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続・滅亡したオーランド王国の国王と王女たちの物語 2
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私は今、猛烈に焦っていた。何故なら―。
「くっそ~…ここまできてレベッカの足がかりが全く掴めなくなるとは…」
大衆食堂にやってきた私たちはこの店で一番安い『本日のおすすめセット』を食べながら今後の計画を立てていた。
「とにかく聞き込みよ。レベッカは海を越えているのだから港で聞き込みをするのが一番なのよ!」
レベッカの足取りを掴もうと躍起になるジョセフィーヌが鼻息を荒くしながら私たちに訴える。
私とジョセフィーヌは共にレベッカを追い求め者同士だが、それぞれの目的は違う。私は可愛いレベッカをキング一味から保護する為、そしてジョセフィーヌはレベッカを拉致監禁するのが目的なのだ。
…何としてもジョセフィーヌの裏をかいて、レベッカを安全な場所に保護してやらなければ…。
そうだ。先に私がレベッカを誰よりも早く見つけて、人目につかない場所にかくまってやればよいのだ。
「けれど、レベッカの足取りがつかめても私たちは路銀が底をついているのよ?ただで船に乗せてくれる人たちがいるとでも思っているの?やはりまず私たちが一番初めにすることは、ここで働いて路銀を稼ぐことよ。幸い、ここは大きな港町。レストランも沢山あるから、あちこちで求人を出しているはずよ。まずは働くのよ!このままではウェイトレスとして養ってきた私の勘が狂ってくるわ!」
もはやエリザベスはプロの仕事人だ。まさかここまでウェイトレスの仕事に情熱を傾けるとは思いもしなかった。城で王女として暮らしていた時は皿すら運んだことが無いのに、今では頭の上に食器が乗ったトレーを載せても平気で歩くことが出来るのだから。
…我が娘ながら恐るべし才能を秘めている。
「もう私はこれ以上何処にも行きたくないって言ってるでしょう?何処かに骨をうずめて静かに暮らしたいのよっ!流離の旅人から足を洗いたいのよっ!ここは幸い大きな港町で海もきれいな場所だし、ここで静かな余生を生きたいわ!」
…親不孝者のエミリーめ。
一番この中で年齢が若い癖に、もう静かな余生を送りたいだの戯けた事を抜かしおって…。
ひょっとするとエミリーの精神年齢は私よりも上なのかもしれない。
「ちょっと!お父様っ!さっきから黙ってお酒ばかり飲んで…いい加減にしてよっ!前から言っているでしょう?!今の私達には余分なものにお金をかけることが出来ないって!」
財布のひもを握りしめているエリザベスがテーブルをバンバン叩きながら文句を言ってきた。
「うるさいっ!こんな安酒なんだから、ちょっとぐらい飲んでもいいだろう?第一こんなくそまずい大衆食堂、酒でも飲まなければ口にできるかっ!」
すると…。
「何だ…お客さん…俺の料理にイチャモンつける気かよ…」
背後で声が聞こえ、振り向くとそこには柄の悪そうなマッチョな男がコック服を着て立っていた。
まさか、こんなマッチョマンがシェフなのか…?すると親不孝娘のエミリーがきっぱりと言った。
「ええ、そうね。はっきり言ってこの店の食事はまずいわ」
「何だとコラァッ!このアマ…喧嘩売ってるのかっ?!」
筋肉男がエミリーにすごんできた。
「ええ、まずいものはまずいわ。はっきり言って塩の量が多すぎるのよ。折角海の幸にめぐまれているのだから、味付けは塩に頼らずに魚介類と野菜を煮込んで、うまみのエキスを作り上げて料理に生かすべきね」
エミリーはスラスラと馬鹿舌シェフにアドバイスする。
「な、何…?貴様…ただの素人じゃないな…?」
「ええ、そうよ。私をただの女だと思ってなめないでよね?」
不敵に笑うエミリー。
そう、親不孝者エミリーは神のごとき、素晴らしき舌を持ち合わせているのだ。一度その料理を口にすれば、どんな調味料が使われているか、分析できる能力の持ち主なのだ。
「た、頼むっ!もっと俺に料理のアドバイスをくれっ!」
不意にマッチョマンは土下座してきた、
「ええ、いいわよ。ただし、ここの飲食代を全てタダにしてくれたらね?」
「ああ、勿論タダにしてやる!いや、それどころか謝礼金を支払ってもいい!」
「あら?本当?なら厨房に案内してもらおうかしら?」
「ああ、勿論だ!」
そしてエミリーはマッチョマンと一緒に厨房へと足を向けた。
…前言撤回。
ひょっとすると一番の親孝行娘はエミリーなのかもしれない―。
「くっそ~…ここまできてレベッカの足がかりが全く掴めなくなるとは…」
大衆食堂にやってきた私たちはこの店で一番安い『本日のおすすめセット』を食べながら今後の計画を立てていた。
「とにかく聞き込みよ。レベッカは海を越えているのだから港で聞き込みをするのが一番なのよ!」
レベッカの足取りを掴もうと躍起になるジョセフィーヌが鼻息を荒くしながら私たちに訴える。
私とジョセフィーヌは共にレベッカを追い求め者同士だが、それぞれの目的は違う。私は可愛いレベッカをキング一味から保護する為、そしてジョセフィーヌはレベッカを拉致監禁するのが目的なのだ。
…何としてもジョセフィーヌの裏をかいて、レベッカを安全な場所に保護してやらなければ…。
そうだ。先に私がレベッカを誰よりも早く見つけて、人目につかない場所にかくまってやればよいのだ。
「けれど、レベッカの足取りがつかめても私たちは路銀が底をついているのよ?ただで船に乗せてくれる人たちがいるとでも思っているの?やはりまず私たちが一番初めにすることは、ここで働いて路銀を稼ぐことよ。幸い、ここは大きな港町。レストランも沢山あるから、あちこちで求人を出しているはずよ。まずは働くのよ!このままではウェイトレスとして養ってきた私の勘が狂ってくるわ!」
もはやエリザベスはプロの仕事人だ。まさかここまでウェイトレスの仕事に情熱を傾けるとは思いもしなかった。城で王女として暮らしていた時は皿すら運んだことが無いのに、今では頭の上に食器が乗ったトレーを載せても平気で歩くことが出来るのだから。
…我が娘ながら恐るべし才能を秘めている。
「もう私はこれ以上何処にも行きたくないって言ってるでしょう?何処かに骨をうずめて静かに暮らしたいのよっ!流離の旅人から足を洗いたいのよっ!ここは幸い大きな港町で海もきれいな場所だし、ここで静かな余生を生きたいわ!」
…親不孝者のエミリーめ。
一番この中で年齢が若い癖に、もう静かな余生を送りたいだの戯けた事を抜かしおって…。
ひょっとするとエミリーの精神年齢は私よりも上なのかもしれない。
「ちょっと!お父様っ!さっきから黙ってお酒ばかり飲んで…いい加減にしてよっ!前から言っているでしょう?!今の私達には余分なものにお金をかけることが出来ないって!」
財布のひもを握りしめているエリザベスがテーブルをバンバン叩きながら文句を言ってきた。
「うるさいっ!こんな安酒なんだから、ちょっとぐらい飲んでもいいだろう?第一こんなくそまずい大衆食堂、酒でも飲まなければ口にできるかっ!」
すると…。
「何だ…お客さん…俺の料理にイチャモンつける気かよ…」
背後で声が聞こえ、振り向くとそこには柄の悪そうなマッチョな男がコック服を着て立っていた。
まさか、こんなマッチョマンがシェフなのか…?すると親不孝娘のエミリーがきっぱりと言った。
「ええ、そうね。はっきり言ってこの店の食事はまずいわ」
「何だとコラァッ!このアマ…喧嘩売ってるのかっ?!」
筋肉男がエミリーにすごんできた。
「ええ、まずいものはまずいわ。はっきり言って塩の量が多すぎるのよ。折角海の幸にめぐまれているのだから、味付けは塩に頼らずに魚介類と野菜を煮込んで、うまみのエキスを作り上げて料理に生かすべきね」
エミリーはスラスラと馬鹿舌シェフにアドバイスする。
「な、何…?貴様…ただの素人じゃないな…?」
「ええ、そうよ。私をただの女だと思ってなめないでよね?」
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そう、親不孝者エミリーは神のごとき、素晴らしき舌を持ち合わせているのだ。一度その料理を口にすれば、どんな調味料が使われているか、分析できる能力の持ち主なのだ。
「た、頼むっ!もっと俺に料理のアドバイスをくれっ!」
不意にマッチョマンは土下座してきた、
「ええ、いいわよ。ただし、ここの飲食代を全てタダにしてくれたらね?」
「ああ、勿論タダにしてやる!いや、それどころか謝礼金を支払ってもいい!」
「あら?本当?なら厨房に案内してもらおうかしら?」
「ああ、勿論だ!」
そしてエミリーはマッチョマンと一緒に厨房へと足を向けた。
…前言撤回。
ひょっとすると一番の親孝行娘はエミリーなのかもしれない―。
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