上 下
541 / 566

第8章 12 一緒に暮らそう

しおりを挟む
「提案…?一体それはどの様な話なのですか?」

「ああ、そうだ。カミラが結婚してアパートメントを出たら…ヒルダは1人になるだろう?だからその時は…俺と一緒に…」

「ノワール様?」

ヒルダは首を傾げた。

「俺と一緒に…暮らさないか…?」

「え…?」

ヒルダは突然の言葉戸惑った。

「俺も一人暮らしだし…この先も実家に帰るつもりはないんだ。ヒルダは俺のアシスタントをしてくれるだろう?一緒に暮せば何かと便利だし…実は大学を卒業した後は小さな家を借りようかと思っていたんだ。俺と一緒に暮せば家賃だって払わなくて済むし、食費だってかからないだろう?」

ノワールは真剣な目でヒルダを見つめている。

「ノワール様…」

ヒルダにとって、それはまたとない提案だった。けれど…。

「でも、それではご迷惑ではありませんか?とても私にとってはありがたいお話ではありますが…家賃に食費までノワール様のお世話になるのは申し訳なく感じます」

「え?」

ノワールはヒルダの言葉に驚いた。

「それじゃ…ヒルダは俺と暮らす事には抵抗は感じていないのか?」

「はい。正直…本当の事を言うと1人で暮らすのは少し心細さを感じてはいたので嬉しい提案ではありますが、何もかもお世話になるのは申し訳ない気がするので…」

その話を聞いてノワールは思った。

(ヒルダが俺と暮らす事に抵抗を抱いていないのは嬉しいが…ある意味、それは俺のことを男としては意識していないという事なのだろうな…)

でも、それでも良いと思った。カミラがいなくなった場合、ヒルダは1人になってしまう。生活の不安だってあるだろうし、心細いだろうと思っていたのだ。

「迷惑になんか感じるはずないだろう?それに俺は…ヒルダに償いをしたいんだ」

「償い…?」

(一体償いって何の事なのかしら?まさか、お兄様の事…?)

そこでヒルダは言った。

「ノワール様、お兄様の事ならどうか気になさらないで下さい。お兄様は何も悪くはありませんから…」

「いや、それでも俺には責任がある。ヒルダに…希望を持たせるような真似をしてしまったのだから…」

「ノワール様…」

ノワールはヒルダを見つめると言った。

「ヒルダ、それなら俺と一緒に暮らすこと…考えてくれるんだな?」

「え、ええ…そうですね…」

ヒルダが返事をするとノワールは立ち上がった。

「なら、これから早速出掛けないか?」

「え?出かけるって…一体どちらへ?」

「不動産屋だ。どうせ2人で暮らすなら、ヒルダの気に入った物件の家を借りよう」

「え…?」

(まさか、ノワール様は本気で私と一緒に…)

「どうした?出かけよう」

ノワールはヒルダが椅子に座ったままなので声を掛けてきた。

「え?あ、はい。分かりました」


そして2人は一緒に出かけることになった―。



****

 
 2人は隣合わせでバスに乗り、不動産会社を目指していた。

「ノワール様」

ヒルダは隣に座るノワールに声を掛けた。

「どうしたんだ?」

「本当に私と一緒に暮らすおつもりですか?」

「ヒルダ…やっぱり嫌…なのか?」

ヒルダは首を振って答えた。

「いいえ、嫌とかそういうわけではなく私のようなお荷物と一緒に暮らすことが…です」

「誰がお荷物だって?どうしてそう思うんだ?」

ノワールの眉が険しくなる。

「それは私の足が不自由だからです。」

「そんな風に思うはずはないだろう?それとも誰かに何か言われたか?」

「…」

ヒルダは黙ってしまった。足の怪我をしたばかりの頃…ヒルダは悪評にさらされたからだ。

「そうか…やはり誰かに何か言われたんだな?だが俺はヒルダをお荷物なんて思ったこともないし、これからも思うことは無いだろう。だから何も気にすることはないからな?」

「ノワール様…」

ヒルダはノワールを見て、思った。

やはり、エドガーとノワールはよく似ている―と。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻
恋愛
 ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。 「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」  呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。  王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。  その意味することとは?  慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?  なぜこのような状況になったのだろうか?  ご指摘いただき一部変更いたしました。  みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。 今後ともよろしくお願いします。 たくさんのお気に入り嬉しいです! 大変励みになります。 ありがとうございます。 おかげさまで160万pt達成! ↓これよりネタバレあらすじ 第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。 親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。 ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

俺の婚約者は地味で陰気臭い女なはずだが、どうも違うらしい。

ミミリン
恋愛
ある世界の貴族である俺。婚約者のアリスはいつもボサボサの髪の毛とぶかぶかの制服を着ていて陰気な女だ。幼馴染のアンジェリカからは良くない話も聞いている。 俺と婚約していても話は続かないし、婚約者としての役目も担う気はないようだ。 そんな婚約者のアリスがある日、俺のメイドがふるまった紅茶を俺の目の前でわざとこぼし続けた。 こんな女とは婚約解消だ。 この日から俺とアリスの関係が少しずつ変わっていく。

大切なあのひとを失ったこと絶対許しません

にいるず
恋愛
公爵令嬢キャスリン・ダイモックは、王太子の思い人の命を脅かした罪状で、毒杯を飲んで死んだ。 はずだった。 目を開けると、いつものベッド。ここは天国?違う? あれっ、私生きかえったの?しかも若返ってる? でもどうしてこの世界にあの人はいないの?どうしてみんなあの人の事を覚えていないの? 私だけは、自分を犠牲にして助けてくれたあの人の事を忘れない。絶対に許すものか。こんな原因を作った人たちを。

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

愛しいあなたに真実(言葉)は不要だった

cyaru
恋愛
伯爵令嬢のエリツィアナは領地で暮らしていた。 「結婚が出来る15歳になったら迎えに来る」 そこで出会った1人の少年の言葉を信じてみようとルマンジュ侯爵子息のオーウェンとの婚約話を先延ばしにしたが少年は来なかった。 領地から王都に住まうに屋敷は長兄が家族と共に住んでおり部屋がない事から父の弟(叔父)の家に厄介になる事になったが、慈善活動に力を入れている叔父の家では貧しい家の子供たちに文字の読み書きを教えていた。エリツィアナも叔父を手伝い子供たちに文字を教え、本を読みきかせながら、嫁ぎ先となる侯爵家に通う日々が始まった。 しかし、何時になっても正式な婚約が成されないばかりか、突然オーウェンから婚約破棄と慰謝料の請求が突きつけられた。 婚約もしていない状態なのに何故?マルレイ伯爵家一同は首を傾げた。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません。

処理中です...