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滅亡したオーランド王国の国王と皇女たちの物語 1
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私の名前はデニス・ヤング。
今はこのように麻布で作られたみすぼらしい服を着用しているが、かつて私は海に囲まれた島々の一つ、オーランド王国の国王だった。世間からは弱小国家だと鼻で馬鹿にされてはいたが、それなりに、そこそこの生活をおくれていた。
漁をする為に船を出せば、そこそこ魚は捕れたし、鉱山ではそこそこの鉱石が取れた。しかし、何より優れていたのは1年中、穏やかな環境に恵まれていた事だった。
そう、第4皇女のレベッカをグランダ王国に嫁がせるまでは…。
政略結婚で一番年若いレベッカをグランダ王国に嫁がせてからと言う物、どうにも様子がおかしくなってきた。海に船を出しても魚は殆ど捕れず、何よりも我が国の一番の収入源であった鉱石が全く取れなくなってしまったのだ。
異変はそれだけにとどまらなかった。
あれ程温暖だった気候は嘘のように一転し、年がら年中嵐のような気候に襲われ、作物は育たなくなってしまった。生活のめどが立たなくなった島民たちは次々と島を離れ、近隣の島々へと移り住んでしまい、税収が見込めなくなってしまった。家臣たちも次々と城を離れて行く有様だった。
そしてオーランド王国とは反比例するかの如く、グランダ王国が栄えてきていると言う話が風の噂で私の耳にも届いて来た。
何でも海に出れば大漁、そして何故か城の裏手にある山に突如として鉱石が採掘出来る様になったという。全く運のいい奴らめ…。レベッカが嫁いでからはグランダ王国はますます裕福になって行く一方、我が国はどんどん衰退してゆくなんて話が出来過ぎている。
その時、ある事に気が付いた。
ひょっとすると、レベッカに何か関係があるのではないかと。考えてみればあれの母親には不思議な…まるで神がかったかのような力を持っていた。ひょっとすると我が娘にもそのような力があったのではないかと…。しかし、気付いたときにはもう手遅れだった。
あの日…突如我が島を巨大竜巻が襲いかかり、城を吹き飛ばしてしまったのだ。
幸い私と娘たちは地下シェルターに隠れていたので難を逃れたが、我らは全てを失ってしまったのだった―。
****
「お父様…いつまでこんな生活を続けなくちゃいけないのよ…」
ガタガタと揺れる荷台の上でボサボサ頭に麻布のごわついたワンピースを着た長女のジョセフィーヌが恨めしそうな目で泣き言を言う。
「そうよ!私達は皇女だったのに…何故、こんな肌触りの悪い、まるで奴隷のような服を着なくちゃいけないのよ!」
次女のエリザベスは自分のドレスをつまみながら私を睨み付けてきた。
「あー!もう、毎日毎日こんな黒パンばかり食べていられないわっ!」
三女で一番親不孝なエミリーが持っていた黒パンを道端に投げ捨ててしまった!
もう我慢の限界だ!馬車を止めるとエミリーを振り返り怒鳴りつけた。
「エミリーッ!!何て罰当たりな事をした!あの黒パンを買う為に私は何時間物乞いをしたと思う?!」
するとジョセフィーヌが言った。
「何よっ!物乞いでお金を貰うなんて最低よっ!食堂で私は皿洗いをしてお金を稼いでいるのよ?!」
「なによ。年増だから裏方作業の仕事しか与えて貰えないくせにえばっちゃって!私なんかホールでウェイトレスをしてるのよ?!」
次女のエリザベスが口を挟んできた。
「うるさい!今問題視してるのはエミリーの事だ!働きもせずに黒パンを捨ておった!今すぐ拾ってこい!」
「いやよ!誰が落ちたパンを拾うものですかっ!!」
エミリーは喚く。
「きさま!親に向かって何だ!その態度は!!」
とうとう私は娘のエミリーに切れて親子喧嘩が始まった。一方の長女、次女も姉妹喧嘩を開始していた。
「誰が年増よ!」
「あんたに決まってるでしょ!」
「うるさい!このあばずれめ!男の客に色目ばかり使って!」
「「何ですって~っ!!」」
そしていつもの如く激しい喧嘩が始まり、旅が遅れる。
くそっ!何でこの私がこんな苦労をしなければならないのだ?!
こうなったら一刻も早くグランダ王国に行き、大切な娘、レベッカを我が手に連れ戻さなければ!
待っていろよ?レベッカ!
父さんがお前を迎えにいってやるからな―!
今はこのように麻布で作られたみすぼらしい服を着用しているが、かつて私は海に囲まれた島々の一つ、オーランド王国の国王だった。世間からは弱小国家だと鼻で馬鹿にされてはいたが、それなりに、そこそこの生活をおくれていた。
漁をする為に船を出せば、そこそこ魚は捕れたし、鉱山ではそこそこの鉱石が取れた。しかし、何より優れていたのは1年中、穏やかな環境に恵まれていた事だった。
そう、第4皇女のレベッカをグランダ王国に嫁がせるまでは…。
政略結婚で一番年若いレベッカをグランダ王国に嫁がせてからと言う物、どうにも様子がおかしくなってきた。海に船を出しても魚は殆ど捕れず、何よりも我が国の一番の収入源であった鉱石が全く取れなくなってしまったのだ。
異変はそれだけにとどまらなかった。
あれ程温暖だった気候は嘘のように一転し、年がら年中嵐のような気候に襲われ、作物は育たなくなってしまった。生活のめどが立たなくなった島民たちは次々と島を離れ、近隣の島々へと移り住んでしまい、税収が見込めなくなってしまった。家臣たちも次々と城を離れて行く有様だった。
そしてオーランド王国とは反比例するかの如く、グランダ王国が栄えてきていると言う話が風の噂で私の耳にも届いて来た。
何でも海に出れば大漁、そして何故か城の裏手にある山に突如として鉱石が採掘出来る様になったという。全く運のいい奴らめ…。レベッカが嫁いでからはグランダ王国はますます裕福になって行く一方、我が国はどんどん衰退してゆくなんて話が出来過ぎている。
その時、ある事に気が付いた。
ひょっとすると、レベッカに何か関係があるのではないかと。考えてみればあれの母親には不思議な…まるで神がかったかのような力を持っていた。ひょっとすると我が娘にもそのような力があったのではないかと…。しかし、気付いたときにはもう手遅れだった。
あの日…突如我が島を巨大竜巻が襲いかかり、城を吹き飛ばしてしまったのだ。
幸い私と娘たちは地下シェルターに隠れていたので難を逃れたが、我らは全てを失ってしまったのだった―。
****
「お父様…いつまでこんな生活を続けなくちゃいけないのよ…」
ガタガタと揺れる荷台の上でボサボサ頭に麻布のごわついたワンピースを着た長女のジョセフィーヌが恨めしそうな目で泣き言を言う。
「そうよ!私達は皇女だったのに…何故、こんな肌触りの悪い、まるで奴隷のような服を着なくちゃいけないのよ!」
次女のエリザベスは自分のドレスをつまみながら私を睨み付けてきた。
「あー!もう、毎日毎日こんな黒パンばかり食べていられないわっ!」
三女で一番親不孝なエミリーが持っていた黒パンを道端に投げ捨ててしまった!
もう我慢の限界だ!馬車を止めるとエミリーを振り返り怒鳴りつけた。
「エミリーッ!!何て罰当たりな事をした!あの黒パンを買う為に私は何時間物乞いをしたと思う?!」
するとジョセフィーヌが言った。
「何よっ!物乞いでお金を貰うなんて最低よっ!食堂で私は皿洗いをしてお金を稼いでいるのよ?!」
「なによ。年増だから裏方作業の仕事しか与えて貰えないくせにえばっちゃって!私なんかホールでウェイトレスをしてるのよ?!」
次女のエリザベスが口を挟んできた。
「うるさい!今問題視してるのはエミリーの事だ!働きもせずに黒パンを捨ておった!今すぐ拾ってこい!」
「いやよ!誰が落ちたパンを拾うものですかっ!!」
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「きさま!親に向かって何だ!その態度は!!」
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「「何ですって~っ!!」」
そしていつもの如く激しい喧嘩が始まり、旅が遅れる。
くそっ!何でこの私がこんな苦労をしなければならないのだ?!
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