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8 2人の為に気配を隠して
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ガラガラガラガラ・・・
走り続ける馬車の中。2人は窓の外を眺めながら仲良さげに話している。私は2人の邪魔にならないように息をひそめて、反対側の窓から見える景色を眺めていた。
それにしても・・ヘンリーは何所へ連れて行ってくれるのだろう?出来ればあまり遠くへは行かないで欲しい。何故なら馬車が止まったら、私はそこで2人きりにしてあげようと思っていたから。
チラリと横目で2人の様子を伺うと、ヘンリーとキャロルは楽しそうに微笑みながら話をしている。・・本当にお似合いの2人だと思った。ヘンリーは私と会っているとき、一度もあんな笑顔を見せてくれた事は無かった。きっと・・・ヘンリーにとって私と会っている時間は・・苦痛でしか無かったのかもしれない。楽しいと思っていたのは私だけだったのだ。私は・・ずっと今までヘンリーから貴重な時間を奪っていたんだ・・。何て酷いことをしてしまっていたのだろう・・。改めてヘンリーに対して申し訳ない気持ちで一杯になった。でも・・今はキャロルと楽しそうに笑いあっている。それにキャロルも幸せそうだ。
良かった・・・2人を引き合わせてあげられて・・・。
私は、無理やり自分にそう言い聞かせた―。
****
馬車は暫く走り続け・・・突然ピタリと止まった。
「着いたよ、キャロル。」
ヘンリーがキャロルに声を掛けたので、私は初めてここがどこなのか分った。窓の外を見ると、そこには動物園があった。
「まあ。動物園ね?」
キャロルが嬉しそうに声を上げているのを私は黙って聞いていた。
キイ~・・・。
御者の若い男性がドアを開けて、じっと私を見つめていたがおもむろに手を伸ばして来た。
「どうぞ、降りて下さい。」
御者の男性の顔には・・・私に対する同情の表情が浮かんでいた。きっと彼は私が許嫁であるヘンリーに馬車に乗るときに手も貸してもらえず、自分でドアを閉めた姿を見て・・気の毒に思ってくれたのかもしれない。思わず目頭が熱くなりかけたけれども、私はそれを必死にこらえてお礼を言った。
「ありがとう。」
そして彼の手を借りて、私は馬車から降りた。
「キャロル、気を付けて降りるんだよ。」
私が降りるとすぐにヘンリーが降りて、キャロルに手を差し出す。私はそれを見ない様に視線をそらせていた。
「それじゃ、俺達が戻るまでお前はここで待っていろよ。」
ヘンリーは御者の男性に命じる。
「はい、かしこまりました。」
御者の男性は帽子を取って頭を深々と下げた。
「よし、それじゃ行こうか。」
ヘンリーがキャロルに声を掛けた。
「ええ、そうね。行きましょう、テア。」
キャロルが少し2人から距離を空けて立っていた私を振り返ると言った。その時でさえ、やはりヘンリーは険しい顔で私を見る。ここは・・気を利かせないといけない。
「あ、あのね・・・ここから先は2人で行って来て。私は1人で自由に見て回りたいから。」
「え・・・?そうなの・・?」
キャロルの顔が曇るけれどもヘンリーの顔は明らかに嬉しそうに見えた。
「ええ。ごめんね・・・。キャロル。ヘンリー・・・。」
「キャロル、テアがああ言ってるから・・2人で回ろう。」
ヘンリーがキャロルに手を差し伸べた。
「ええ・・・。」
キャロルは申し訳なさげに私を見た。
「あのね・・・後私はここから1人で帰るから。2人でゆっくりしてきて。」
「そう?テアがそこまで言うなら・・・。」
言いながらキャロルはチラリとヘンリーを見る。やっぱり・・キャロルもヘンリーの事が気になっていたんだ。
「ええ。それじゃ・・私、先に行くわね。」
そして私は2人の前をさっさと歩きだした。動物園を一周したら・・ここを出て何処かで時間を潰してから辻馬車を拾って帰ろう・・・。
私は心の中でそう決めた―。
走り続ける馬車の中。2人は窓の外を眺めながら仲良さげに話している。私は2人の邪魔にならないように息をひそめて、反対側の窓から見える景色を眺めていた。
それにしても・・ヘンリーは何所へ連れて行ってくれるのだろう?出来ればあまり遠くへは行かないで欲しい。何故なら馬車が止まったら、私はそこで2人きりにしてあげようと思っていたから。
チラリと横目で2人の様子を伺うと、ヘンリーとキャロルは楽しそうに微笑みながら話をしている。・・本当にお似合いの2人だと思った。ヘンリーは私と会っているとき、一度もあんな笑顔を見せてくれた事は無かった。きっと・・・ヘンリーにとって私と会っている時間は・・苦痛でしか無かったのかもしれない。楽しいと思っていたのは私だけだったのだ。私は・・ずっと今までヘンリーから貴重な時間を奪っていたんだ・・。何て酷いことをしてしまっていたのだろう・・。改めてヘンリーに対して申し訳ない気持ちで一杯になった。でも・・今はキャロルと楽しそうに笑いあっている。それにキャロルも幸せそうだ。
良かった・・・2人を引き合わせてあげられて・・・。
私は、無理やり自分にそう言い聞かせた―。
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馬車は暫く走り続け・・・突然ピタリと止まった。
「着いたよ、キャロル。」
ヘンリーがキャロルに声を掛けたので、私は初めてここがどこなのか分った。窓の外を見ると、そこには動物園があった。
「まあ。動物園ね?」
キャロルが嬉しそうに声を上げているのを私は黙って聞いていた。
キイ~・・・。
御者の若い男性がドアを開けて、じっと私を見つめていたがおもむろに手を伸ばして来た。
「どうぞ、降りて下さい。」
御者の男性の顔には・・・私に対する同情の表情が浮かんでいた。きっと彼は私が許嫁であるヘンリーに馬車に乗るときに手も貸してもらえず、自分でドアを閉めた姿を見て・・気の毒に思ってくれたのかもしれない。思わず目頭が熱くなりかけたけれども、私はそれを必死にこらえてお礼を言った。
「ありがとう。」
そして彼の手を借りて、私は馬車から降りた。
「キャロル、気を付けて降りるんだよ。」
私が降りるとすぐにヘンリーが降りて、キャロルに手を差し出す。私はそれを見ない様に視線をそらせていた。
「それじゃ、俺達が戻るまでお前はここで待っていろよ。」
ヘンリーは御者の男性に命じる。
「はい、かしこまりました。」
御者の男性は帽子を取って頭を深々と下げた。
「よし、それじゃ行こうか。」
ヘンリーがキャロルに声を掛けた。
「ええ、そうね。行きましょう、テア。」
キャロルが少し2人から距離を空けて立っていた私を振り返ると言った。その時でさえ、やはりヘンリーは険しい顔で私を見る。ここは・・気を利かせないといけない。
「あ、あのね・・・ここから先は2人で行って来て。私は1人で自由に見て回りたいから。」
「え・・・?そうなの・・?」
キャロルの顔が曇るけれどもヘンリーの顔は明らかに嬉しそうに見えた。
「ええ。ごめんね・・・。キャロル。ヘンリー・・・。」
「キャロル、テアがああ言ってるから・・2人で回ろう。」
ヘンリーがキャロルに手を差し伸べた。
「ええ・・・。」
キャロルは申し訳なさげに私を見た。
「あのね・・・後私はここから1人で帰るから。2人でゆっくりしてきて。」
「そう?テアがそこまで言うなら・・・。」
言いながらキャロルはチラリとヘンリーを見る。やっぱり・・キャロルもヘンリーの事が気になっていたんだ。
「ええ。それじゃ・・私、先に行くわね。」
そして私は2人の前をさっさと歩きだした。動物園を一周したら・・ここを出て何処かで時間を潰してから辻馬車を拾って帰ろう・・・。
私は心の中でそう決めた―。
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