上 下
520 / 566

第7章 15 待ちぼうけ

しおりを挟む
 18時半―

「ヒルダ様、只今戻りました」

カミラが仕事から帰ってきた。

「お帰りなさい、カミラ」

エプロンをしめたヒルダがリビングから顔を出してきた。部屋の中には美味しそうな料理の匂いが漂っている。

「何だか良い匂いがしますね。何を作られたのですか?」

「あのね、今夜は寒いからシチューを作ったの。お野菜と鶏肉がたっぷりはいっているから美味しく出来たわ」

「それは楽しみですね。では着替えてきますね」

「ええ、器によそって待っているわ」

カミラは部屋に着替えに行った時に思った。

今夜のヒルダ様はどこか幸せそうに見えると―。



「ヒルダ様。人参も甘くて美味しいですし、鶏肉もよい味が出ていますね」

カミラがヒルダの手作りシチューを食べながら言った。

「本当?ありがとう。褒めてもらえて嬉しいわ」

「…」

少しの間、カミラはヒルダの様子を伺っていたが…思い切って尋ねることにした。

「ヒルダ様。何か良いことでもありましたか?今日はエドガー様とお出かけされたのですよね?」

「え、ええ…その事なのだけど…実は…」

ヒルダは本日あった事をカミラに報告した。エドガーに愛を告白されたことを。恋人になってもらえないかと言われたことを。

「そんな事があったのですか…?それで何とお返事をされたのですか?」

「それが咄嗟の事で…すぐに返事をすることが出来なかったの。明日返事をすることになっているのだけど…」

ヒルダの頬が少し赤く染まる。

「もしかすると…」

「実はお兄様からの告白…受けようかと思っているの…」

「そうなのですか…ヒルダ様もようやく決心されたのですね?」

「ええ、私のことをそこまで思ってくれているのなら…気持ちに応えたいと思って…。ルドルフはもう…二度と帰って来ない人だし…」

「エドガー様はヒルダ様の事を本当に好きでいらっしゃいますから、きっと幸せにしてくださると思いますよ?」

「ええ、そうね…」


その後も2人は食事と会話を楽しみ…夜は更けていった―。



*****

 翌日―

カミラが仕事に行った後、ヒルダはエドガーが来るまでの間に洗濯や掃除、全てを終わらせた。そしてエドガーの為にクッキーも焼き上げた。


「お兄様、遅いわ…」

ヒルダは壁に掛けた時計を見た。時刻は12時半になろうとしている。

「約束の時間は11時だったのに…。何故、まだいらっしゃらないのかしら…」

その時―

コンコンコン

部屋の中にドアノッカーの音が響き渡った。

「お兄様だわっ!」

ヒルダは立ち上がり、壁に手を置きながら玄関へ向かうと笑顔で扉を開けた。

「お待ちしておりました…え?」

ヒルダは扉を開けて驚いた。何とそこに立っていたのはノワールだった。ノワールは慌ててやってきたのだろうか…肩で息をしている。

「ヒルダ…」

荒い息を吐きながらヒルダを見下ろすノワール。

「ノ、ノワール様…?一体どうされたのですか…?」

するとノワールは悲しげに顔を歪めると言った。

「ヒルダ…。エドガーは…もう多分二度とここには来ない…」

「え…?」


その言葉にヒルダは息を飲んだ―。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛されていないのですね、ではさようなら。

杉本凪咲
恋愛
夫から告げられた冷徹な言葉。 「お前へ愛は存在しない。さっさと消えろ」 私はその言葉を受け入れると夫の元を去り……

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

悲劇の悪役令嬢は毒を食べた

桜夢 柚枝*さくらむ ゆえ
恋愛
【本編完結】 悪役令嬢は 王子と結ばれようとするお姫様を虐めました。 だから、婚約破棄されたのです。 あくまで悪いのは悪役令嬢。 そんな物語が本当かどうか。 信じるのは貴方次第… コンラリア公爵家のマリアーナは、 ロザセルト王国の王太子のアレクシスの婚約者。 2人は仲つむまじく、素敵な国王と国母になられるだろうと信じられておりました。 そんなお2人の悲しき本当のお話。 ショートショートバージョンは 悪役令嬢は毒を食べた。

【完結】さようなら、婚約者様。私を騙していたあなたの顔など二度と見たくありません

ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
婚約者とその家族に虐げられる日々を送っていたアイリーンは、赤ん坊の頃に森に捨てられていたところを、貧乏なのに拾って育ててくれた家族のために、つらい毎日を耐える日々を送っていた。 そんなアイリーンには、密かな夢があった。それは、世界的に有名な魔法学園に入学して勉強をし、宮廷魔術師になり、両親を楽させてあげたいというものだった。 婚約を結ぶ際に、両親を支援する約束をしていたアイリーンだったが、夢自体は諦めきれずに過ごしていたある日、別の女性と恋に落ちていた婚約者は、アイリーンなど体のいい使用人程度にしか思っておらず、支援も行っていないことを知る。 どういうことか問い詰めると、お前とは婚約破棄をすると言われてしまったアイリーンは、ついに我慢の限界に達し、婚約者に別れを告げてから婚約者の家を飛び出した。 実家に帰ってきたアイリーンは、唯一の知人で特別な男性であるエルヴィンから、とあることを提案される。 それは、特待生として魔法学園の編入試験を受けてみないかというものだった。 これは一人の少女が、夢を掴むために奮闘し、時には婚約者達の妨害に立ち向かいながら、幸せを手に入れる物語。 ☆すでに最終話まで執筆、予約投稿済みの作品となっております☆

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

処理中です...