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アマゾナの物語 5
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『アマゾナのお宿』は午後2時から午後6時迄は休憩時間になっている。今の時間は午後3時で丁度中休みの最中なのだ。ヤング一家は以前リーゼロッテが仮住まいしていた家に住み、今彼らは全員帰宅している。私は誰もいないホールで1人コーヒーを飲んで休憩していると、扉が開く音が聞こえた。
ギィ~…
3人の男達が入ってきた。
「すみませんね、今は休憩中なんですよ」
私は店に入って来た男たちに声を掛けた。すると初老の男が口を開いた。
「いや、我々は旅人なのだ。見た処、ここは宿屋であろう?宿泊をしたいのだがいいかね?」
みすぼらしい身なりのくせに随分大層な口を聞く男だ。
「はい。今宿屋は全室空いているから別に構いませんよ。それで相部屋と個室、どちらが宜しいですか?」
すると背後に立つ若い男が言った。
「僕は個室がいいな。たまには1人でゆっくり過ごしたいよ」
するともう1人マントを羽織った男は何故かフードを目深に被り、顔を見せないようにして口を開いた。
「俺も個室がいい」
「それなら全員個室と言う事ですね?ではお部屋へ案内しますね」
やれやれ…少しは休憩できると思ったのに。私は重い腰を挙げると先に立ち、ホールの奥にある階段を昇り始めた。その後ろを3人の男たちもついて来る。
「どうぞ、こちらの3部屋をご自由にお使いください」
階段を昇り切ると、両サイドに伸びる板張りの廊下がある。その廊下に面して合せて10部屋並んでいる。そして私は1号室から3号室までを3人に割り当てると言った。
「あいにくルームサービスは行っていないので食事は下のホールに食べに降りて来てください。食堂は午後6時から開店です」
「ああ、分った」
「有難う」
「…」
初老の男と1人の若者は返事をしたが、フードを被った男は無言だった。何だか愛想もないし、顔を隠している…?妙な男だと思いつつ、私は階下へ降りて行った―。
****
午後6時半―
『アマゾナのお宿』の食堂はすでに満席に近かった。客は殆ど男ばかりで、お目当ては料理では無く、新しくホールに入ったエリザベスとエミリーが目的なのはみえみえだった。
「はい、こちらのお客様は日替わり定食ですね?それでそちらのお客様はグリル定食、そしてお2人共地酒をジョッキでですね?かしこまりました」
エリザベスがてきぱきとオーダーを取っている。
「お待たせ致しました!賄い風野菜の野菜のごった煮定食でございます!あ、お冷が無くなりそうですね。ただいま持って参ります!」
テーブル席に料理を運んできたエミリーが素早く空のコップを下げ、厨房へ向かう。さすらいの仕事人と豪語するだけあって、確かにあの2人は良い働きをしている。私も負けていられないねっ!
「はい!『アルト定食』おまちどうっ!」
私は声を張り上げて、常連客のテーブルに注文の料理をドンッと置いた。
「アマゾナ、良い娘たちを雇ったじゃないか」
常連客の男が言う。
「ああ。本当に助かるよ」
「そうだな、あのリーゼロッテとは大違いだ」
この男はリーゼロッテに相手にされず、彼女を恨んでいたのだ。その時。階段から例の宿泊客達が降りて来た。
「おや?宿泊客がいたのかい?」
常連の男が尋ねた。
「ああ。久しぶりの客だからね。それじゃ私は注文を聞いて来るよ」
私は早速3人の元へ向かった。
「いらっしゃい、お客さん達」
テーブル席に着いた3人に声を掛けると、手にしていたメニューを渡す。
「ああ、かたじけない」
初老の男性が声をかける。
「有難う」
若い男も礼を言うが、フード男は相変わらず無言だ。すると初老の男が口を開いた。
「おい、アレックス。いい加減にそのフードを取らないか」
「ば、馬鹿っ!名前を言うなっ!」
フード男は焦った声を出す。
ん…?アレックス…?何処かで聞いたような…?私はその名前に聞覚えがあった。
その時―
カランカラン
ドアベルがなってまた1人、客がやって来た。
その客は…リーゼロッテだった―。
ギィ~…
3人の男達が入ってきた。
「すみませんね、今は休憩中なんですよ」
私は店に入って来た男たちに声を掛けた。すると初老の男が口を開いた。
「いや、我々は旅人なのだ。見た処、ここは宿屋であろう?宿泊をしたいのだがいいかね?」
みすぼらしい身なりのくせに随分大層な口を聞く男だ。
「はい。今宿屋は全室空いているから別に構いませんよ。それで相部屋と個室、どちらが宜しいですか?」
すると背後に立つ若い男が言った。
「僕は個室がいいな。たまには1人でゆっくり過ごしたいよ」
するともう1人マントを羽織った男は何故かフードを目深に被り、顔を見せないようにして口を開いた。
「俺も個室がいい」
「それなら全員個室と言う事ですね?ではお部屋へ案内しますね」
やれやれ…少しは休憩できると思ったのに。私は重い腰を挙げると先に立ち、ホールの奥にある階段を昇り始めた。その後ろを3人の男たちもついて来る。
「どうぞ、こちらの3部屋をご自由にお使いください」
階段を昇り切ると、両サイドに伸びる板張りの廊下がある。その廊下に面して合せて10部屋並んでいる。そして私は1号室から3号室までを3人に割り当てると言った。
「あいにくルームサービスは行っていないので食事は下のホールに食べに降りて来てください。食堂は午後6時から開店です」
「ああ、分った」
「有難う」
「…」
初老の男と1人の若者は返事をしたが、フードを被った男は無言だった。何だか愛想もないし、顔を隠している…?妙な男だと思いつつ、私は階下へ降りて行った―。
****
午後6時半―
『アマゾナのお宿』の食堂はすでに満席に近かった。客は殆ど男ばかりで、お目当ては料理では無く、新しくホールに入ったエリザベスとエミリーが目的なのはみえみえだった。
「はい、こちらのお客様は日替わり定食ですね?それでそちらのお客様はグリル定食、そしてお2人共地酒をジョッキでですね?かしこまりました」
エリザベスがてきぱきとオーダーを取っている。
「お待たせ致しました!賄い風野菜の野菜のごった煮定食でございます!あ、お冷が無くなりそうですね。ただいま持って参ります!」
テーブル席に料理を運んできたエミリーが素早く空のコップを下げ、厨房へ向かう。さすらいの仕事人と豪語するだけあって、確かにあの2人は良い働きをしている。私も負けていられないねっ!
「はい!『アルト定食』おまちどうっ!」
私は声を張り上げて、常連客のテーブルに注文の料理をドンッと置いた。
「アマゾナ、良い娘たちを雇ったじゃないか」
常連客の男が言う。
「ああ。本当に助かるよ」
「そうだな、あのリーゼロッテとは大違いだ」
この男はリーゼロッテに相手にされず、彼女を恨んでいたのだ。その時。階段から例の宿泊客達が降りて来た。
「おや?宿泊客がいたのかい?」
常連の男が尋ねた。
「ああ。久しぶりの客だからね。それじゃ私は注文を聞いて来るよ」
私は早速3人の元へ向かった。
「いらっしゃい、お客さん達」
テーブル席に着いた3人に声を掛けると、手にしていたメニューを渡す。
「ああ、かたじけない」
初老の男性が声をかける。
「有難う」
若い男も礼を言うが、フード男は相変わらず無言だ。すると初老の男が口を開いた。
「おい、アレックス。いい加減にそのフードを取らないか」
「ば、馬鹿っ!名前を言うなっ!」
フード男は焦った声を出す。
ん…?アレックス…?何処かで聞いたような…?私はその名前に聞覚えがあった。
その時―
カランカラン
ドアベルがなってまた1人、客がやって来た。
その客は…リーゼロッテだった―。
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