待ってるから早く料理注文しておいでよ。」
「あ、すみません。すぐに行ってきますね。」
私は慌てて注文カウンターへと向かった―。
****
「すみません、お待たせしました。」
料理を取ってきた私は本を読んでいる彼に声を掛けた。
「お帰り、随分早かった・・・ね・・・?」
彼は私が手にしている食事を見て怪訝そうな顔で見つめてきた。
「あの・・何か?」
椅子をカタンとひいて座ると彼は尋ねてきた。
「ねえ・・?それが本当に君の今日のランチなのかい?」
私がトレーに乗せて持ってきたのは紙袋に入っている小さなロールパン3個と紙コップに入った牛乳だった。
「は、はい・・そうですけど・・?」
「ひょっとしてお金がなかったの?」
「いえ、お金なら持ってます。」
「なら・・どうして・・・?あ、いや・・・こんな言い方したら気に障るかもしれないけど・・・どうしてそんな貧相なメニューにしたんだい?」
「あの・・お待たせしてはいけないと思って・・一番早く持ってこれるメニューを選びました。」
だって・・・いつもそうしてきたから。ヘンリーは待たされるのが大嫌いだから、いつも私は出来るだけ彼を待たせないようにしてきた。
「君って・・・余程今まで誰かに気を使って生きて来たんだね・・?でもそんな事気にする必要はないのに・・。」
そして彼はガタンと席を立った。
「あ?帰るんですね?どうもありがとうございました。」
お礼を言うと、何故か奇妙な顔をされてしまった。
「君・・さ・・。」
「?」
「いや・・何でもない。食べながら待っていて。」
それだけ言うと、彼は席を立ってしまった―。
「ここ、空いてるよ。」
「え?」
見ると、そこには2人掛けの丸テーブルに座ってアイスコーヒーを飲んでいる男子学生がいた。
「あの・・いいんですか?」
「ああ、別に構わないよ。もともと俺は1人でこの席に座っていたんだから。」
私を見上げているのは、黒い髪に青い瞳の整った顔立ちの青年だった。
「すみません。それでは相席させて頂きます。」
お礼を述べて腰を降ろすと彼は言った。
「ねえ?何も食べないつもり?ここはセルフサービスの学食だから座っていても誰も注文を取りに来ないよ?」
「あ、そ・そうでしたね?教えていただき、ありがとうございます。」
そこで私は持っていた学生カバンからハンカチとメモ帳を取り出してテーブルの上に置いた。
「・・・。」
彼は私のそんな様子をじっと見つめると尋ねてきた。
「君・・・何してるの?」
「え・・?あの・・自分の席を確保しておくために荷物をおいているのですけど?」
「別にそんな事する必要はないだろう?俺がここにいるんだから。」
「え・・・でも・・?そのアイスコーヒーを飲み終えれば食事終わりなんでよね?」
「ああ、そうだよ。」
「それなら、もうこの席を立つという事ですよね?」
「まあ、本来ならね・・・でも君を相席に誘っておいて、食事を注文しに行っている間に勝手にいなくはならないよ。そんなことをしたら君だって困るだろう?置いておいた荷物をどかされて席を横取りされてしまうかもしれないし、置き引きされてしまうかもしれない・・。」
「はい・・だから仮に盗まれてもあまり差し支えないものを置いて料理を持ってこようかと思って・・。」
すると学生は言った。
「君は・・・平民だったのかな?その身なりからして貴族だとばかり思っていたけど・・?」
この学園は全校生徒の4分の3が貴族で構成され・・残りは平民で優秀な学生たちが集まっている。平民の彼らは貴族の寄付金によって学費かなり割り引かれているのだ。
「い、いいえ・・・一応子爵家ではありますが・・・。」
「そうかい、あまりに人に気を使うタイプの女性だからてっきり、平民出身の女子学生なのかと思ったよ。ふ~ん・・・なら、あの2人も貴族なのかな?」
え?
彼が向いた方向には、いつの間にかもう料理を頼んでいたのか、楽し気に仲良さそうに食事をしているヘンリーとキャロルの姿があった。・・何てお似合いの2人なのだろう・・・。思わずぼんやり見ていると彼が声を掛けてきた。
「ほら、ここで待ってるから早く料理注文しておいでよ。」
「あ、すみません。すぐに行ってきますね。」
私は慌てて注文カウンターへと向かった―。
****
「すみません、お待たせしました。」
料理を取ってきた私は本を読んでいる彼に声を掛けた。
「お帰り、随分早かった・・・ね・・・?」
彼は私が手にしている食事を見て怪訝そうな顔で見つめてきた。
「あの・・何か?」
椅子をカタンとひいて座ると彼は尋ねてきた。
「ねえ・・?それが本当に君の今日のランチなのかい?」
私がトレーに乗せて持ってきたのは紙袋に入っている小さなロールパン3個と紙コップに入った牛乳だった。
「は、はい・・そうですけど・・?」
「ひょっとしてお金がなかったの?」
「いえ、お金なら持ってます。」
「なら・・どうして・・・?あ、いや・・・こんな言い方したら気に障るかもしれないけど・・・どうしてそんな貧相なメニューにしたんだい?」
「あの・・お待たせしてはいけないと思って・・一番早く持ってこれるメニューを選びました。」
だって・・・いつもそうしてきたから。ヘンリーは待たされるのが大嫌いだから、いつも私は出来るだけ彼を待たせないようにしてきた。
「君って・・・余程今まで誰かに気を使って生きて来たんだね・・?でもそんな事気にする必要はないのに・・。」
そして彼はガタンと席を立った。
「あ?帰るんですね?どうもありがとうございました。」
お礼を言うと、何故か奇妙な顔をされてしまった。
「君・・さ・・。」
「?」
「いや・・何でもない。食べながら待っていて。」
それだけ言うと、彼は席を立ってしまった―。
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