嫌われた令嬢、ヒルダ・フィールズは終止符を打つ

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第9章 1 カミラとの別れ

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 2月のとある日曜日―

 あれからカミラとアレンの結婚話はトントン拍子に進んでいき、本日カミラは入籍と同時にアレンと共に一緒に暮らす事が決定した。それは同時にヒルダとカミラの同居生活と、2人で暮らしたアパートメントとの別れを意味していた。


「…こうして見ると…このアパートメントって、とても広かったのね…」

家具も何も無くなってしまった部屋の中を見渡し、ヒルダはポツリと呟いた。

「…はい。そうですね…。何だかあっという間の4年間だった気がします」

カミラは感慨深そうに言った。

「カミラ、この部屋を出る前に…私、自分の部屋に戻って忘れ物が無いか見て来るわ」

「ええ、そうですね。お待ちしております」


そしてヒルダは自分の部屋へと向かった。



ギィ~…

木の扉を開けて、ヒルダは室内へと足を踏み入れた。ベッドも机も…ヒルダが愛用していたドレッサーやチェストまで…何もかも無くなっている。全て家具はノワールと一緒に住む家に既に送り届けてあった。

ギシギシと木の床を踏みしめて、ヒルダは部屋の中を見渡した。

(不思議なものだわ…初めてこの部屋に来た時は…あまりの古さと狭さにショックを受けたけど、今ではこんなに愛着がわく部屋になるとは思ってもいなかった…)

そしてこの部屋にはヒルダにとって忘れられない思い出の場所でもあった。それはここでルドルフと肌を重ねた思い出だった。ルドルフがヒルダの耳元で愛を囁き、愛してくれた事は今でもはっきり思い出される。…あの頃のヒルダは本当に幸せだった。

(まさか…愛するルドルフともお兄様ともお別れしてしまう事になるなんて思いもしなかったわ…)

その時、カミラが部屋の中に入ってくると声を掛けて来た。

「ヒルダ様、そろそろ迎えの辻馬車が到着する時間です」

「もうそんな時間だったのね?分ったわ。すぐに出るわ」


そしてヒルダはカミラと共にアパートメントを出た―。


外に出ると、すでにヒルダを乗せる辻馬車が停車していた。

馬車の前でヒルダとカミラはしっかり手を握り合った。

「カミラ。アレン先生と幸せになってね。来月に挙げる2人の結婚式…今からとても楽しみにしているわ」

「ありがとうございます。ヒルダ様。これからはヒルダ様の代わりに診療所でアレン先生のお仕事を手伝いますね」

「ええ、お願いね。週に1度は足の診察で診療所を訪ねるから…いつでも会えるわ」

いつしかヒルダとカミラの目には薄っすら涙が滲んでいた。ヒルダが悲しい時、辛い時…いつも寄り添うように傍にいてくれたカミラ。ヒルダにとってはまるで友人の様な、そして姉の様な大切な存在であった。その彼女とも今日でお別れである。

「カミラ…元気でね」

「ヒルダ様も…!」

そして2人は最後に固く抱き合った―。



「…」

ガラガラと音を立てて走り去っていくヒルダを乗せた辻馬車をカミラはじっと見送っていた。

カミラは気付いていた。

ノワールがヒルダの事を愛していると言う事に。

「ノワール様…どうか、ヒルダ様をよろしくお願いします…」

カミラは小さく呟いた―。



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